PlaBaseが見た「人とくるまのテクノロジー展2026 YOKOHAMA」

2026年5月に開催された「人とくるまのテクノロジー展2026 YOKOHAMA」(会場:パシフィコ横浜、主催:自動車技術会)。加速するEVシフトに伴う「熱マネジメント」や「バッテリーの高エネルギー密度化」、そしてLCA(ライフサイクルアセスメント)の観点から不可避となった「サーキュラーエコノミー」への対応など、次世代モビリティは今、素材レベルでのパラダイムシフトを迎えています。
本展示会にて、PlaBase編集部はブレイクスルーの鍵となる最新の材料・化学技術を独自に取材しました。本記事では、軽量化と高機能化の両立、リサイクル材の物性向上など、編集部が特に関心を持った5社の画期的なソリューションを一挙にご紹介します。
1. 【住友ベークライト】
次世代モビリティを支える中核技術
〜バッテリー熱暴走対策とe-Axle樹脂化の最前線〜

住友ベークライトのブースでは、EVシフトやサーキュラーエコノミーといった自動車業界の大きな潮流に対し、熱硬化性樹脂のトップメーカーならではのアプローチが光る展示が行われていました。特に注目すべきは以下の3点です。
バッテリーの安全性向上(CBMコンセプト)
フラウンホーファー研究所(ドイツ)と共同提案する「CBMコンセプト」は、高電圧下での絶縁性と放熱性を高度に両立しています。
最大の特長は、仕切り板などに使われるフェノール樹脂の圧倒的な難燃性です。2.2kWのバーナーで直接炙っても燃え抜けないため、万が一セルが熱暴走を起こしても、隣接するセルへの類焼(熱伝播)を確実に防ぎます。

バッテリーソリューション
「金属メッキ技術」によるe-Axleの小型・軽量化
駆動ユニット「e-Axle」のインバータ筐体などを金属から樹脂へ置き換える画期的な提案です。鍵となるのは、樹脂表面へのダイレクト金属メッキ技術。本来メッキを弾きやすいフェノール樹脂に対し、材料配合の工夫で強固なメッキを施すことに成功しました。これにより、樹脂ならではの大幅な軽量化と、金属同等の電磁波シールド性(電界波・磁界波を99%カット)を見事に両立させています。
使用後の材料回収を実現する「易解体性材料」
「熱で溶けないためリサイクル困難」とされてきた熱硬化性樹脂の課題を解決する、資源循環に向けた新素材です。
ローター磁石固定用エポキシ樹脂
使用時は強固に磁石を固定しますが、約300~400℃に加熱すると樹脂自らがひび割れ(クラック)、従来は回収が困難だった高価なレアアース磁石を簡単に取り出せます。
易解体性接着剤
バッテリーカバー等の接合において、使用環境下の強度は保ちつつ、特定の解体温度に達すると接着力が低下し、ポロッと綺麗に剥がすことが可能です。

易解体性材料
素材の特性を熟知した同社ならではの、機能性と環境対応を高度に両立させる技術開発力に今後も期待が高まります。
2. 【FUJIPOLY(富士高分子工業)】
導電性ニーズに応える最高クラスの「超高熱伝導シート」

自動車の電動化やADAS(先進運転支援システム)の高度化に伴い、コントロールIC等の発熱対策は年々シビアになっています。今回、我々編集部がFUJIPOLYのブースで注目したのは、次世代の熱対策ソリューション「カーボン配向 超高熱伝導シート」です。
これまで熱対策は絶縁性が主流でしたが、担当者によれば「近年は導電性であっても、より高い放熱効果を求めるニーズが急増している」とのことです。本製品は、バンドー化学とのパートナーシップで開発されたパテ導電性のシートです。厚み方向にカーボンファイバーを配向させることで、CF210Aで21.0W/m・K、CF400Aで40.0W/m・Kという圧倒的な熱伝導率を実現しています。さらに見逃せないのが、0.5mmという極薄加工に対応している点です。これにより熱抵抗を極限まで低減できます。また、圧縮時の応力を抑えて組み付け作業性を高めており、難燃性規格(UL94V-0)もクリアしています。
「絶縁性は必須ではないので、とにかく熱抵抗を下げたい」という開発現場の切実な課題に対し、確かなパフォーマンスでブレイクスルーをもたらす強力な選択肢となるはずです。

