2024年における石油化学業界の動向を振り返り、足元では何が起こっているか考察する。
【新着続報】石化再編の見通し(2):石油化学市場レポ

この記事では…
(執筆:柳本 浩希/石油化学コンサルタント)
前回は日本国内の石油化学製品の内需が構造的に変化している点と、ナフサクラッカーの現状についておさえた上で、国内のナフサクラッカーをはじめとする生産装置について再構築する必要性を確認しました。今回は具体的にプレスリリースを見ていきながら、国内の生産体制がどのように変質していくのか検討していきたいと思います。
3つのプレスリリースから把握できること
執筆現在(2024年11月23日)においてプレスリリースされているものは以下の通り3つあります。
- 出光興産と三井化学の千葉地区供給体制再構築
- 住友化学と丸善石油化学の千葉地区供給体制再構築
- 西日本3社(旭化成、三菱ケミカル、三井化学)によるカーボンニュートラル(CN)実現に向けた連携と生産体制再構築
日本のナフサクラッカーが最も集積しているのは東京湾沿岸で、6基存在しています。このうち千葉地区では4基操業しており、出光興産、三井化学、丸善石油化学、京葉エチレン(丸善石油化学と住友化学との合弁)がありますが、出光興産と三井化学は三井化学の装置へと一本化する検討を進めていることを明らかにしています(「千葉地区エチレン装置集約による生産最適化」検討のFEED移行について | ニュースリリース | 三井化学株式会社:2024年10月9日)。集約時期は2027年度を予定しており、まだ先の話で100%確定しているとは言えませんが、少なくとも集約後の装置での稼働率向上と資本の効率化が確実視されることから、実現される可能性は高いと言えるでしょう。
また、丸善石油化学と住友化学については、住友化学が出資する京葉エチレンについて製品引取り量を下げる(≒出資比率を引き下げる)検討を開始(京葉エチレンにおける製品引取比率変更を含む抜本的運営最適化の検討開始について | 事業・製品 | 住友化学株式会社:2024年10月28日)しており、これに伴って丸善石油化学が京葉エチレンの大半を取得し自身が保有するナフサクラッカーを停止する方向で一部メディアが報じました。
つまり上記2件は、千葉地区のクラッカーについて4基あるうちの2基を停止し、残り2基でより効率的な操業を図る再構築となります。前回のコラムにおいて石化メーカーの決算状況をお見せしましたが、住友化学は赤字幅が大きく、特に事業再構築へのインセンティブが高いものと見られます。
そして3番目のプレスリリースについては、旭化成、三菱ケミカル、三井化学が瀬戸内に保有するクラッカー2基(大阪、水島)について、カーボンニュートラルを達成するために各社がグリーン化技術を持ち寄って、共同事業体を設け、将来的には最適な生産体制を構築することを明らかにしました(西日本におけるエチレン製造設備のカーボンニュートラル実現に向けた3社連携の進捗について
| 2024年度 | ニュース | 旭化成株式会社:2024年11月8日)。経済合理性の観点から事業再構築を望む千葉地区のプレスリリースとはトーンが異なっており、瀬戸内ではあくまでCNが前面に出されており、それらが前提となって将来的な最適量産体制の構築が目指されています。これは、おそらく国内大手企業3社による連携ということもあり、単純に生産能力を足し合わせた際、特定の製品シェアが高くなりすぎることから、独占禁止法に考慮したものと想定されます。
公正取引委員会はグリーン社会の実現において企業間の連携が進むことを前提にガイドライン(令和5年3月31日/「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」の策定について| 公正取引委員会)を発表し、具体的に独占禁止法とCNに向けた企業連携との折衷案的な考え方を示しており、この内容を意識していると考えられます。
時間軸としてはまずは千葉地区で2基廃棄となった後、瀬戸内やそのほかの地域においても石化製品の内需やアジア相場を横目で見ながら、必要に応じて1~2基削減をしていくという考え方が適当とみられます。
さらに、大分地区でナフサクラッカーを保有するレゾナックも、石化事業を分社化しクラサスケミカルを立ち上げ、今後の事業再構築やCNに向けた施策をしやすい体制へと変貌します(石油化学事業のパーシャル・スピンオフに向けた グループ組織再編(簡易吸収分割及び現物配当) に関するお知らせ:2024年10月22日)。大分地区のナフサクラッカーについてはレゾナック単独での運営がなされており、今後国内外問わず、他企業との連携が試みられるものと見込まれます。
現在の内需に見合う生産体制という意味では、前回のコラムで見てきた通り、2023年よりも2024年の方が石化製品の内需が萎んでいることから、より削減が必要なバランスにあります。エチレンの見かけ内需(生産+輸入-輸出で算出)は450万トン/年程度となっており、現在の650万トン/年程度の生産体制からすれば生産バッファーを含めても150万トン/年程度は少なくとも廃棄しておかしくない状況です。となると、千葉地区の2基だけでは85万トン/年であることから、さらに1~2基程度は減少する可能性があると言えます。そのため、千葉2基+瀬戸内1基+α削減というのは現実的かもしれません。
このほか、川崎地区もナフサクラッカーが2基存在し製油所とのシナジーが最大化されていますが、国内で最もオレフィンを輸出していることもあり、今後のガソリン需要次第で1基分は廃棄という可能性もゼロではないでしょう。
国内石化産業と少子高齢化
前回から2回に分けて国内の石化事業再編の見通しについて解説してきましたが、国内の石化産業は内需に見合った450万~500万トン/年程度のエチレン生産能力を当面は目指していくことでしょう。ただし、需要がゼロになることはありませんので、最適な生産体制への構築と製品の高付加価値化という普遍的なテーマは、今後も引き続き探究されていくことになります。
一方、「では内需がどこまで減少するのか?」という問いについては、人口減少と高齢化社会を迎える日本が国際社会の中でどのように生き残るのかという問いと重なる部分が多分にあるでしょう。もはやマスケミカルは追い求めないという多くの企業の姿勢からも、差別化できている製品に絞った生産体制が構築されていくものと想定されますが、人口減少に歯止めがかからなければ、当然投下資本も少なくなり、あまり明るい将来は描くことはできません。閉塞的な社会のモメンタムを変え得る日本のグランドデザインが、苦境にある石化産業からも、求められています。
1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。
