国内石化産業における、カーボンニュートラルに向けた取り組みの現状について解説する。
国内石化産業における脱炭素に向けた取り組み(1):石油化学市場レポ

この記事では...
(執筆:柳本 浩希/石油化学コンサルタント)
トランプ氏が米国の第47代大統領に就任してはや2カ月、内政においてはバイデン前政権が掲げた「グリーン・ニューディール」を取り消した上で、電気自動車への補助金が停止され、クリーンエネルギーを奨励するほぼ全ての官製主導による投資も凍結されました。外交面においても、パリ協定から離脱したうえで「エネルギー・ドミナンス」(エネルギー立国)を目指し、化石燃料生産を奨励する方針へと舵を切りました。このような米国の動きを見るとカーボンニュートラル(CN)に向けた世界の動きは止まってしまったかのようです。
一方、株式市場はこのような地球温暖化を否定するかのような米政権の動きに対して、ある意味で冷めた目を向けています。たとえ政府の補助がなくとも、市民の視線からすれば地球温暖化は喫緊の課題であることから、グリーン技術を保有する企業を高く評価する投資家の姿勢や、グリーン投資ファンドの活況に大きな変化は見られません。
トランプ大統領は地球温暖化そのものを全否定しているわけではなく、CNがあくまで民間の市場原理のなかで進めていくべき話であり、足元は他の優先順位の高いトピック(貿易不均衡、移民の問題、ウクライナ戦争の停戦)に注力するというスタンスにも映ります。とはいえ、CNへのムーブメントは一旦勢いが抑えられた状態にあると言えるでしょう。
それでは、日本の石化業界ではどのような動きになっているのでしょうか? 2022年11月に日本で初めてバイオナフサが大阪に輸入された後、政府と民間はどのような取り組みをしてきたのでしょうか。全2回の記事で、日本の石化産業におけるCNに向けた取り組みの現在地を見ていきたいと思います。
まず大前提として、現時点で日本の石化産業に対してCNを達成することに関して、厳しい罰則が伴うような法規は存在しません。カーボンプライシングは電力業界で先行して導入される見通しですし、自主規制での排出権取引などは今後2030年にかけて活発化することが見込まれますが、炭素賦課金と呼ばれる税金を介して石化業界にも影響を及ぼすのは2028年以降となる見通しです。政府は民間の投資と連携して今後10年間で150兆円以上ものGX投資を計画するとしています。
石化産業において主原料となるナフサといった炭化水素に税金が設定された場合は、その分をダウンストリーム(下流)に付け替えるかたちになると想定されます。しかしその場合、合成樹脂の輸入品に対する国境炭素税の設定がないことから、国内の石化産業は大きな打撃を受けることになります。恐らく、これまでの温暖化対策税と同様に免税となることが見込まれます(あくまで筆者の憶測です)。
つまり、基本的には石化産業は民間主導でCNに向けた施策を計画し、「見込みアリ」と見做されれば政府の支援(公金)を得るようなフローで進んでいくことになります。2022年11月に三井化学が初めてバイオナフサを輸入してから2年が経過しましたが、日本の石化産業におけるCNに向けた取り組みはまだ途上にあります。それは、現実的にバイオナフサが輸入された事例が図1の通り限定的となっていることからも明らかです。

図1 日本のバイオナフサ輸入量と価格
輸入ナフサのうちバイオナフサが占める割合は1%に満たず、非常に少ない状況であります。さらに、2024年は2023年よりもバイオナフサの入着数量は減少しました。これらから、合成樹脂を調達するユーザー側が「いくらバイオグレードとはいっても高いお金を出して調達することはできない」という購買行動をしており、思うように日本国内のバイオグレードの石化製品のマーケティングが進展していないことが分かります。バイオナフサの価格は2023年に一時3000ドルを超す高値を付けましたが、その後鎮静化し足元は2000ドル近辺で推移しています。それでも在来型のナフサに対して2.5倍程度の高値となっています。
日本では物価高に伴う家計の圧迫により、消費者意識がCNについていける状況にないほか、そもそも炭素に課税されていない状況の中でユーザー側が得られるメリットは小さい状況です。消費者の目が届きやすくブランド価値を醸成しやすいパッケージの一部で、環境にやさしい容器を宣伝しているものも出てきてはいますが、全体の使用量から見ればごくわずかです。そもそも消費者の目に触れない溶剤や塗料、洗剤の中身、食品の生産工程で使用される袋のように、消費の中で多数を占める分野ではさらにハードルが高い状況です。
このように、日本の石化産業におけるCNに向けた取り組みは、そもそもの罰則的な仕組みがない以上、進行が遅い状況となっています。
しかし、その中でも将来施行される可能性のあるカーボンプライシング導入に向けて、また企業価値向上のために様々なトライアルを実施しています。次回からはその内容について具体的に紹介します。この2~3年の間で、各企業が様々なジャンル(マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、アンモニア/水素、バイオ原料など)でプレスリリースしており、各企業の方向性、志向性のようなものが見えてきています。その輪郭を捉えたいと思います。
(次回へ続く)
1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。
