米国の中東への関与が低下し、さらにロシアと中東、そして中国の関係が深まることで国際石油相場、さらに東アジア経済圏へのどのような影響があるのか。日本はどうすべきかについて論ずる。
OPECプラスの減産拡大から見えてくる怖い未来-後編

今回の記事は...
(執筆:柳本 浩希/石油化学コンサルタント)
前編で前回はOPECプラスによる減産拡大決定についてその異質さを見てきました。今回はその根本的な背景と、そこから見通せる怖い未来について切り込みたいと思います。
米国の中東への関与低下がもたらす影響

少なくとも21世紀以降、OPECがこれほどまでに欧米社会を無視した減産政策を採ることはありませんでした。なぜなら湾岸戦争以降、サウジアラビアを中心に湾岸諸国では、米国からの軍事的支援が安全保障の観点から必要不可欠だったからです。
その後、テロとの戦いを掲げて米国はアフガニスタン、イラクへと軍事介入を進めます。しかしトランプ政権以降、テロとの戦いに一定の成果が得られたとして、米国は両国からの軍事的な撤退を進めてきました。米国はイエメン内戦においても、サウジアラビアを間接的に支援する立場を貫いてきましたが、バイデン政権になってからはより態度を中立化させて、むしろ停戦を呼び掛ける立場へと退きました。中東軽視とも取られる政策の背景には、石油のセキュリティにおいて自国のシェールオイル生産増加を背景に、中東への依存が低下したことがあります。結果として、サウジアラビアは石油政策について米国のご機嫌を取る必要がなくなりました。
中東とロシア、中国の蜜月関係が国際石油相場高騰を引き起こす

異質な減産決定がなされた背景はもう1つあります。それは、サウジアラビアとロシア、そして中国との蜜月関係にあります。思い出していただきたいのですが、2020年にコロナショックが発生した理由は需要の減少と、OPECプラスの減産体制崩壊(サウジアラビアによる増産)にありました。つまり、この頃まではOPECプラスの体制は決して一枚岩ではなく、その減産について参加諸国との間で侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論と、絶妙な駆け引きが存在していたのです。
OPEC総会の度に、サウジアラビアが強気の減産幅を打ち出すのに対して、できれば増産したい他国が慎重姿勢を示して議論は白熱。しまいには「協調減産体制が崩壊するのではないか……」と言い出す参加者が出てくるほど、合意までにさまざまな異論が噴出することが当たり前でした。なぜならサウジアラビアにとってはロシアを筆頭に、全ての参加国による減産を引き出さないと、自国だけ減産しても市場へのインパクトは限定的となり、意味がないからです。
しかしウクライナ戦争勃発後、欧米からの経済制裁を背景に、貴重な外貨の獲得手段として石油の収入が命綱となっているロシアは、増産よりも価格安定に対して価値を置くようになります。その結果、ロシアとサウジアラビアは利害が完全に一致したのです。
ロシアは経済的にも非西側諸国への依存を一層深めます。石油の有望な輸出先として、中東や中国が真っ先に候補として挙がり、一般的な相場からディスカウントしてでも積極的に販売するようになりました。実際、中国のロシア産原油輸入量は2023年3月、過去最高に達し、輸入国別ではロシアが最大シェアへと躍り出ました。
以上をまとめると、米国の関与低下とロシアの変化がOPECプラスによる奇異な減産拡大を導いたと言えます。そして、ロシアの割安な資源を手に入れる中国は、サウジアラビアとのエネルギーを巡る協力関係を強化するだけでなく、サウジアラビアとイランとの間の国交正常化にも貢献しました。
本来、多量に石油を輸入している中国は高値の石油相場に対して良い気持ちはしないはずですが、仮にロシアとの蜜月関係によって国際石油相場高騰による影響を無視できると想定すると、価格上昇のしわ寄せは西側諸国と発展途上国が引き受けるという構図が見えてきます。
東アジアをはじめとする経済圏の分断が懸念される
表題の「怖い未来」とは、さらにここから「数歩」進んだ未来です。それはロシアと中東、中国の協力関係が強化され、この経済共栄圏内での連帯、特に資源エネルギー分野での協力が活性化することで、中国の製造業の競争力が格段に増加します。それだけでなく、同圏内での取引が優先されることで中国がこれまで東アジア諸国や東南アジアから輸入してきた石油化学製品をさらに絞るというものです。この「数歩」の間には当然ウクライナ、台湾を媒体とした軍事的な対立が、経済圏の段階的な分断を手伝うという意味も込まれています。
前後編にわたってOPECプラスの減産拡大についてその意味と、そこから分かる将来について検討してきました。日本は資源のない国ですが、中東からのシーレーン(※)に対する軍事的安全保障ばかりに執着する傾向があると思います。その点ももちろん重要ですが、石油相場の形成や中東諸国と大陸諸国との関係についても一定の関心を向けていくことが、最終的な相場のしわ寄せを受けるばかりにならないために必要ではないでしょうか。
今回のような件(OPECプラスによる追加減産決定)についても、私たちよりも苦境に立つ発展途上国と連携して増産を求めるなど、西側の国際機関であるIEAではなく、国連などを通じた働きかけが必要ではないでしょうか。決して欧州や日本は資源相場の上昇に対して「どうしようもない」というわけではないのです。
※編集部注:シーレーンとは、国家が軍事的、経済的に重要視する海上交通路のこと。
最後に、産油国による無理のある価格引き上げがインフレにより世界経済に打撃を与え、需要の慢性的な低迷をもたらしたことがあります(1980年代後半)。一方的な資源高は経済にとってストレスであることは間違いありませんので、急落リスクをまとう点は強調しておきます。産油国の思惑通り進むかどうかは「かなり危うい」とも言えるでしょう。実際足元で原油相場は反落傾向にあります。
しかし、だからといって平和ボケしていると、痛い目に合うのは私たちです。
プロフィール

【柳本 浩希(やなぎもと・ひろき)】1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。

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