プラスチック加飾技術について紹介する連載の第2回。今回は、日本国内と欧米、それぞれの加飾技術の技術動向について解説する。
【第2回】プラスチック加飾技術〜最近の動向1〜
今回の記事は…
日本におけるプラスチック加飾技術の最近の動向
プラスチックの加飾は、日々進歩している。現時点(2019年9月時点)での日本の加飾関係全般の動向は下記のとおりである。
1)単なる加飾から機能付加加飾へと展開が進んでいる。
2)塗装レス(めっきレス)加飾への関心が高くなっている。
3)現時点で加飾の中心的な技術であるフィルム加飾で、多くの利点のあるOMD(アウトモールド加飾)がその構成比率を高めている。
4)動植物の持っている優れた性能を応用するバイオミティクスが、加飾においても、構造色加飾等に応用され、関心が高くなっている。
5)オンデマンド印刷ができるインクジェット印刷等で自分だけ加飾などが普及してきている。
6)触覚のニーズが高く、ソフト、ソフトフィール加飾も根強い需要がある。
欧米における加飾技術の最新の動向
欧米の加飾関係全般の動向は、日本の場合とほぼ同様であるが、他の成形技術(発泡、ガスアシスト等)との組合せが活発、自動車外装、外板へのフィルム加飾、モールドインカラー等の適用は、2000年代の前半に始っている、本物指向、環境への関心は日本より高い一方で、OMD、機付加加飾は、日本ほど進んでいないように思われる点で、異なる。
【 機能付加加飾 】
基本加飾と機能付加加飾
加飾の本来の目的は、見栄え、外観等の視覚的な心地よさ、高級感を付与することであるが、最近は、本来の加飾と同時に、各種の機能を付加する「機能付加加飾」へと展開が進んでいる。付加される機能は、下記のとおりである。
1)表面特別性能付加(温度による変色、撥水、ガスバリア等)
2)表面触覚性能付加(ソフトフィール、冷感等)
3)(表面)保護性能付加(傷つき防止、指紋付着防止、耐光、クッション性、防汚、
防水・防湿、抗菌等)
4)電気性能付加(電波透過、赤外線過、EMIシールド、帯電防止等)
5)光学性能付加(光透過表示、AG、AR等)
6)臭覚性能付加(芳香等)
7)聴覚性能付加(金属音、メロディ等)
機能付加加飾の実例
加飾において、高い触感を付加したものが求められることも多い。
【 図2-1 機能付加加飾例-1 】
図2-1は、高触感を付加した例で、同図上左は、NISSHA㈱(*2-1)の高触感(ソフトフィール)+光透過フィルム貼合品で、同図上右は、デンカ㈱(*2-2)のシート表面に凹凸形状を付与した起毛シートで独特の風合いを有する。また、同図下は、日産㈱(*2-3)のソフトフィールシボで、シボ凹凸の大きさが調整され、ハードにも関わらず、指でなぞるとソフトに感じられるシボである。
【図2-2 機能付加加飾例-2(電磁波透明化フィルム、成形品) 】
図2-2に、光、電磁波、光透過フィルム、成形品を示す。同図左上は、NISSHA㈱のハーフミラーフィルムによる光透過成形品、同図右下は、ウェーブロック・アドバンスト・テクノロジー㈱(*2-4)の6層のメタリック調加飾シートで、これらは不連続(海島構造)金属皮膜を有し、電磁波透過性と成形伸び性が良好である。同図上右は、そのシートを使用した太平洋工業(*2-5)のスマートエントリー、また、左下は、東レ㈱の超多層ナノフィルムの構造色フィルム(*2-6)で、金属や着色剤を使わずにメタリック外観と光・電磁波透過性を有し、車載用衝突防止システム部品等として実用化されている。
【 図2-3 機能付加加飾例-2(装飾タッチパネル) 】
図2-3は、NISSHA㈱(*2-1)、大日本印刷㈱(*2-7)の装飾性タッチパネルである。
【 図2-4 機能付加加飾例-4(その他) 】
図2-4は、その他の例で、図上は、布施真空㈱のTOM成形で、フィルムを成形品裏面の一部まで被覆して、防水したものである(*2-8)。これにより従来エポキシ樹脂で封止していた基盤が、大幅に簡略化できる。本処理は、OMDでのみ可能で、IM-Dでは不可である。図2-4の右下は、ハスの葉を応用した綜研化学㈱(*2-9)の超撥水フィルム、下右は、蛾の眼を応用した三菱ケミカル㈱のモスアイ型反射防止フィルム(*2-10)である。
その他、金属音めっき、色変化、圧力・温度センサー、香り、消臭、抗菌、抗ウイルス付加など多くの機能付加技術が開発されている。
(次回へ続く)
参考文献
*2-1) NISSHA㈱ 入手技術資料、サンプル
*2-2) デンカ㈱ 高機能ワールド2016
*2-3) 日産自動車㈱
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jrsj/30/5/30_30_494/_pdf
*2-4) ウエーブロック・アドバンスト・テクノロジー㈱ コンバーテック総合技術展2018
*2-5) 太平洋工業㈱
http://www.pacific-ind.co.jp/products/technology/technical/cover/index4.html
*2-6) 東レ㈱ 高機能ワールド2012、Naotec2016
*2-7) 大日本印刷㈱ 人と車のテクノロジー 2019
*2-8) 布施真空㈱ 入手技術資料、サンプル
*2-9) 綜研化学㈱ コンバーテック総合技術展2015
*2-10) 三菱ケミカル㈱
https://www.m-chemical.co.jp/products/departments/mcc/ams/expo/15.pdf
著者
MTO技術研究所 兼 加飾技術研究会 桝井捷平
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