ナフサショックの正体や、なぜここまで混乱したかを解説します。
【速報】ナフサショックを読み解く~中東紛争による石油化学産業への影響~(前編):石油化学市場レポ

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(執筆:柳本 浩希/石油化学コンサルタント)
今回は「ナフサショックを読み解く」と題し、足元の「ナフサショック」が与えている影響と、石化企業の動きについて前解説し、現状どのようなリスクが潜在しているのかを明示します。
なお、SNSで多く見受けられた素朴な疑問には、姉妹サイトの「Chematels」で応えていきます。
読者の方々が会社や職場、あるいは私生活の中で、足元の状況を過度に不安に覚えることなく、一方で適切なリスク管理をしながらこの危機に対処する一助になれば幸いです。
中東紛争が引き起こしたナフサ供給ショック
2026年2月28日、米国およびイスラエルによるイランへの攻撃に端を発した中東紛争は、開戦後1カ月が経過しました。これまでも記事の中でイランリスクは繰り返しお伝えしてまいりましたが、湾岸諸国を巻き込んだ武力衝突という最悪のかたちとなりました。
開戦直後からホルムズ海峡は実質的に封鎖された状態が続いているほか、サウジアラビア、UAE、カタール、バーレーン、クウェートの製油所や天然ガス施設が攻撃を受け、停止を余儀なくしています。
各種報道の通りその混乱はすさまじく、SNSではナフサの不足により「医療現場は崩壊する」とか、「20日後には産業全体がパニックに陥る」などといった様々な個人的観測が流布されています。
政府は混乱の収束を図るべく、足元の在庫動向に加えて、ホルムズ海峡を通過せずに日本に入着した原油やナフサのタンカーが日本に入着した情報など、公開可能な範囲で情報を積極的に流すことで、国民に対して冷静な対応を呼びかけていると推測されます。
とはいえ、先行き不透明感はぬぐえず、漠とした将来への不安はパニック買いの様相を呈してきており、欠品や受注制限、新規の取り扱い不可能などメーカーや商社は次々に供給を制限する動きを示しています。
仮需と実需との判別が不可能ななかで、真に必要とされる分野や用途への供給が寸断されるリスクはあります。一方、仮需として在庫を抱えることにも大きなリスクはあることから、需要家サイドは適切な対応が必要です。
ナフサ供給構造とクラッカー停止の現実
石油化学工業協会が明らかにしている通り、日本のナフサは中東地域から日本が輸入しているナフサが約4割、その他の地域からの輸入が約2割、国内の製油所から供給される国産ナフサが約4割の構成となっています。
この情報だけ聞けば、6割の稼働で何とか回せるのではないかと思われがちなのですが、実情は異なります。今年1月の日本のクラッカー稼働率は75.8%と低迷していました。ここからさらに中東分の原料がなくなるということは、単純計算で75.8%(稼働率)×0.6(中東以外からの輸入比率)=45.48%となります。
ぱっと見ると約半分の稼働ということになりますが、クラッカーの最低稼働率は約70%となっており、それ以下では稼働ができません。中東からの輸入が止まることで、各クラッカーが最低稼働を維持することが不可能となるほか、通常ナフサは20日程度の在庫しか持ち合わせていません。
そのため、中東紛争発生直後は、パニックに近い状況となりました。
各社がナフサを融通し合って稼働をどこかの地区に寄せることで、供給される原料見合いである45%程度の石化製品の生産は実現されるのではないかとの想像を働かせることも可能ではありますが、実際は一つのコンビナートの出発点となっているクラッカーが停止すれば、電力や蒸気などの授受が不可能となり、その誘導品も全て停止せざるを得ないことから、一部のクラッカーに生産をしわ寄せしたとしても、コンビナート間での損得が残酷なほどに明確化されてしまうため、稼働の片寄せは非現実的です。

アジア全体への波及と域外調達の進展
窮状は日本だけではなく、韓国や台湾、東南アジアでも同様の状況となり、アジア全体でナフサの不足はさらに鮮明化しました。アジア・ナフサ相場はすぐに急騰し、中東紛争以前から比べて約二倍の価格にまで値上がりしました。
ペルシャ湾およびホルムズ海峡はこれまでイラン・イラク戦争時に石油タンカーが攻撃されたり機雷がまかれたりする事態が発生してきましたが、足元では自爆ドローン技術の向上および一般化に伴い、容易にタンカーを襲撃することが可能となりました。このリスクに対してアジアは脆弱であったと言えます。
もともと不足ポジションだったアジアのナフサ需給において、ホルムズ海峡の実質的封鎖は致命的な打撃を与え、アジア域外からの流入を求めるべく、相場が跳ね上がったわけです。
アジアのクラッカーは紛争発生後すぐに稼働を最低の水準へと稼働を調整したうえで、非中東産ナフサの探索を開始しました。同時にアジア相場がロケットのように跳ね上がったことで、欧米など域外からのナフサのフローが開き始め、特に米国から多くのタンカーがアジアに仕向けられました。
これによって、日本では5月末まではコンビナートの操業維持に最低限必要なナフサを調達することができています(ただし、同一企業が1つのコンビナートに2基以上クラッカーを保有しているようなケースでは、計画的に1基分を停止する措置を採る可能性もあります)。
次回は、ナフサの供給は持ち直したのか、これから何が起きるかについて解説します。
(後編に続く)
【筆者より】
なお、以下につきましては、hiroki_yanagimoto1@yahoo.co.jpまでお気軽にお問い合わせください。
・メディア関係の取材
・個別企業による相談
・中東紛争をめぐる相談、個別セミナーの開催
・新任担当者向けセミナー
1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。
