ナフサレポート

ナフサとは

*製油所の副産物

ナフサとは石油製品の一種で、主に原油を原料として生産される透明な軽質油(液体)です。石油製品は石油会社が製造、販売していますが石油会社の目的生産物はガソリンや灯油、軽油などいわゆる自動車や航空機、ストーブなどで使用される燃料用途の油です。ナフサはそれらの目的生産物にはならない、比較的軽質であり、常温常圧下で液体のものを総称しています。注意したいのは、ガソリンにはナフサが混ぜられる点です。ガソリンに混ぜられたナフサはナフサとしてではなくガソリンとして販売されますから、最終的にガソリンなどに混ぜることのできなかった液体の軽質油がナフサとして出荷されるわけです。ナフサよりも軽い油は常温常圧時に液体ではなく気体となり、LPG(液化石油ガス、プロパン・ブタンの総称)の領域となります。ナフサが石油会社にとって目的生産物にならない余り物であることをまず、おさえておきたいと思います。

 

*語源

なぜこの石油会社にとって目的生産物ではない軽質炭化水素油は「ナフサ」と呼ばれるのでしょうか?諸説ありますが、産業革命により製油所が立ち現在のようなナフサが製品化される前は、ナフサは広く液体の化石燃料のことを総称していたとの見方が有力です。ペルシア地方で原油のことをナフサと呼んでいたことや、古代ギリシア語やラテン語で、ナフサは広く燃料のことを指していたことからも、現在から比べると広義の意味で使用されていたことが伺えます。当然、産業革命以前において製油所は存在していないわけで、現在のように石油をその留分に分けて呼ぶことはなかったのだと考えられます。そのような広い意味を持っていたナフサですが、製油所が立ち始めた19世紀後半、原油と各石油製品の定義付けがなされるようになります。原油から取り出して一番比重が重い留分を重油、そして照明用途の灯油、自動車燃料用途のガソリンなど、それぞれの用途に分けて生産することが可能となりました。新たな油を商品として販売するわけですから、それぞれの留分には上記の通りしっかりと呼称がつきました。一方、この軽質炭化水素油は目的生産物ではないことから、新たな名前がつかず、古来からあるナフサいう言葉をとりあえず適用した後、旧来の意味は時の流れによってそぎ落とされ、この透明な軽質炭化水素油に対する固有名詞としての「ナフサ」へ転じたのではないかと私感しています。

 

*石油と石油化学との架け橋

石油会社にとって目的生産物にならない副産物(バイプロ)であるナフサは、元々石油化学製品の原料となる前まではボイラーなどの発電用途以外で使い道がなければ燃やされていました。しかし、その後ポリエチレンの工業化が進み、ポリエチレンの原料であるエチレンの原料ソースとして脚光を浴びることになります。北米ではガスが採取されていたことから、エタンも当然エチレンの原料になりましたが、ナフサはエタンのように気体ではないため常温常圧で持ち運べる点や、パラフィンと呼ばれるエチレンに分解可能な成分を多く含むことから、エチレンの原料として使用されることになりました。アジアで初めてポリエチレンを生産したのは日本の石油化学会社ですが、その原料として使用されたのは日本の製油所にて生産されたナフサになります。その後、日本がアジアのエチレン生産をけん引し、ナフサを水蒸気で分解しエチレンを生産するナフサクラッカーが次々と建設され、国内の製油所から供給されるナフサだけでは賄えず、輸入に頼るようになります。欧米ではナフサ以外のエタンやLPGもクラッカーの原料として使用されましたが、アジアでは中東や東南アジアの製油所(供給地)とクラッカー(需要地)との位置が離れていたことから、船で輸送することが前提となり、タンクや船などのコストが安く仕上がるナフサがその主原料となりました。こうして、石油産業のお荷物だったナフサは、一転して石油化学という今ではとてつもなく広大なフィールドの入り口を担うことになったのです。クラッカーではエチレン同様にナフサを水蒸気で分解して得られるプロピレン(C3)やC4-5留分、アロマ(ベンゼン、トルエン、キシレン)の有効利用が進みます。ポリプロピレン、合成ゴム、溶剤や塗料などの分野開拓、新製品の開発が瞬く間に実行され、ナフサクラッカーを起点として様々な分野へ、谷から平地へと水が広がるように産業の裾野は広がりました。クラッカーがなぜ日本では「エチレンクラッカー」、「エチレン装置」という呼ばれ方をしているかと言えば、元々エチレン生産を主眼としていた装置だったからです。ただし、現在ではエチレン以外の留分も当然クラッカーの主力製品となっています。そのため、少し業界に足を入れている人であれば単に「スチーム(=水蒸気)クラッカー」ないしはその原料がナフサであれば「ナフサクラッカー」と呼ぶことが多くなりました。いろいろな名称が出てきましたが、ナフサとそれぞれの関係について以下の表に示します。