カーボン配向 超高熱伝導シート
3. 【MP五協フード&ケミカル】
ホタテ貝殻がもたらす高機能バイオマスコンパウンド

数ある環境対応素材のなかでも、未利用資源の活用と新たな機能性の付与という点で編集部が特に注目したのが、MP五協フード&ケミカルの「ホタテ貝殻由来のバイオマスプラスチック」です。
本素材の最大の強みは、樹脂に練り込むことで付与される「独自の物性」にあります。ホタテ貝殻特有のナチュラルなアイボリー色により高い意匠性が得られるほか、一部を焼成加工することで大腸菌や黄色ブドウ球菌に対するエビデンスを伴う優れた抗菌・防カビ効果を発揮します。
開発当初は使い捨ての日用品向けを想定していたようですが、この高い機能性を活かすため、人がよく触れる自動車部品や水回りの家電といった耐久消費財へターゲットを転換されました。
年間大量に廃棄される国内の未利用資源を、単なる代替材ではなく高機能マテリアルへと昇華させた本技術。資源循環と機能性付与を両立するアプローチとして、今後の実装拡大に期待が高まります。

「青森県産ホタテ貝殻」を活用したバイオマスプラスチック
4. 【ユニチカ】
無塗装による意匠性の革新と、PA66代替を視野に入れたサステナブル素材

ユニチカブースでは、「無塗装・高意匠化によるコストダウン」と「環境配慮型素材への転換」という、自動車業界が直面する2大課題に対する明確なマテリアルソリューションが提示されていました。化学・材料技術の動向を追う我々としても、非常に示唆に富む内容です。
樹脂の耐熱性が実現する「無塗装ピアノブラック」
最も目を引いたのは、ポリアリレート樹脂「Uポリマー」と透明ポリカーボネート(PC)を用いた2色成形技術です。1層目(基材)にUポリマー、2層目に透明PCを打ち込むことで、深みと高級感のあるピアノブラックを実現しています。
特筆すべきは、Uポリマーの卓越した「耐熱性」です。2層目のPCを約300℃という高温で成形しても、1層目のUポリマーが熱による変形や溶融を起こさないため、この鮮やかな多層構造が成立します。塗装工程の完全な排除(脱炭素・コストダウン)と高意匠性を同時に叶える、まさに樹脂の物性を巧みに活かした技術と言えます。

無塗装ピアノブラック(2色成形技術)
環境配慮型ナイロン材料
サステナブル材料のコーナーでは、既に採用実績を持つケミカルリサイクルナイロン(PA6)に加え、植物由来原料を使用した「バイオマスナイロン」が披露されました。
特に注目したいのが、ナイロン56の展開です。これらは、自動車部品の汎用エンプラとして多用されているPA66(ナイロン66)と非常に近い特性(機械的強度や耐熱性など)を持っています。「環境対応は急務だが、要求物性は落とせない」という現場のシビアなニーズに対し、既存のPA66部品からスムーズに代替できる現実的なアプローチは、非常に実用性が高いと感じました。
このほか、放熱性や電磁波シールド性を付与した機能性プラスチックやスーパーエンプラなど、材料メーカーならではの奥深いアプローチが随所に光る展示内容でした。
5. 【カネカ】
3D曲面ペロブスカイト/結晶Siタンデム太陽電池

同社はカネカのブースでは、次世代モビリティの動力を担う「3D曲面ペロブスカイト/結晶Siタンデム太陽電池」に注目しました。
主流の結晶シリコン単体の変換効率で26.7%を実現していますが、ボトムセルに長年培った独自のヘテロ接合技術を採用し、上部にペロブスカイト層を重ね合わせることで、現時点で32.6%という極めて高いセル変換効率を達成しました。将来的には40%超えを目指し開発を続けているとのことです。
本開発において特筆すべきは、両層を直接一体化させた「2端子構造」です。それぞれから電気を取り出す4端子構造とは異なり、配線等の部品点数を削減できるため、限られた車載スペースや意匠性が求められる3D曲面ルーフへの実装に最適解となります。
過酷な要求を満たす車載品質のクリアというハードルはあるものの、早期の実用化を目指しています。材料メーカーならではの化学的アプローチに今後も期待が高まります。

3D曲面ペロブスカイト
タンデム太陽電池説明パネル
今回取材した5社の展示からは、モビリティの未来を素材から変革しようとする強い意気込みと、それを実現する高度な技術力がはっきりと感じられました。
PlaBaseでは、今後もモノづくりの最前線で活躍する画期的な材料や技術の動向に注目し、皆様に役立つ最新情報をお届けしてまいります。

これまでカタログや材料メーカー各社のホームページ内に散在していた樹脂(プラスチック)成形材料の情報をPlaBaseに集約しました。 メーカー・樹脂名・物性値など多様な検索方法によって、お客様の目的に合った樹脂成形材料のデータを探し出すことができます。

