石油の減産体制の崩壊を受けて米国のシェール産業は大きな打撃を受けた。現在はコロナ前の水準へ回復しているものの、その推移は緩やかである。現在の米国のシェール産業を取り巻く問題、今後の展望について解説する。
シェール・レポート/米国シェール産業の現在と展望:石油化学市場レポ
今回の記事では…
(執筆:柳本 浩希/石油化学コンサルタント)
最近あまり聞かれなくなった米国のシェールオイルの現状と未来について、今回は深掘りしたいと思います。
2020年の新型コロナウイルス感染拡大に伴う需要減と、産油国による減産体制の崩壊を受け、石油の価格は急落し、米国のシェール産業は大きな痛手を被りました。その後は石油相場の上昇とともに倒産した企業の清算と再融資が進み、シェールオイルの生産量は増加しています。
しかし、2020年後半には大幅に反発し、以降高値で推移してきた石油相場からすると、大幅にシェールオイルの生産量は増加しておかしくないのですが、コロナ前の水準へと回復するまでに留まっています。下表を見ると、コロナ前の日量900万バレルを回復するまでに約3年もの時間を要したことが分かります。それくらいにコロナショックと減産体制の崩壊によるインパクトは大きかったと言えます。
そして、コロナ前の生産の伸びと比較すると、生産量の増加度合いは緩やかであることが分かります。シェールオイルについてあまり報道が盛んにならなかったのは、あまり成長が期待できないからと言えるでしょう。足元ではコロナ前の水準を上回る数量となってはいるものの、これから大幅に増加する期待は薄いのが現状です。

グラフ1
出典:米エネルギー情報局(EIA)
なぜこのようにシェールオイルを巡る環境は変わったのでしょうか?理由は複合的ですが、大きく分けて2つあります。1つは、現在米国で政権を握る民主党は脱炭素政策を推し進めており、それまでの共和党時代に優遇していたシェール産業に対して補助金や土地の貸与などを巡って、支援を縮小していることが挙げられます。
2つ目は、シェール企業に対する融資の問題です。油田を掘っては新たな生産で投資を回収するという自転車操業を強いられるシェール企業に対して、銀行団がその融資に対して厳しい審査を実施しています。それだけでなく、貸し付けに対する償還についても足元の米国の高い金利が上乗せされています。これでは、シェール企業は高い金利を支払い、債務を償還するので手いっぱいとなり、余剰資金を思い切った投資に回すことは困難となります。
銀行団からすれば、再び協調減産体制が崩壊して石油価格が暴落するリスクもあるので、与信管理は徹底しているわけですが、シェール企業からすると悩みの種となっているわけです。
このような背景から、米国のシェールオイルは生産が伸び悩んでいる状況で、今後増産できても日量1000万バレルに達するかどうかのレベルだろうと言われています。
一方、オイルではなくガス、つまりシェールガスはというと、今後さらに増産が進行する見通しです。なぜガスが増産できるのかと言えば、それは上記の脱炭素政策が「逆風」ではなく「追い風」になるからです。
世界の発電向けに使用されているあらゆる炭化水素の中で、天然ガス(シェールガス)は炭素の排出が少なく済みます。また、ウクライナ戦争以降、天然ガスは欧州がロシアからの輸入を取りやめる方針を固めたことで、米国から欧州への引き合いは大幅に増加しました。このような背景から、下に示したグラフの通りシェールガスの生産量は大幅に増加していっているわけです。

グラフ2
出典:米エネルギー情報局(EIA)
米国のシェールガスの生産量は2050年には現在よりも約15%増加する見通しとなっています。この中で、実はガスだけが生産されるのではなく、随伴されて液体も産出されます。天然ガス随伴液(NGL)というもので、天然ガスを生産する際に約15-20%程度得られます。このNGLはフラクショネーターと呼ばれる分留装置にかけられると、エタンやLPG、軽質ナフサと同性状の天然ガソリンが得られます。下表に示したのは2022年の米国のNGLおよびそこから分留される炭化水素の推定産出量です。このうちエタンは主に国内のエタンクラッカー向けに消費されるほか、中国やインドのエタンクラッカー向けに輸出もされています。

表1
※米エネルギー情報局(EIA)のデータをもとに筆者が編集
このように見てくると、今後米国のシェール産業について、ガスが特に増産されていくこと、そしてガスの生産に随伴して得られるNGLも今後増産されていくことが分かります。このNGLはガスの増加に合わせて15%程度生産量が増加すると、エタンの消費について7-800万トン程度の需要を創出する必要が出てきます。また、ナフサ(天然ガソリン)も増産されることになりますので、シェールオイルの生産がそれほど伸びなくとも、シェール産業はガスやナフサの増産を介して、ナフサや石油化学マーケットに影響し続けることが分かります。
今回は忘れられた(?)米国シェールの現在と未来について詳しく見てきました。来年は米国大統領選挙を控えており、政権が民主党になるか、共和党になるのかによっても大きく今後は変わってきそうです。
引き続き米国シェールの動向は定期的にPlabaseに掲載していきたいと思います。
1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。
