【速報】緊迫するベネズエラ・イラン情勢:石油化学市場レポ

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この記事では…

ベネズエラとイランを巡る政治・軍事リスクや、原油市場の需給緩和下における価格変動などについて解説します。

(執筆:柳本 浩希/石油化学コンサルタント)

足元の原油相場では、世界的な需給の緩みが意識される一方で、米国の制裁政策や軍事的緊張を背景とした地政学リスクが再び注目されています。その中でも市場が警戒しているのが、ベネズエラとイランを巡る情勢です。両国はいずれも、供給量そのもの以上に「政治・軍事要因によって原油のフローが左右されかねない存在」として、足元の相場に影響を与えています。本稿ではベネズエラとイランの動向を整理します。

原油地政学リスクと石化再編

ベネズエラ情勢を理解するうえでのポイントは、生産回復余地とそれを取り巻く政治環境です。ベネズエラは制裁前の2016〜2017年には日量200万バレル超を生産していましたが、米国による制裁強化と投資不足を背景に生産は一時半分以下へと急減しました。その後は米国の制裁の一部緩和や中国やロシアとの協力関係構築を背景に小幅な回復が進み、2025年時点の生産量は日量90万〜100万バレル前後とみられています。

回復局面にある中で注目されているのが、米国の対ベネズエラ姿勢です。トランプ政権下では、エネルギー安全保障を国家戦略の中核に据え、原油供給を可能な限りアメリカ大陸内で完結させる意向が強く打ち出されています。最近公表されたエネルギー関連の戦略文書でも、西半球の資源国との関係強化が示唆されており、ベネズエラはその文脈で再び注目の的となっていると考えられます。

加えて2026年1月上旬には、米軍の作戦によりマドゥロ大統領夫妻が拘束され米国へ移送されたと報じられ、ベネズエラの政治プロセスが原油供給の前提条件となり得る局面に入ったとの受け止めが広がっています。

ベネズエラとイランの供給見通しを左右する最大の分岐点は、米国制裁の行方です。ベネズエラでは、制裁の「緩和・維持」に加え、一般ライセンスの運用を通じた米国の関与が強まり、供給条件は政治判断に左右されやすい局面に入っています。制裁が実務的に維持される場合、両国の生産は現行水準で頭打ちになりやすく、輸出拡大にも制約が残ります。

こうした環境下では、ベネズエラの生産は日量90万〜100万バレル前後で安定する可能性が高いとみられます。一方イランも生産自体は維持されるものの、正規市場への供給は抑制され、在庫滞留や非公式ルートへの依存が続く構図です。反対に、外交進展などを背景に制裁が緩和されれば供給回復余地が顕在化する可能性がありますが、その実現には外資や技術の本格流入が前提となります。

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もっとも、市場はベネズエラの増産を即効性のある供給増とはみていません。国営石油会社PDVSAの財務悪化や、長年放置されてきた生産・輸送インフラの老朽化は深刻で、米国資本が本格参入して設備更新を進めるには相応の時間を要するとの見方が大勢です。

加えて、政権基盤が必ずしも盤石ではない点も、供給の持続性に対する不確実性を高めています。このためベネズエラは「中期的には供給過多を拡大し得る存在」である一方、短期的に原油市場を大きく動かす決定打にはなりにくいと受け止められています。結果として、相場に対しては下押し圧力というよりも、将来的な増産可能性が意識され上値を抑える重石として意識されるでしょう。

一方、イラン情勢は原油市場に対するより即時的なリスク要因として認識されています。イランの原油生産量は2024〜2025年時点で日量450万〜480万バレル程度とされ、制裁前には日量550〜600万バレル規模まで生産していた実績があります。理論上は制裁緩和が進めば大幅な増産余地がありますが、現実にはそのシナリオは描きにくい状況です。

背景にあるのは、核問題を巡る交渉の停滞と、それに伴う制裁構造の固定化です。米国とイランの関係改善は進まず、むしろ軍事的緊張が断続的に高まる局面が続いています。とりわけホルムズ海峡を巡るリスクは、世界の原油輸送量の一定割合が通過する要衝であるが故に、市場心理への影響が大きくなりやすい点が特徴です。

市場関係者の多くは全面戦争に発展する可能性は高くないとみていますが、その一方で、政権中枢や軍事施設を狙った限定的な攻撃、あるいは突発的な衝突が起きる可能性は否定できないとの見方が優勢です。実際、2025年のイランとイスラエルの間で発生したミサイル攻撃時には、需給の実態とは必ずしも連動しない形で原油価格が一時的に急騰しました。このようにイランを巡るリスクは、供給量の増減以上に「有事発生時の価格反応」を通じて相場に影響を及ぼしています。需給が緩んでいる局面ほど、こうした心理的リスクプレミアムは相場に織り込まれやすい傾向があります。

ベネズエラとイランは、原油市場に対して異なるタイプの政治リスクをもたらしています。ベネズエラは制裁と政権不安を背景に中期的な供給増の可能性を内包しつつも、足元では政権中枢の拘束・移送という事態を受け、供給の条件が政治判断と制度運用(制裁・ライセンス)により一段左右されやすい局面に入っています。一方のイランは、制裁と軍事的緊張を背景に、突発的な価格上振れを引き起こし得る存在です。

米国の対外政策は、原油需給の実態と必ずしも連動せず、国内政治や外交戦略によって急変する可能性があります。制裁や軍事的関与の度合いは政治判断に左右されやすく、その変化が価格変動を増幅させる局面も想定されます。

結果として、表面的には落ち着いた値動きの裏側で、原油市場には一定の緊張感が残り続けています。原油の需給ファンダメンタルズ自体は弱く、基調としては落ち着いた相場が想定されます。それでも政治・軍事リスクが完全に後退しない限り、相場は常に不安定さを内包します。2026年に向けてはベネズエラとイランを巡る政治動向がどのタイミングで相場に波紋を広げるのか、引き続き慎重に見極める必要がありそうです。

※1 本記事の執筆後、米国およびイスラエルとイランとの間で戦争状態に突入しています。ホルムズ海峡が航行不能な状態となっており、アジアの経済全体に甚大な影響を与えつつあります。同内容については、追って記事にしたいと思います。


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プロフィール

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⁠⁠【⁠⁠柳本 浩希(やなぎもと・ひろき)】⁠⁠1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。


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