石川樹脂工業株式会社・三井化学株式会社・secca inc.の3社による製品発売を記念した鼎談をレポート。(前編)
海から生まれたお皿が叶えた「両立」とは:ARAS meets NAGORI【前編】

この記事では…
石川樹脂工業は2022年7月20日、同社が展開する食器コレクション「ARAS(エイラス)」の「サステナブルコレクション」の第2弾となる「海水」シリーズを発売した。海水シリーズの食器に採用されているのは、三井化学が開発した「NAGORI」という樹脂だ。この樹脂は、なんと海水のミネラル成分から出来ているという。
ARASのコンセプトは「こだわりのある人の普段使い食器」。デザインやカラーバリエーション、強度などのさまざまなこだわりを、樹脂とガラスをかけ合わせた新素材でかなえている。中でも、より環境との共生を目指して作られているのがサステナブルコレクションだ。ちなみに第1弾「杉皮」では、通常のARASが持つデザインや強度は保ったまま、樹脂に杉の皮を混ぜ込んでいる。
「本来捨てていたものにも価値があるかもしれない」という事例ができた――NAGORIとは
離島や砂漠地帯など、山岳や河川に恵まれない地域の水不足問題を解消するため、海水淡水化プラントが建てられる。プラントで海水から淡水に処理される過程で、海水に含まれる塩分などのミネラルを多く含んだ濃縮水が副産物としてできあがる。これをそのまま海に戻してしまうと、サンゴの死滅や漁場の消失などにつながってしまうのだ。
ここで生まれてしまう副産物を活用できないかと開発されたのが、NAGORIだ。三井化学が長年培ってきたコンパウンド技術によって海水のミネラル成分から生まれた素材で、陶器のような質感と高い熱伝導率を持ちながら、プラスチックと同じような成形ができる点が特長である。
プラスチックの器は、なぜ味気ないのか
NAGORIを発想したきっかけは、三井化学の材料研究者がプラスチックの食器で自身の子どもにご飯を食べさせていた時、「味気なさそうに食べるなぁ……」と思ったことだった。それは一体なぜなのか。プラスチックという素材が、食品が持つ温もりを伝えにくかったり、器の軽さ故に質感を感じづらかったりするものだからではないのか? と考えたという。
こう聞くと、プラスチック製の食器より陶磁器の方が優れているかのように感じる。でもよく考えてみてほしい。ご飯茶碗でお茶漬けを食べようと、熱々のお茶を注いだら器自体が熱くなりすぎてしばらく持てなかった、という体験をしたことはないだろうか。そんな時に最適なのは熱伝導率が低い木製の汁椀である。また、プラスチックの食器は軽いので、子どもが落としたり、いたずらで投げたりしても、割れたりしないので安全だ。
このように、さまざまな素材でできた器にはそれぞれ特性があり、使用するシーンによってその特性がメリットにもデメリットにもなり得るのだ。今回のお皿は、プラスチックが持つ「割れにくい」という特性と、陶磁器が持つ「高い熱伝導率」という特性を持ち合わせている。つまり、「割れにくさ」と「温もり」という、今までの素材候補であればトレードオフになってしまった特色を両立できるようになった。

「柔らかさ」が課題
今回のお皿では、NAGORIの特色でもある「素材の柔らかさ」が大きな課題であったという。柔らかさ故に傷が入りやすく、特にお皿として使う場合はそこに汚れが溜まりやすくなってしまうのだ。それを乗り越えるのに必要であったのは、素材を掛け合わせるという発想と技術だった。NAGORIがメインの素材と言える割合を保ちながら、シリコン素材やガラス繊維を加えることで課題である柔らかさ・汚れの付きやすさをカバーすることができたその配合は、石川樹脂工業とARASのプロダクトデザイナーsecca inc.による丁寧なトライアンドエラーの賜物だろう。また、ガラス繊維を混ぜ込んだことで新たな表情も生まれてきたそう。
有機的な表情が残るバランスを探り、ディテールを詰める
サスティナブルコレクションの食器は、一見すると通常のARASと同じ形をしているように見える。しかし、その触り心地や質感、模様は、それぞれで活用している素材を感じることができるようになっている。
第1弾の杉皮では、杉の皮が持つ“表情”を皿の上に表現できたことが、その杉皮のルーツである間伐材、ひいてはその木々が育つ森林の話題につながるコミュニケーション媒体として分かりやすくなったという成功体験を得ることができた。今回の海水でも、ガラス繊維を混ぜ込んだ流れの跡を、その程度や色合いを調整することによって、人々の生活とともにある海や水の存在を思い起こさせるようなデザインに昇華させたという。お皿ごとに揺れのあるその模様は、制作の過程でできた痕跡であったはずが、精密な制御の中で表現として価値のあるものになったのだ。三井化学
近藤淳氏は、「やっている中で偶然出会ったもの、意図したわけではなく制作過程で出来上がったもの。プロダクトを作るときにはそういった新しい発見が生まれるのも、ものづくりをしていて楽しいと思うところです」と述べている。

今回お話を伺った3社の出合いも、今回の製品が完成するのには欠かせなかったという。次回は、3社で開発に向き合ったことの価値について伺っていく。
NAGORI材料に関する問い合わせは、PlaBase編集部まで(inquiry@plabase.com)。
今回のインタビューイー

石川勤(いしかわ・つとむ)/石川樹脂工業株式会社 専務取締役

近藤淳(こんどう・じゅん)三井化学株式会社 複合材料事業推進室

上町達也(うえまち・たつや)secca inc. 代表取締役

これまでカタログや材料メーカー各社のホームページ内に散在していた樹脂(プラスチック)成形材料の情報をPlaBaseに集約しました。 メーカー・樹脂名・物性値など多様な検索方法によって、お客様の目的に合った樹脂成形材料のデータを探し出すことができます。
