「宇宙は特別じゃない」、異業種が語る、地上から始まる宇宙ビジネスのリアル ――メッセナゴヤ2025 「Space Approach EXPO」レポート

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ポートメッセなごやで開催された異業種交流展示会 「メッセナゴヤ2025」の、「特別展示 Space Approach EXPO」から、「Space Approach EXPO 出展社プレゼンテーション&トークセッション」についてお届けします。

(執筆:松永弥生/ライター)

2025年11月6日、「Space Approach EXPO 出展社プレゼンテーション&トークセッション」が開催された。海運、物流、ものづくり、生活用品――異業種4社が一堂に会し、“地上の知恵”を宇宙にどう生かすかを語り合った。

宇宙開発を特別な領域にせず、社会全体で支える未来像が、熱気に包まれた会場で描かれた。

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出展社プレゼンテーション&トークセッション「宇宙×異業種:地上の技術が宇宙を変える」

2025年11月6日、ポートメッセなごやで開催された「第7回 Space Approach Forum in メッセナゴヤ 2025」では、「成長を続ける宇宙産業の新たなビジネスの可能性を探る」をテーマにトークセッションが行われた。

モデレーターを務めたのは、宇宙開発エバンジェリストの戸梶歩氏だ。豊田市博物館で開催中の「新宇宙展」監修者としても知られ、民間企業や教育機関と連携しながら宇宙開発の魅力を伝える活動を続けている。冒頭で戸梶氏は、「宇宙は特別な場所ではなく、私たちの暮らしの延長線上にある。今日は地上の技術が宇宙でどんな可能性を拓くのかを、一緒に考えたい」と会場に呼びかけ、トークセッションの幕を開けた。

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モデレーター 戸梶歩氏

日本郵船株式会社 ――海運から“宇宙×海”へ、新たな発射プラットフォームを構想

日本郵船株式会社は、世界約850隻の船を運航する国内最大級の海運企業であり、長距離輸送・ロジスティクスの領域で培った技術とノウハウを強みに持つ企業である。同社が新たに挑んでいるのが「宇宙輸送インフラ」の構築である。

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日本郵船株式会社 イノベーション推進グループ 先端事業・宇宙事業開発チーム 寿賀 大輔氏

きっかけは2020年、社内の新規事業創出プログラムに提出された「ロケットを船から打ち上げる」という提案であったという。このアイデアを端緒に、同社は海上からのロケット活用というユニークな領域に参入した。

2022年にはJAXAおよび三菱重工と共同で、最小型ロケットの洋上回収に関する研究を開始し、現在はJAXA宇宙戦略基金の支援を受け、回収船の研究開発を本格化させている。2024年7月には日本海事協会からコンセプト承認を取得し、大きな節目を迎えた。

背景にあるのは、宇宙輸送の高頻度化が不可欠であるという認識である。船上で安全にロケットを回収できれば、打ち上げコストが低減し、衛星打ち上げ回数が飛躍的に増える。結果として、衛星通信を活用した自律運航船や船員支援システムなど、同社自身が衛星サービスのユーザーとなる未来が描ける点が大きい。

同社の宇宙事業はまだ始まったばかりであるが、海と宇宙をつなぐ新たなインフラを構築する挑戦が着実に進んでいる。

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日本郵船、宇宙事業の歩み

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日本郵船が目指す宇宙事業の姿

郵船ロジスティクス株式会社 ――航空宇宙物流を支える新たなチェーン構築

郵船ロジスティクス株式会社は、日本郵船グループの総合物流企業として70年以上の歴史を持ち、航空・海上輸送、倉庫管理、通関、陸上輸送、サプライチェーン改善コンサルティングなど、多岐にわたるサービスを提供している。世界46カ国と地域に約2万5000人を配置し、372万㎡の倉庫を運営するなど、グローバルな輸送ネットワークを強みにしている。

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郵船ロジスティクス株式会社 産業営業本部 産業第一部 宇宙・航空機営業課 潮田 広行氏

同社が担う宇宙関連物流は、地球上の“陸・海・空”の輸送領域である。ロケットや人工衛星の部品調達輸送、完成品の国際輸送、宇宙実験に使用する器具・試料の輸送など、製造から実証まで幅広い工程を支えている。ニュージーランド向け衛星輸送の実績は、その象徴的な事例である。

宇宙産業向け物流では「品質」「リードタイム」「コスト」「リスク管理」の最適化が求められる。精密部品は衝撃や温度変化に弱く、遅延はミッション全体に影響するため、同社は産業別の専門チームが最適な輸送設計を行っているそうだ。

民間宇宙開発が加速する現在、確実で安全な“地上の物流インフラ”の重要性は増している。郵船ロジスティクスは、その基盤を担う存在として宇宙産業の成長を支えている。

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宇宙産業における地球上の物流

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防振パレットの使用で、通常のトラックに直積みするケースに比べ、衝撃を約75%削減できる

高砂電気工業株式会社 ―― 超精密バルブ・ポンプ技術を宇宙機器に展開

高砂電気工業株式会社は、名古屋市緑区に拠点を置く小型バルブ・ポンプの専門メーカーであり、分析機器向けの精密部品を主力製品としている。液体や気体を高精度に制御する技術を強みに、国内外のライフサイエンス分野で広く採用されている。

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高砂電気工業株式会社 未来創造カンパニー 第一戦略室 山本久美子氏

宇宙分野への参入は、地上向けに開発した小型製品にNASAが着目し、突然メールが届いたことがきっかけである。社員が「本物か?」と騒然としたほどの突然の問い合わせだった。同社のポンプは2014年にISS実験機器として採用され、初の宇宙利用実績が生まれた。

