木工家具メーカーである天童木工が、改質リグニン研究プロジェクトへ参画する理由や想いについて迫りました。
国産スギから生まれた改質リグニン含有プラを研究する家具屋さん:天童木工突撃取材!(1)

この記事では…
(執筆:小林由美/facet)
1940年、山形・天童で創業した日本屈指の家具メーカーである株式会社天童木工は、日本でいち早く成形合板技術を用いた家具製作を開始。以来、成形合板技術を利用し、丹下健三氏、剣持勇氏、柳宗理氏といった著名な建築家やプロダクトデザイナーとともに、美しさと強さを兼ね備えた木工家具を作り上げてきた。柳氏の代表作の1つであり、“名作スツール”として名を馳せる「バタフライスツール」は、誕生して60年以上たった今もなお、多くの人に愛される現役プロダクトだ。

天童木工「バタフライスツール」:1956年に誕生。プロダクトデザイナーの柳宗理氏によるデザイン。天童木工の人気商品。
取り扱う素材は、もちろん「木」がメインの天童木工であるが、実はプラスチックとのかかわりもある。「天童木工突撃取材!」では、全3回にわたり、改質リグニン研究プロジェクトへの参画や、家具メーカーでありながら自動車内装品製造事業にかかわる理由、過去80年にわたるものづくりの歴史について取り上げる。

第1回は、天童木工 製造部 技術課 課長の中田 一浩氏に話を聞いた。
天童木工が改質リグニンの研究にかかわる理由
――国内では、春になると花粉で悩む人も多いですが、国内に人工のスギ林が増えすぎてしまった理由について教えてください。
中田氏:輸入材の増加や林業の低迷などにより、伐採されずに手つかずのまま、スギの人工林が放置されています。花粉の問題ばかりではなく、放置された森林は、荒廃による公益的な機能の低下により土砂災害などの被害を起こしやすくなっています。さらには、二酸化炭素(CO2)を吸収する働きも低下し、温暖化防止機能も低下してしまいます。
――スギは家具で利用することが難しいといわれることがありますが、天童木工では以前から家具にスギを使用していらっしゃるかと思います。
中田氏:スギなどの針葉樹は広葉樹と比較して空隙率が高く比重も小さいです。そのような特性から、軽量かつ柔らかく、加工性に優れたスギであるのですが、それは強度面で劣るということも同時に示します。そのため従来、丈夫さや傷つきづらさを求められる家具にスギ等の針葉樹は適さないとされてきました。一方、天童木工では、圧密加工をすることによる改質でスギ材を代表とする針葉樹の強度を高めつつ、家具や建材製造に多用しています。「日本の森林を守り、そしてスギをはじめとする針葉樹の素晴らしさを広く知ってもらいたい」という天童木工の想いが込められています。
――天童木工が、日本固有の樹木「スギ」から作るバイオ由来の新素材「改質リグニン(グリコールリグニン:GL)」の開発と産業化を目指す産学連携組織「地域リグニン資源開発ネットワーク(リグニンネットワーク)」に参画する理由は?
中田氏:改質リグニンは国産針葉樹であるスギからのみ製造可能であり、まさに天童木工の想いとも重なる存在であるためです。
――リグニンは木材に豊富に含まれながらも、過去には使い道が見いだせなかった素材であったそうですね。
中田氏:リグニンというのは、植物細胞壁の主成分であり、木材においては重量で20~35%含有されています。同様に植物に含まれる、セルロースやヘミセルロースは紙やセルロースナノファイバーに使用されてきましたが、リグニンについてはこれまで、木材からの抽出方法や安定的な製造方法の確立などに課題があり、工業化につなげることが出来ませんでした。国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所が開発した改質リグニンは、リグニン(※)のばらつきとリグニン由来物の加工性の低さを、植物種の絞り込みと、グリコール系の薬液を用いることで解決しています。

左が現行の樹脂基材、右が改質リグニン含有樹脂基材:見た目では区別が付かない。
――改質リグニンの特色や活用について教えてください。
中田氏:リグニンは植物の進化の過程で、海から陸へ移ってきた際、地上での重力に堪えるために生まれ、ベンゼン環で構成された芳香族系化合物であり高強度です。そのため、改質リグニンによりスーパーエンプラレベルの性能を備えたバイオプラスチックが製造可能です。豊田合成株式会社と天童木工と共同で、改質リグニンを含有したバイオマスプラスチックを使用したステアリングやベゼルといったモビリティパーツを開発しています。当社としては今後、豊田合成株式会社とともにこの技術の社会実装を目指し、モビリティパーツをはじめ家具やその他工業製品に用いるプラスチックの代替材料としての活用を視野に入れています。

豊田合成株式会社との共同開発事例:改質リグニン10wt%含有樹脂によるプリプレグ処理FLAX(亜麻)繊維を加飾したステアリング開発品
中田氏:改質リグニンのもう1つの用途がFRPであり、FRPのマトリックス樹脂に改質リグニンを含有させることで、繊維との密着性や強度、バイオマス度を高めたFRP製造が可能です。天童木工が属するリグニンネットワーク内のワーキンググループでは、それと併せてFRP用基布においてガラス繊維や炭素繊維の代わりに天然素材であるセルロース系繊維を用いて、バイオマス度70%のFRP製造も実現させています。セルロース系繊維は、ガラス繊維や炭素繊維よりも染色性が優れているため、調色しやすくなり、意匠の幅も広げられるというメリットもあります。
――バイオマスFRPも天童木工の家具で活用していくのですか?
中田氏:こちらも成形合板で製作してきた家具にも採用できると考えています。当社のカンティレバーチェア(片持ち式の椅子)で試作しています。成形合板よりもさらに薄く、軽くすることが可能であると共に、成形の自由度も高まります。試作品のカンティレバーチェアにも木では到底成形できないような形状がところどころにあります。新しい技術だからこそ実現できる新しいデザインという付加価値も生まれます。


試作品のカンティレバーチェア
――天童木工によるバイオ素材を用いた家具が、一体、どのような形になっていくのか、思いを馳せながら、市場に出てくる日を心から楽しみにしています。
次回は、天童木工が家具メーカーでありながら取り組む、自動車内装品事業について話を聞く。
ライター、編集者。町工場でのトレースや設計補助、メーカーでの設計製造現場での実務を経験。後、大手メディアの編集記者として約12年間、技術解説記事の企画や執筆の他、広告企画および制作、イベント企画など、幅広く携わる。2020年5月に個人事業 facetとして独立。