*ナフサと言っても色々なものがある

さて、ナフサと一言で言っても、同じ合成樹脂でも比重や分子量分布、結晶構造などによって性状に違いがあるように、多様な種類のものがあります。一物一価であるエチレンやプロピレンなどのモノマー製品(厳密には純度により異なりますが)に対し、その原料であるナフサがまるで「生もの」のように多様な種類がある点は、あまり知られていないのかもしれません。折角ですのでその点をおさえておきたいと思います。前段で述べたように、製油所において出てきて「しまう」ナフサの性状はその製油所が処理する原油の種類、また蒸留、改質装置の構成によって異なります。世界には多様な製油所があります。古くからある一次的なプロセスを採用したままの製油所や、二次装置と呼ばれる触媒による接触分解や、改質する装置を設けてガソリンやアロマなどの目的生産物の生産を最大化している製油所など、様々です。そのため、ナフサは出てくる製油所によって性状が変わることになります。もっと言えば、製油所が同じでも装置の稼働状況によって性状は異なりますので、調達をする人は性状に対して非常に気を遣うことになります。このような特徴はナフサに携わる人しか知らない話ですので、一物一価だと思われていた方は驚かれるかもしれません。日本に輸入されるナフサの積地は中東や韓国がメインですが、欧州や米国からも輸入されています。

 

*ナフサの影響力

弊社では石油化学向けの専門紙(NAPレポート)を購読頂いている方やナフサの輸入仲介でお世話になっている会社様に対し、ニーズに合わせたセミナーや勉強会を年に30回程度開催しています。その際に、なぜナフサの価格がこれほどメディアに取り上げられるのか質問を受けたことがあります。たしかに、石油産業のなかでは原油から得られるナフサの量は全体の10%程度と大きくありません。しかし、このナフサを出発点として製品のチェーンが合成樹脂、合成繊維、合成ゴム、溶剤、塗料まで幅広く繋がります。日本における化学産業は経済規模が製造業では自動車に次ぐ二番目の規模となっており、その中核が石油化学産業である点を踏まえれば、出発点であるナフサへの注目が高まるのは自然なことのように思えます。さらに、「ナフサ-プロピレン-ポリプロピレン-バンパー-自動車部品」のようにバリューチェーンが重層化している点もナフサ相場に注目を集める当事者が多い理由となります。石油製品のなかで、日本においてナフサは最も輸入量が多く、広い意味で石炭を除いた炭化水素という意味では、原油、天然ガスに次ぐ輸入量であり、これまでも、そしてこれからも影響力は大きいと言えるでしょう。

株式会社アメレックス・エナジー・コム

少数精鋭の人財基盤のもと、国内石油製品、電力、輸入ナフサの仲介をするほか、ナフサ/石油化学の情報誌“NAPレポート”を発行。ナフサ取引の仲介業務をするかたわら、マーケットの情報を提供/コンサルする国内唯一の情報会社。

【石化原料部長 兼 NAPレポート編集長 柳本 浩希】

1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。2016年にAmerex Petroleum Corporation東京支店入社。現在、株式会社アメレックス・エナジー・コムにてナフサ取引の仲介のほか、ナフサ/石油化学の情報誌の編集責任を務める。

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PlaBase編集部
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