小型・軽量化へのこだわりは、宇宙分野の厳しい重量・容積制約と相性が良く、第1期として実験装置の部品採用が進んだ。その後、第2期ではJAXAの助言を受け、人工衛星用スラスターの燃料バルブの開発に着手。コインサイズのバルブから、次期エプシロンロケット採用予定の製品まで、開発領域が拡大している。

現在は、自社スラスターの完成品開発や、宇宙居住に向けた液体・気体制御技術の応用など、未来の宇宙利用を見据えた取り組みも進行中であるという。地上の精密部品メーカーが宇宙産業へ自然に歩み出した、ユニークな成長の物語である。

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宇宙ビジネスへのステップ

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宇宙生活機器

 
⁠アース製薬株式会社 ――宇宙バイオ・デジタル体験で暮らしの次のステージを探る

アース製薬は衛生・生活用品のメーカーとして知られている。現在、新規事業として大阪大学と共同開発した「MA-Tシステム」という化学技術の研究を進めているそうだ。

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アース製薬株式会社 MA-Tビジネスセンター IP推進室 神野 拓也氏

これは菌やウイルスを抑制する“ラジカル”を必要な時にのみ生成する技術であり、液体中では亜塩素酸イオンとして安定し、対象物に反応する時だけ二酸化塩素ラジカルが発生する特徴を持つ。素材劣化が起きにくい点が従来の除菌剤との大きな違いである。

MA-Tシステムは空間除菌・消臭から航空機内の衛生管理まで幅広く活用されており、密閉空間で安全性と効果を両立できることから、宇宙居住環境の衛生管理技術としても期待されているという。

さらに、強い酸化力を利用してグラフェンやプラスチック表面の改質、塗装の密着性向上など材料分野への応用も検討されており、ロケットのフェアリングや燃料タンクへの利用可能性も示されているという。

また、常温常圧でメタンを酸化できる特性は、地上のカーボンニュートラル技術として有望であり、将来の宇宙基地での資源循環にも応用し得る。すでに内閣総理大臣賞を受賞し、大阪・関西万博でも展示された技術であり、アース製薬は地上から宇宙へと応用領域を拡大しつつある。

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MA-Tシステムとは

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ロケットの塗装における接着性向上などに期待

トークセッション:「地上の技術が宇宙を変える」

戸梶氏が最初に投げかけたのは、「なぜ、宇宙ビジネスに参入しようと考えたのか」だった。

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なぜ、宇宙ビジネスに参入しようと考えたのか?

日本郵船は「海と宇宙の間には、実は共通点が多い」と語り、海上輸送で培った運航管理・安全技術を宇宙へ応用する構想を紹介した。ロケットを洋上から打ち上げ、海上で回収するプラットフォーム構想は、同社の“海を知る力”を宇宙産業に転用する試みである。

続いて郵船ロジスティクスは、「宇宙に関わる物流は、最も地味で、最も不可欠なインフラ」と説明。部品調達から最終組立、回収・再利用までをつなぐサプライチェーンの構築こそ、宇宙開発を支える縁の下の力持ちだと語った。

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実際に取り組んでみてハードルに感じたことは?

高砂電気工業は、真空・極低温・放射線という過酷な環境でも作動する精密バルブやポンプの開発について紹介。「宇宙は究極の品質試験場。誤作動ゼロを目指すものづくりこそ、日本の強みだ」と語った。設計から検証まで、製造現場で積み上げてきた技術を宇宙仕様に引き上げる挑戦の苦労をにじませた。

アース製薬は、「宇宙空間でも、人が快適に過ごすための技術が必要」と指摘。衛生・におい・微生物制御など、生活者視点からの発想で“宇宙における暮らしの質”を研究していると述べた。「宇宙の課題は、地上の健康課題と地続き。だからこそ生活メーカーとしてできることがある」と力を込めた。

終盤、戸梶氏が「異業種連携が生む新しい価値」を尋ねると、4社の意見が重なった。

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宇宙産業に関心のある異業種企業・若手へのアドバイス

日本郵船は「打ち上げから運用まで、単独では完結しない。物流・製造・サービスの融合が不可欠」と述べ、郵船ロジスティクスも「各分野の専門知がつながって初めて、宇宙産業のエコシステムが成り立つ」と応じた。

高砂電気工業は「私たちが作るのは目立たない小さな部品だが、その精度が全体を支える。異業種が組むことで一つの宇宙機が完成する」と語り、アース製薬は「快適さや安全性は“生活技術”の積み重ねから生まれる。宇宙でも地上でも、最終的に人を支えるのは技術と感性の融合」と締めた。

セッションの最後には、主催である一般社団法人 Space Approach Japanの代表から総括コメントが寄せられた。

「宇宙産業は特別な技術者だけのものではありません。今日の登壇企業のように、物流、製造、生活、海運――それぞれの“地上の知恵”が宇宙を支えています。宇宙ビジネスとは、地球の課題を解くための延長線上にあるのです」。

来場者からは大きな拍手が送られ、会場は温かな熱気に包まれた。

この日のトークセッションが示したのは、宇宙産業の未来を担うのはロケットではなく“人の知恵”であるということだろう。異業種の挑戦と協働が、これからの宇宙をより現実的で、より身近なフィールドへと変えていく。

ライタープロフィール

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松永弥生(まつなが・やよい)
関西を中心に活躍するフリーライター。2000年からロボコン観戦を始め、三月兎のハンドル名でイベントレポートや動画で情報発信を開始。編集部からの依頼でライターデビュー。以来、ロボットや製造業関連ニュースをメディアに発信してきた。得意分野は、ロボットと製造業。モノづくりが大好き。文章講座やプレスリリース講座の講師としても活動中。

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PlaBase編集部
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