OPECプラス、ロシアが石油の減産を進めている。なぜ減産が実行されたのか。世界経済にはどのような影響があるのか。石油減産拡大がもたらす未来について解説する。
OPECプラスの減産拡大から見えてくる怖い未来-前編

この記事では…
(執筆:柳本 浩希/石油化学コンサルタント)
私たちを取り巻く環境の変化は、日々生きている人からすると小さなことの連続でも、いつの間にか一定の方向性を決定して、もう取り返せないところへたどり着いてしまっているということがよくあります。小さな変化も積もり積もれば大きなものになりますが、それが後に与える影響の大きさは分からないので、日々の変化にいちいち取り合わず、やり過ごすことが多いのです。仮に、最初の変化が大きく受け止められても、それが習慣化されてしまうと「既成事実」として認知され、その異質性に対して盲目となってしまうのです。
今回から前後編にわたって取り上げたいのは、中東地域をめぐる潮流がウクライナ戦争後に大きく変化しているという点です。その変化の現れは、4月に決定されたOPECプラスによる減産拡大でした。これは原油の国際価格を慢性的に引き上げるだけでなく、中国、ロシア、中東の経済圏における協力関係が深化し、日本の石油化学にとって逆風となる可能性があります。つまり、資源価格の慢性的な高騰と、東アジア地域の石油化学製品の需要を支えてきた中国へロシアや中東地域からの輸入が増加することで、東アジア全体の需給が慢性的に緩み、相場が下落するという怖い未来が待っているかもしれないのです。
今回の前編では、まず今回の減産拡大がどのような意味を持つのか、しっかりと捉えるところから始めたいと思います。
OPECプラスによる追加減産の実行

2023年4月2日のOPECプラス(サウジアラビアやイラク、UAEらOPECに加えてロシアやカザフスタンなども加えた世界最大のシェアを握る供給共同体)の閣僚級会合にて、同年5月から日量116万バレルの追加減産が決定されました。ロシアも50万バレルの自主的な減産を実行し、これによりOPECプラスの減産規模は日量366万バレルへと拡大することになります。これは世界全体の需要の約3.5%に当たる数量で、日量100万バレルの過不足によって相場が上下する原油市場にとっては、少なくない数字と言えます。
この情報だけを耳にすると、「ああ、また減産か。産油国にとっては油が高い方がいいから仕方ない」と思われるのではないでしょうか。実際、2020年に新型コロナウイルスが世界を大混乱に陥らせていた中、急減する需要に合わせてOPECプラスは原油の減産を適宜実行し、油の価格をコロナ前の水準まで回復させていました。しかし、今回の追加減産についてはこれまでの減産とは毛色が異なります。なぜなら、2023年に石油需要は前年対比日量200万バレル強増加すると見込まれているからです。これまでは需要の減少に対応する形で減産を実行していましたが、2023年4月のこの追加減産は理由に乏しく、あえて供給を不足させる意図を感じます。
追加減産の理由は石油需要の落ち込みではない
減産が決定される2週間前、世界はシリコンバレーバンクやクレディスイスの破綻をきっかけに、金融市場の混乱に見舞われました。欧米の中央銀行による貸付金利が引き上げられる中、緩んだ財務規律によって経営が立ち行かなくなったのです。これによって株式と共に先物資産である原油相場は売り戻されていました。ですから、産油国としては相場を引き上げるために追加減産を実行する動機があったものと想定されます。
しかし、2023年3月下旬の相場の下落は主に金融的な危機が引き金になったもので、世界の石油需要そのものが減少しているわけではありません(前述のようにむしろ増加傾向にあります)。こうなってくると、OPECプラスは油の価格を世界経済が傷つかないギリギリのラインまで引き上げることを目標にしているとしか思えなくなってきます。「世界経済を傷つけない」というのは言い換えると、「油の価格が上昇することで引き起こされるインフレが消費に影響を与える」という意味です。OPECプラスの思惑通り、この減産は市場に対してサプライズとなり、原油相場は1バレル70ドル台後半だったところから、一気に80ドル台後半へと値上がりしました。
対立を深める石油原産国と欧米諸国
原油相場の値上がりに対し、インフレによる景気減速リスクを抱える欧米首脳らは、「需要が拡大するなかで減産拡大など前代未聞だ!」と一斉に批判します。確かにその通りです。しかし、当然ながら他国の資源の生産方針に介入することはできません。これに対してサウジアラビア側も呼応し、「世界経済の先行き不透明感が根強いので、石油需給安定化のために必要な措置である」と応酬するわけです。
世界の石油需給を見定めるツールとして、米欧日など西側諸国で構成される国際エネルギー機関(IEA)やOPECが編さんする月報「Monthly Market Report」があります。この減産決定後に公表された2023年4月の各月報では、立場の違いが先鋭化します。IEAは今年下期に供給不足が引き起こされ、相場の上昇とインフレに伴う景気への深刻な影響を懸念した一方、OPECは減産をしても2023年トータルでは需給がバランスすると、取り合いません。IEAは今年下期には日量200万バレルの供給不足となることを予想しているので、これは石油価格の上昇を招くに値する事態です。
これほどまでに西側諸国とOPECとのコンセンサスに食い違いが現れることは、これまではそれほど多くありませんでした。
前編では2023年4月に決定された追加減産がいかに異質かを見てきました。後編は、その根本的な理由とそこから想定される未来について検討していきたいと思います。
1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。
