2024.03.27コラム

調理家電に使われているプラスチックを見てみましょう:生活とプラスチック(1)

Image

今回の記事では…

かつておもちゃメーカーで生技や品証をやっていた筆者。日常生活でも手に取るモノに使われているプラスチックの種類を同定しがち。今回は、調理家電に注目してみました。

(執筆:おりも みか/製造業ライター)

現代の生活ではすっかりおなじみのプラスチック。プラスチックにはさまざまな種類があり、目的や用途によって使い分けられています。今回は普段の生活で馴染み深い調理家電にどのようなプラスチックが使われているのかを見てみましょう。

私はおもちゃメーカーでどんな種類のプラスチックを使うのかという材料選定にも関わっていました。ですので、普段の生活でも「お、これはPPだな」とついついプラスチックの種類を同定するという変なクセがあります(プラスチック関係者あるあるだと信じています!)。

細かい種類までは分からないのですが、メジャーなものであればおおまかな種類くらいは、触り心地や色、用途などから分かるようになります。……とは言え、馴染みのない方には難しいと思います。でも大丈夫です! 食品が触れるものや家電に使用されるプラスチックは食品衛生法やJIS(日本産業規格)によって、材料表示が規定されています。

では実際に見てみましょう。これはコーヒーメーカーのドリッパーです。

Image

>PP< と書かれています。これは材料が「PP樹脂」であることを示しています。

このように部品の裏側など、ちょっと見辛い場所に刻印された形で表示されていることが多いです。裏面に表記しているため分解しないと確認できないこともあるのですが、表に見える部分だけでも興味深いので、ぜひ確認してみてください。



Image

透明なパーツなので少し見辛いですが、これはPS製ということが分かります。

さて、このようなプラスチックの樹脂は、どのように決められ、使い分けられているのでしょうか?調理家電に必要な要件を考えてみましょう。

  1. 食品衛生法に適応していること
  2. 強度・耐久性に優れていること
  3. 耐熱性や耐寒性があること
  4. 耐油性や耐薬品性があること
  5. そのほか


まず、食品に触れる箇所に使用されるプラスチックは、食品衛生法に適応していなければなりません。日常的に何度も使用するものですので、強度や耐久性が必要になります。調理するとなると、熱がかかったり、逆に冷やしたりすることもあるので、部品によっては温度特性が必要なものもあります。さらに、油や調味料に触れたり、洗剤で洗浄したり、アルコールで消毒したり……などもあるので、耐油性や耐薬品性が必要ですね。他にもどのような使い方をするのか、どんな食べ物を調理するかによっていろいろな要件が考えられます。

さらに外観に関係する要件では、「中を見やすくするため」といった理由から透明度が必要になることもありますし、高級感を出すために質感が重視されることもあります。

このように、調理家電の種類、使い方、価格などによって、要求される条件は異なってきます。メーカーは、どの部品にはどの種類のプラスチックを使用すべきか。検証をしながら材料選定を行っているのです。

個人的な印象として、調理家電の主に外側、特に人が良く触れる場所に使用されることが多いのはPP樹脂です。食品の保存や電子レンジにかける容器に使われるタッパーなどにも使われています。理由としては、食品衛生法に適応していること、強度が高いこと、そして耐薬品性があるためです。PPは身近なものに、本当によく使われていますね。



Image

これはオーブンの排水受けと、注水タンクです。隣接した場所に設置してあり、用途も近いのですが樹脂の種類がABSとASで異なっています。ABSとASは特性が似た樹脂ですが、ABS樹脂は透明性が低いため、注水タンクには透明度が高いAS樹脂が選ばれたのではないかと考えられます。

タンクは透明な方が、水が入っているかどうかが分かりやすいですよね。「なぜこの樹脂が選ばれたのか?」という理由を考えてみるのも面白いです。

次は、コーヒーメーカーの中を少し覗いてみましょう。このコーヒーメーカーには、コーヒーを挽くミルが付いていて、そのユニットを外したところです。


Image

ギア部などは大きな力がかかります。そのため、通常でも耐摩耗性の高いPOMなどが用いられます。PPなどの汎用プラスチックに対し、POMはエンジニアリングプラスチック(エンプラ)と呼ばれます。

この製品の場合、樹脂名は見えるところに記載がないので分かりませんが、おそらく繊維強化材配合のエンジニアリングプラスチックだと考えられます。

普段の生活空間をあらためて見回すと、新たな学び

調理家電でも、部位によってさまざまなプラスチックが使い分けられていることが分かります。どのようなプラスチックが使われているのかを見てみると、メーカーの開発意図や苦労が垣間見えてきます。身の回りにあふれたプラスチック製品プラスチックの種類が見分けられるようになると、身近なものの解像度がちょっぴり上がる気がしませんか? ぜひ手に取って見てみてください。ものづくりに関心のある学生さんや、製造業に初めてお勤めする方も、新たな気づきや学びが得られるかもしれません。

今後も、さまざまなテーマで、筆者の身の回りにあるプラスチックを見ていきます。次回は「調理器具」になる予定です。


>>ここで出てきたプラスチックは「PlaBase プラスチック事典」でチェック!

Image

>>>>連載「生活とプラスチック」一覧 

新卒入社した玩具製造メーカーにて品質・生産技術担当として日本国内・中国工場での新規ライン立ち上げを経験。玩具、アミューズメント機器、医療機器、健康雑貨など主にプラスチック製品の開発・製造に携わる。結婚を機に退職し、現在は育児の傍ら製造業ライターとして活動中。⁠Twitter ID:@jilljean0506