近年期待が集まり、実証実験が盛んに行われている空飛ぶクルマについて、その概要や実現に向けた課題を紹介します。
「空飛ぶクルマ」に集まる期待と実現に向けた課題:空飛ぶクルマの要素技術(1)

この記事では…
(執筆:一之瀬 隼/ 製造業ライター)
近年、新たな移動手段の1つとして、「空飛ぶクルマ」に注目が集まっており、実現に向けた技術開発や実証実験が進められています。一方で、日常生活を送っている中で空飛ぶクルマの情報に触れる機会がない方がほとんどでしょう。
そこで、空飛ぶクルマを実現できた際のうれしさ、実現に向けた課題を整理し、空飛ぶクルマを少しでも身近に感じてもらえればと思います。また、本連載では特に、空飛ぶクルマを実現するために必要な要素技術を重点に掘り下げていきます。
空飛ぶクルマとは?

読者の皆さんは、「空飛ぶクルマ」という言葉から、どのようなイメージを持つでしょうか?
昔から、映画やアニメなどではさまざまな空飛ぶクルマが描かれてきました。例えば、アニメで描かれるような都市の上空に設置された円環状のコースを通過するタイプ、バックトゥザフューチャーのデロリアンのようなタイプをイメージする方が多いでしょう。
現在議論されている空飛ぶクルマとは、これらとは大きく違います。「空飛ぶクルマ」に明確な定義はありませんが、「電動」「自動操縦」「垂直離着陸」が共通のイメージとなっており、クルマよりもヘリコプターやドローンに近いものです。
空飛ぶクルマは、「eVTOL(Electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)」や「UAM(Urban Air Mobilty)」と呼ばれることもあり、世界各国で開発が進められています。
なぜ空飛ぶクルマに注目が集まっているのか?
空飛ぶクルマに注目が集まっている理由はいくつかありますが、代表的なのは以下の2つです。
・従来の交通ルートに依存しない移動の実現
・陸上からはアクセスできない場所への移動
目的地に到達するまでには、電車やバスなど複数の交通手段を乗り継ぎ、迂回が必要な場合があります。また、山中などでは、そもそも交通手段が整備されていないため移動が困難な場合があります。空飛ぶクルマであれば、乗り継ぎをせず、直線的に目的地まで移動することが可能です。
空飛ぶクルマは、日常生活だけでなく緊急時の移動にも効果的です。例えば、災害などにより道路が遮断された場合は、道路の復旧までに長い時間がかかります。緊急度の高い状況でも空飛ぶクルマであれば、現場まで迅速に到着することが可能です。
このように、人々の生活を豊かにし、さらに人命に係る状況でも活躍することが想定されるため、空飛ぶクルマの実現に期待が集まり、開発が進められています。
空飛ぶクルマを実現するための課題
国土交通省は、2018年12月20日に実施した「空の移動革命に向けた官民協議会」の中で、空の移動革命に向けたロードマップをまとめています。記事執筆時点の最新版は、2022年3月18日に更新されたものです。このロードマップは、以下の3点で整理されており、それぞれの観点における課題を確認します。
>>空の移動革命に向けたロードマップ(改訂案):経済産業省 PPT
環境整備
空飛ぶクルマの実現に向けて、整備すべき制度や体制は多くあります。特に代表的な課題としては、以下の3点です。
・社会受容性
・機体の安全性、管理状況の確認体制
・離着陸場所や空路の整備、認定
空飛ぶクルマが受け入れられるかどうかを示す社会受容性は、重要なポイントです。いくら技術開発が進み、安全性が確保されても、社会的に受け入れられなければビジネスとして成り立ちません。まずは実証実験地域での住民理解、さらに2025年に開催される「日本国際博覧会」(大阪・関西万博)での認知度向上を目指しています。
また、機体の安全性や管理・整備状況の確認についても、従来の航空機やヘリコプターと同様の制度で問題ないか、検証が必要です。空飛ぶクルマはさまざまな形態が想定されるため、それぞれに合わせた制度の構築が求められます。
さらに、自由度の高い移動を実現するためには、離着陸場所や移動経路となる空路をどのように整備、認定していくかは重要なポイントです。平地だけではなく、建物の屋上などさまざまな環境で運用できるような検討が進められています。
技術開発
空飛ぶクルマの実現に対しては、安全に自動運行を実現する技術に加え、静粛性や航続距離に影響を与える技術開発が重要とされています。
自動運行について、外部の認識技術に関しては、自動運転に向けて開発された技術を転用できるでしょう。また、経路設定やトラブル発生時のフェールセーフ処置、天候悪化時の運行管理など、安全に運行するために必要な技術開発は多岐にわたります。
また、航空機よりも人の生活圏に近い場所で使用されることが想定されるため、高い静粛性が求められます。さらに、利便性を高めるために航続距離を延ばす必要があり、エネルギー効率向上、軽量化、電動化に関する技術開発が必要です。
空飛ぶクルマの実現に向けては、これらに関係する技術を持った多くの企業が協力して開発を進めることが重要です。
利活用
環境整備や技術開発が進んでも、ビジネスとして黒字化できなければ、利用は広がっていきません。技術開発と合わせて、ビジネスとして成立するかどうかの検討、実証実験を進めていく必要があります。
大阪万博までの期間は、航空関連事業が中心であり、それ以外は実証実験などに限定されています。2025年の大阪万博以降は、現在提案されている用途としては、災害時の物資や人員の輸送に加えて、平常時の荷物の配送や交通手段、観光要素が挙げられています。
また、移動以外の用途としては、スポーツやホビーなど娯楽性がある用途が提案されています。MaaSなどの移動手段としても検討されており、今後も継続して事業性を含め検討を進めていく必要があります。
空飛ぶクルマの実現にはまだ課題が多い
既存のクルマでは解消できない課題の解決手段として、空飛ぶクルマに注目が集まっています。しかし、実現に向けた法整備や技術開発などさまざまな課題があり、産官学連携で課題解決に取り組んでいます。
この連載では今後、空飛ぶクルマの課題の中でも特に、要素技術の領域に限定し、連載をしていきます。
(次回へ続く)
自動車部品メーカーの現役エンジニアとして、先行開発から量産展開まで幅広い業務を経験。2022年より新規事業開発に着手。企業としての活動に加えて、コロナ禍で誕生した子供に背中を見せられるように、個人として製造業にどう貢献できるかを模索しながら活動をしている。


