「JEC WORLD 2023」に見る欧州複合材料市場の動向(1)

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今回の記事は…

2023年4月25~27日にフランスで開催された世界最大の複合材料展示会「JEC WORLD 2023」より、樹脂材料に関する新技術や、世界のトレンドについて、全3回で紹介する(第1回)。

(執筆:横山 盛之/カワサキテクノリサーチ)

2023年4月25日から3日間、フランスで世界最大の複合材料展示会「JEC WORLD 2023」が開催された。展示会はもともとパリ市内で開催されたが、2016年に現在のシャルル・ドゴール空港近郊に移転してから急拡大し、来場者は2019年に過去最多となった。その後コロナ感染により2年間中止になった。

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展示会場外観(筆者撮影)

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展示会場内(筆者撮影)

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過去10年のJEC World 規模(JECの公開情報を元にKTR作成)

今年は来場者数がかなり回復したが、展示内容は2019年に比べて大きく変わった。テーマ別展示場が半減したことや、パビリオンの数は変わらないがパビリオンへの参加者が増えたために小さなブースが増えたなどはネガティブな変化だ。さらにこれまで少なかった樹脂材料の展示が大幅に増え内容も多彩となり、以前とは異なる有意義な情報が多くあった。

まず、全体の変化点を要約する。

生産プロセスの展示が激減、素材関連は大幅増加

欧州の複合材市場をけん引する生産・加工技術は日本市場にとって良い手本だが、今年は展示が激減した。代わって素材展示が大きく増えた。

・サステナブルの話題はリサイクルへ

樹脂マトリックスでは熱可塑性樹脂の展示が多く、低融点のPEKK(ポリエーテルケトンケトン)は、原料・中間材・製品のいずれの展示でも圧倒的にPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)より多く見られた。熱硬化エポキシはケミカルリサイクルの提案や、熱硬化に転用するシステムの量産事例も見られた。

天然由来の強化繊維である亜麻はそれなりに目立ったが、急に用途拡大したというのではなく、これまでのスポーツや家具・楽器などの用途から、車両や工業向けに順調に用途が増えていると見た。

・3Dプリンティングの用途が拡大

これまで3Dプリンティングに使われる樹脂原料は粉体かフィラメントであったが、ペレットを溶融し直接積層する大型成形品用のプリンターが複数見られた。また、成形品内部に連続した繊維を配置して高強度・超軽量の成形品を作るシステム展示があった。今後は複合材の用途が大きく変わりそうだ。

・展示ブースの様子が変わった

今年の出展者数はまだ回復していないが、パビリオンが大型化したことで小さなブースが増え、大型の展示物が減少したようだ。

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テーマ展示場「プラネット」は半減(筆者撮影)

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パビリオンの数は維持(筆者撮影)

イノベーション・アワードは大型化

JECは毎年、複合材の技術開発を振興するためにイノベーション・アワードを催している。世界中からインターネットで参加できる極めてオープンな催しで、航空宇宙、輸送、建設・土木、海洋、レジャー・スポーツなどの分野に、持続・リサイクル、デジタル化、再生可能エネルギーなど世相を反映した切り口を加えた計11部門で34案件が最終選考された。今年は豊田自動織機、日機装、東レ・カーボンマジックの日系企業4社も選ばれた。

アワード受賞案件から、珍しい複合材の用途をいくつか紹介する。

【CFRPによる月面探査機】

世界初の民間による月面着陸として注目された日本製探査機HAKUTO₋Rの機体は、東レ・カーボンマジック株式会社によるCFRP製である。

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世界初の民間月面探査機HAKUTO-R(出所:ispace)


昨年12月、電気自動車テスラの経営者で知られるイーロン・マスク氏の民間宇宙会社SpaceXのロケットで打ち上げられた。残念ながら4月26日の着陸は失敗したが今後も挑戦が期待される。

【高速鉄道の複合材製車体】

長さが12m以上もある展示物はスペインのTalgo社が開発した鉄道車両の客室部分である。

CFRPはプリプレグを半自動で積層し、組み立て工数は接着剤とリベットを用いることで簡素化されている。従来の鋼材製にくらべて25%軽量化され、室内の容量が拡大している。

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電車のCFRP製ボディーの内外観(筆者撮影)

【CFRP製帆船マスト】

海運・造船部門のアワードを受賞したシャンティエ・ドゥ・ラトランティック(Chantiers de L’atlantique)の大型帆船用のマストは、残念ながら大きすぎて展示会には出品されなかったが、帆船は複合材料にとって有望な用途であるので、公開写真で紹介しておく。

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巨大マストの運搬風景(出所:JEC)と、マスト搭載のヨット(出所:Chantiers De L'Atlantique)

大型船の帆は、通常の柔らかい帆に比べて羽ばたきによるエネルギーロスが少なくするために硬めに作られ、これを支えるのは剛性が高いCFRP製のマストである。超大型オートクレーブ(24m x 6m)で作ったエポキシ炭素繊維製チューブを三本が、CFRP製積層スリーブで締結して組み立てられる。

このマスト開発は大型帆動力船のサイレンシアス(Silenseas)開発プロジェクトの一部で、二酸化炭素削減が目的であるが、適切な風力を得られないときは従来と同様ディーゼルエンジンの推進力を使うことになる。将来的には風力発電にする計画はあるが、開発は100%再生可能な風力エネルギーへの転換を目指すのではなく、ディーゼル推進力の必要性を半減させることを目的にする。現在建造が進められているのはマストが100mもあり、2026年には世界最大の帆船として出航する予定である。

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世界最大の帆船サイレンシアス(出所:Chantiers De L'Atlantique、写真:Maxime d'Angeac)

CO2削減が課題となっている現代において、帆船技術を大型商用船に活用するプロジェクトが世界的に広がっており、日本でも三井造船による大型タンカー開発などが進められている。

【サッカースタジアムの屋根構造】

今年9月に完成するスペインの名門サッカーチーム「レアル・マドリード」のホームスタジアムの格納式屋根に、ナノチュア(Nanotures)が製造するCFRP構造体が使われる。二重のVAP膜の間に、真空引きで樹脂を注入する工法で現場成形される梁の主要部は、75mmのコアの両面に7mm厚みの炭素繊維を配置した構成になる。梁は最長75mに達するため、たわみを抑えるためにさまざまな工夫がされている。

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屋根構造体(筆者撮影)

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屋根の施行風景(出所:レアル・マドリードCF)

【波力発電機】

海の波を使う波力発電が普及し難い最大の理由はコストであるが、スウェーデンのCorpower Ocean ABが開発したブイ型発電機はコストの壁を破るとして期待されている。

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(左)展示の小型模型、(右)実物の船体(出所:JEC World)

展示されていたのは高さ1mほどの見本。実際の本体(船体)は10mほどある大きな球状で、この中に発電機が入る。船体はさまざまな種類の素材で検討された結果、ガラス繊維をフィラメントワインディングするFRPとコア材のサンドイッチ構造となっている。従来の金属製に比べてエネルギー生産量が最大3割増加し、船体は製造コストを7割削減できるだけでなく、耐久性が大幅に伸びるという。

(次回に続く)

プロフィール

横山 盛之(よこやま・もりゆき) 2019年、カワサキテクノリサーチ入社。過去には、ダイセル化学工業(現ダイセル)で、特殊ナイロン、コンパウンド樹脂、熱可塑性複合材料などの市場開発に従事。1982年、同志社大学卒業。


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PlaBase編集部
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