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資源高を克服するために日本の石化産業に必要なこと-②:石油化学市場レポ

この記事では…

今日の資源高を克服するために、日本の石化産業に必要なことを提言する。

(執筆:柳本 浩希/株式会社アメレックス・エナジー・コム 石化原料部長 兼 NAPレポート編集長)

編集部より
⁠ウクライナとロシアをめぐる情勢は日々変化しているため、本記事と併せて最新の報道をお確かめください。

前回は資源高が長期化することがなぜ避けられないのかについて解説した。ウクライナ戦争はエネルギー安全保障を根本的に変質させ、自由貿易から大国の覇権争いの戦略的ツールとして、再び復権させる契機となった。エネルギーや原料の大半を輸入に頼る日本にとっては、「復権させてしまった」と表現する方が適切だろう。

今回は、そのような文脈を踏まえて資源高を克服するために日本の石化産業に必要なことを提言したい。

1.脱炭素の加速

今回のエネルギー危機を通じて、欧州では脱炭素への取り組みが加速度的に進行している。これまで安価に調達できていた天然ガスが10倍以上の高値となり、長期化が免れないことから、社会問題としてさらに市民レベルで浸透していると言っていいだろう。日本は中東からのシーレーンが危機的状況には陥っていないことから、現時点では欧州ほどの切迫感はない。

しかし、国際相場を通じて炭化水素の相場が高値であることには変わりない。そして制御不可能な他国の政治的な要因によって収益が大きく左右される状況にも変わりないことから、日本の石化産業にとっても脱炭素への取り組みはいっそう重要度が増すと言っていいだろう。

言い換えれば、「脱炭素」は地球温暖化対策という従来の意義に、ウクライナ戦争後は脱政治資源という新たな意義が加わり、さらに追求すべきものとなった。今後10年スパンでいかに資源輸入を減らせるか、そして、減らしても生活できるような社会に持っていけるかどうかが重要になりそうだ。リサイクル、リユース(再利用)、リデュース(使用停止)に加え、従来品と比較して原料使用量を抑えられるような高機能プラスチック、バイオマスなど非炭化水素原料由来のプラスチックへのシフトは今後加速するだろう。同分野のイノベーションを競合国に先行して開発できるかどうかがカギを握る。

原料相場の上下に自社の製品をどのようなプライスマネジメントすべきかという点に労力を使うよりは、そのような不安定な原料相場をどのように管理していくのか、そしてそこからどのように脱却し得るのか、10年先の未来を描くことに注力した方が良いだろう。日々のマーケットに対しては一喜一憂するのではなく、「どうせ変わる」と冷めた目で見ておいた方が良い。

2. サプライチェーンの見直しと積極的な参画

ウクライナ戦争を事前に予想できた政治学者やロシアの地域研究者が皆無であった一方、米国の国防総省はウクライナ政府に対して着実に迫る危機をレポートしアドバイスを実施していた。これは「経験則」ではなく現前に示された「事実」から分析し、当たり前を疑い、「未曾有の事態」を予見した米国軍事機関のスマートさを示すのに十分過ぎる史実である。

翻って東アジアに位置する日本では、2018年から始まった米中間の貿易摩擦、2020年の新型コロナウイルス蔓延、中国の環境規制、世界的な自然災害(渇水、ハリケーン、台風、洪水)に伴う生産障害を背景に、この4~5年はサプライチェーンが安定する時期はほとんどなかったと言っていいだろう。特に中国国内の物流網の混乱は日系企業にとって大きなダメージとなった。しかし、中国という大国の需要なくして日本の石化産業は存立できないと言っても過言ではないほどの巨大なマーケットがあり、サプライチェーンを見直しても基本的には関わり続けることには違いない。

企業も、政治への主体的参画を

このような文脈の中、あるいは世界の政治情勢が大きく動く中、自社原料のサプライチェーンを見直すことはさらに有益と言えるだろう。2022年8月上旬に発生した中国人民解放軍による台湾を囲む軍事演習では全ての船舶が台湾に入港することができなかった。これによって多くの船は遅延を余儀なくされた。極東に位置する日本へのエネルギーや原料ソースの大半は東シナ海および台湾周辺を通過する。「有事の際に何ができるのか」ということを考えておくことは今後さらに必要となるだろう。

そして、これまで以上に企業による政治への主体的な参画も同時に必要である。単に一定の政党と円滑な関係を構築するだけでなく、米国防総省がそうであったように未曾有の事態に備え、ゼロベースでの合理的検討を産学官連携の上で実施していくべきではないだろうか。

政治家集団へ寄付金を定期的に支払うことで消極的に参画し、政治マターはお任せしておけば良い時代は終わった。同時に、温暖化対策を一企業の範疇で実施することも不可能である。

国の産業分野ごとに危機発生時のケーススタディ、温暖化対策を検討していくべきだろう。「一寸先は闇」の世界政治はいま、特定の権益集団だけでなく、自由貿易を享受する企業や個人の世界にまで影響を及ぼしている。官へ積極的に参画することなしでは、日本の石化産業の未来を描くことはできない。

※本稿は2022年8月29日時点での情報に基づき執筆しています。執筆者は価格予想などの責任についてその一切を負いません。

プロフィール

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⁠⁠柳本 浩希(やなぎもと・ひろき) 株式会社アメレックス・エナジー・コム 石化原料部長 兼 NAPレポート編集長。1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。2016年にAmerex Petroleum Corporation 東京支店入社。現在、株式会社アメレックス・エナジー・コムにてナフサ取引の仲介のほか、ナフサ/石油化学の情報誌の編集責任を務める。


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PlaBase編集部
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