ホルムズショック後の石化製品輸出入の変化から考える日本の石化産業の未来(1):石油化学市場レポ

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この記事では…

ホルムズショック後の石化製品の輸出入の変化から見えてくる日本の石化産業の未来について解説します。

(執筆:柳本 浩希/石油化学コンサルタント)


⁠2026年3月のホルムズショックでは、日本の石油化学産業をめぐる議論の中心は「ナフサそのものを確保できるか」に置かれた。しかし、実際にナフサの調達が困難だった期間は短く、日本はナフサを高値で調達し続けるかたちとなった。メディアを介して石油化学製品の供給不安が伝播するなか、より大きな構造変化は実はナフサよりも石化製品の方に表れている。今回から連載で、ホルムズショック後の石化製品の輸出入の変化から見えてくる日本の石化産業の未来について解説したい。

以下の表に示した通り、ホルムズショック後の4月を境に石化関連品の輸入が一段と増え、逆に輸出は急減した。今回、石油化学製品(モノマー、ポリマー、フィルムなどプラスチック製品、繊維、界面活性剤、合成ゴム製品など誘導品を含む、輸入664品目、輸出527品目)の輸出入を集計すると、2026年1~3月は輸出333.7万トン、輸入287.6万トンで46.1万トンの輸出超過だったのに対し、4~6月は輸出245.7万トン、輸入344.8万トンとなり、99.1万トンの輸入超過へ転じた。わずか3か月でネットバランスは約145万トン悪化したことになる。

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表 国内の輸出入の状況


国内の石化メーカーは高値のナフサでは製品を輸出してもマージンが確保できないことから、軒並み稼働を引き下げた。それによって一部の副産物では国内への供給量が細るかたちとなったが、国内の供給不足は輸入を増やすことで埋められた。不足する分野や業界があったものの、日本国内の石化製品の需給がなんとか維持された背景には、輸入品による補填が大きく寄与している。

このようにホルムズショックは日本の石化製品の貿易構造そのものを変えた。日本の石油化学産業は輸出過多から輸入過多へと変貌し、もはや外貨を稼ぐ産業ではなくなった。Q2で輸入が最も増えたのはメタノールで、Q1比9.6万トン増。続いてEDC(1,2-ジクロロエタン)が4.1万トン、エチレンが3.7万トン、ブタジエン等が2.8万トン、PETが2.6万トン、スチレンが2.4万トン増えた。さらに酢酸、トルエン、ポリエチレン、ポリプロピレン、界面活性剤、フィルムや袋などの加工品でも輸入増が確認できる。増えたのは完成品だけではなく、基礎原料、中間体、合成樹脂、加工品までサプライチェーンの複数階層に及んでおり、合成樹脂や加工品を取り扱う商社の利益は大幅に増加した。

一方、輸出減はさらに大きい。Q2の輸出はQ1比88.0万トン減少した。最大はPXの22.1万トン減で、プロピレンとVCMが各約11万トン、エチレンが9.3万トン、ベンゼンが9.2万トン、PVCが8.0万トン、トルエンが6.5万トン減った。従来、日本が輸出ポジションを持ってきた基礎化学品やモノマーが中心である。国内生産が減れば、まず輸出を切って内需を優先する。その結果が統計に表れたとみるのが自然だろう。


ここには日本の石化産業が持つ「余剰輸出」の機能が見える。平時に輸出している数量は、非常時には国内需要を守るバッファーになり得る。ただし、そのバッファーを使い切った後も国内設備の稼働が戻らなければ、次に増えるのは輸入である。今回のQ2は、まさにその二段階の調整が同時に進んだ局面だった。

もちろん、今回の集計対象には厳密には石油化学製品だけではない品目も含まれており、3か月だけで日本の石化産業が恒久的な輸入産業へ転じたと断定することはできない。それでも、4月以前と以降で傾向が明確に割れた事実は重い。ショック時に輸入品へ代替できたことは日本の調達力の強さを示した一方、その状態が常態化すれば、国内設備の稼働率低下と輸入シェア上昇が相互に進む可能性がある。

今回の統計が示したのは、「モノが来たから危機は終わった」という安心感では終われないということである。日本の石化産業は、輸出を削って国内を守り、それでも不足する部分を輸入で埋めるところまで踏み込んだ。ホルムズショックは、原料危機をきっかけに日本の石化製品貿易がどれほど短期間で反転し得るかを可視化した。次に問うべきは、「この輸入を支えた供給源が将来も同じように機能するのか?」という点であり、次回のコラムで問題提起することとしたい。(次回へ続く)

筆者より
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⁠1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。