埼玉工業大学 大学院工学研究科教授および工学部機械工学科学科長である河田直樹氏と、同科教授であり同大学副学長・工学部長兼産学官交流センター長の福島祥夫氏に、中小企業が抱える課題やデジタル技術を扱う人材を育成する大学での取り組みについて伺いました(前編)
製造業の技術伝承問題を「データをワンストップで扱える」人材を送り込んで解消する(前編)

PlaBase特集「射出成形とDX」
射出成形に関係するデジタル技術やDXをテーマとした記事をお届けします。
この記事では…
(執筆:一之瀬 隼/ 製造業ライター)
製造業では人材不足が深刻になっており、それを解決するためにデジタル技術の活用が進められています。多くの中小企業でも、機械系の知識に加えて、制御やITに関する幅広い知見が必要とされています。埼玉工業大学では、企業から求められるデジタル技術を身に着けた機械工学系の人材を育成するために、IoTやAIをカリキュラムとして導入しています。
本記事では、同大学大学院工学研究科教授および工学部機械工学科学科長である河田直樹氏と、同科教授であり同大学副学長・工学部長兼産学官交流センター長の福島祥夫氏に、中小企業が抱える課題やデジタル技術を扱う人材を育成する大学での取り組みについて伺いました。

(左)埼玉工業大学副学長・工学部長兼産学官交流センター長の福島祥夫氏、(右)埼玉工業大学院工学研究科教授および工学部機械工学科学科長である河田直樹氏
前編となる今回は、中小企業が抱える課題や先生たちのご経験について、取り上げていきます。なお後編では学生たちが取り組む射出成形機の遠隔監視システムも登場します。
――民間企業時代には、どのような仕事をされていたのでしょうか?
福島氏:私は、大学院卒業後にハンドツールの設計開発を担当していました。1つの製品の開発から量産化まで1人で担当していたため、幅広い技術・業務内容を経験することができました。
ハンドツールは職人さんが持ち歩くため、要求機能を持たせながら軽量化するために、鉄やアルミニウムなどの金属と樹脂を組み合わせる必要があります。そこで困ったのが、樹脂の扱いです。例えば、「射出成形で型から製品を外す際の抜き勾配はどう設計すればいいのか?」など、当時の機械工学科のカリキュラムには含まれていない内容でした。
今は、さまざまな製品の軽量化が必要となる軽量化時代です。機械系でも最低限の樹脂の知識は必要不可欠なので、埼玉工業大学では必修科目の中に、樹脂材料の特性や製造方法に関するカリキュラムを組み込んでいます。
企業で働いた後は、公設試験研究機関(公設試)で中小企業の研究開発や補助金獲得の支援を行っていました。
河田氏:私は、「大きいものを作りたい!」という夢を持っていたので、輸送機器メーカーに入社しました。鉄道車両の設計だけでなく、自動運転の大型搬送用電動キャリアや機械式の立体駐車場、走行中の鉄道車両の脱線検出装置など、事業横断型の技術開発を担当しました。
その後は、鉄道車両の製造技術の開発として、レーザーを使ったステンレス車両の製造に関する技術開発を担当し、それが埼玉工業大学に来る際のきっかけにもなっています。
民間企業時代の後半では、職場の若い人たちのモノづくりに対する関心の薄さが少し気になっていました。その時は、「モノづくりにもっと興味を持ってもらうには、楽しさを知ってもらうしかないのかなぁ……」と思っていました。その気持ちが、大学での教育のモットーになっているんです。
■「データを取る」「分析する人」がいない中小企業のために

熟練技術者のものづくりの勘所について 出所:埼玉工業大学
――製造業の中小企業は、どのような課題を抱えているのでしょうか?
福島氏:公設試で働いているときに、いろいろな中小企業と関わってきました。多くの企業で、何か課題が生じたときに「原因が分からない」「解決のためにデータを取る文化がない」ということを、よく感じていました。
課題の解決に向けて、センサーを設置してデータを取得することを提案するのですが、今度は「取得したデータを課題解決につなげるために、どう処理したら良いか分からない」という状況です。また、中小企業には素晴らしい経験値を持った技術者が多くいます。しかし、その経験値を数値化、体系化できていないことが多く、技術伝承で大きな課題を抱えています。
そこで、データ取得や解析ができる、経験値の数値化・体系化に取り組める「ワンストップ」で業務が遂行できる人材の育成が必要だと考えています。

熟練技術者の五感の代わりに…… 出所:埼玉工業大学
河田氏:熟練技術者の技術、モノづくりの勘所は、経験的に五感を使いこなすことで成り立っています。いわゆる、三現主義(「現場」「現物」「現実」の重視)ですね。学生たちには、まずは「そういう現実を観察しよう」と教えています。それを踏まえて熟練技術者の代わりに、センサーを使ってデータを収集できるようになってもらおうとしています。よって、まずは「データを取ってみる」ということが大事だと考えています。
しかし、企業でデータ取得するところまでできたとしても、そのデータをどう活用すればよいのか分かる人が社内にいなくてつまずいてしまうことも多いのです。
社内をよく見てみると、データに興味を持ち、自発的に面白がって取り組んでいく人がいるかもしれません。私の受け持つ学生たちの中にも毎年誰か、そういう人が出てきて、自然と、卒業研究で面白い成果を出すリーダー役になっていきます。まずはそういう人材を見つけてうまく配置できるといいのではないかと思っています。
また、新しい技術やプロセスを導入することに対しては、合理的な理由もなく抵抗を受ける機会が多くあります。そのままでは改善が進まないため、新たな技術やプロセスを導入することで得られるうれしさを可視化して、現場にも理解してもらえる状態にすることが重要ですね。
企業で働く機電一体エンジニアの振り返り(前編)
今回は、中小企業が抱える課題としてお話を伺いました。私の職場でも、課題を解決するためのデータ取得、解析に取り組む文化はありますが、特に経験値を数値化・体系化するというのは、うまくできていないと感じています。
ある程度規模が大きな企業でも、製品の電子化・複雑化で扱う技術範囲が膨大になり、業務分担の細分化や属人化の傾向が強まっている職場は多いのではないでしょうか? 「目の前の仕事で精いっぱいで、体系化まで取り組む余裕はない」という思いもありますが、「ワンストップ」で業務を任せてもらえる人材になるには、どうすればいいかを考え、行動していかなければいけないなと感じました。
後編では、「ワンストップ」人材育成に向けた埼玉工業大学の取り組みと中小製造業に向けた今後への提言について紹介します。
プロフィール
一之瀬 隼(いちのせ・しゅん) 自動車部品メーカーの現役エンジニアとして、先行開発から量産展開まで幅広い業務を経験。2022年より新規事業開発に着手。企業としての活動に加えて、コロナ禍で誕生した子供に背中を見せられるように、個人として製造業にどう貢献できるかを模索しながら活動をしている。
>>執筆者サイト「製造業ライター 一之瀬隼」

これまでカタログや材料メーカー各社のホームページ内に散在していた樹脂(プラスチック)成形材料の情報をPlaBaseに集約しました。 メーカー・樹脂名・物性値など多様な検索方法によって、お客様の目的に合った樹脂成形材料のデータを探し出すことができます。
