コロナ禍で不安なのは市場も同じ! 一部の石油化学製品相場はパニック買いが――ナフサレポートVol.5

今回の記事は…
新型コロナウイルス問題の禍中である現在の状況を踏まえて、石油化学市場のこれまでの相場を振り返るとともに、今後の見通しについて解説する。

前回の記事で、「世界の石油をめぐる情勢は10年に一度の危機」であることをお伝えした上で、減産が成立しても相場は低位にて推移すると予想した。実際、ブレント原油相場は1バレル当たり35ドルをトライする場面もあったが、最終的に20ドル前半へ反落し、ナフサ相場も1トン当たり160-230ドルのレンジで安定した。国産ナフサ価格は第二四半期(2Q、4~6月)には1キロリットル当たり2万3000~2万4000円と、第一四半期(1Q、1-3月)から比べると2万円以上下落する見通しだ。

【 グラフ:2020年3月上旬~4月下旬のブレンド原油およびナフサ相場の推移 】

一方、石油の世界から離れて石油化学の方へと目を向けると、世界でいち早く新型コロナウイルス問題に伴うロックダウンから復帰した中国国内の需要が急回復したことから、一部の分野で相場は底打ちムードが出てきている。今回は、これまでの相場を振り返るとともに、今後の見通しについて解説していきたい。

「原油をもらえば、お金がもらえる」、おかしな状況に


2020年3月5~6日にOPECプラスによる協調減産体制が崩壊した後、原油相場は半値以下まで暴落した。油価の下落を食い止めるために、産油国は再び国際秩序の構築を急いだ(この背景については、前回記事を参照)。米国は仲違いしたサウジアラビアとロシアとの間を仲介。同年4月9日木曜にはOPECプラスの緊急会合が開催され、サウジアラビアとロシアは、米国やカナダ、メキシコ、ノルウェーなど非OPECプラスの産油国による減産と引き換えに、同年5月から協調減産体制へ復帰することを約束した。

しかし、OPECプラスの緊急会合の翌日である10日金曜、G20・エネルギー相会合では、OPECプラスが打診した減産幅をメキシコが拒否した他、米国やカナダが計画減産ではなく市場原理に基づく「自然の供給減」に固執したこともあり、減産幅に対する決定はなく、「相場安定に向けて断固取り組む姿勢」を表明するのみで終わってしまった。もしこの状態で月曜日を迎えていたとしたら、原油価格は10ドル台後半まで値を下げていただろう。実際は、その後の土日まで協議は続き、米国時間12日日曜の夕刻になってようやく減産合意が成立。OPECプラスは3月の産油量から日量970万バレル減産することが決定された。
米国のトランプ大統領が両国のブローカー(仲介者)を担うことにより、かつてない規模の減産ディールが成立した。サウジアラビアのエネルギー相はその日の会見で、声高に「サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、イラクが追加減産を実施することにより、減産量は合計日量1250 万バレルに達する」とした。さらに米国、カナダ、ノルウェーなど非OPECプラス国の減産総量である日量400~500 万バレルを合わせれば、実質的に日量1650万~1750 万バレルの減産となると表明。中国、韓国、インド、米国が戦略的備蓄を積み増し、合計日量200万バレル強となることから、需給改善への効果は日量約2000万バレルに相当するとした。これによってサウジアラビアは原油相場が安定化できる(跳ね上がる)と見たわけだ。
しかし、市場参加者はこれを冷笑するように、売りで反応した。上のグラフを見れば分かる通り、原油相場は9日の減産会合への期待を背景に上昇していたところから、むしろ反落し、ブレント原油は再び30ドルを割り込んでしまった。世界経済がマイナス3%の成長となることが国際通貨基金(IMF)によって示され、日を追うごとに新型コロナウイルスによる世界経済への影響は深刻化した。
この状況を見かねた国際エネルギー機関(IEA)は、2020年4月の月報においてWeb上で公開している要約文を、通常の約2倍近いボリュームを割いて、足元の世界の石油需給の状況を解説している。世界の石油需給は、OPECプラスとG20による減産合意によって、2020年後半には供給不足に陥り、同年前半の在庫の上昇は同s年後半に取り崩されるというシナリオだった。世界で最も信用されてきたIEAの月報には、前回見受けられたような楽観/悲観シナリオといった建設的なケーススタディはなく、なにか、OPECプラスとG20による減産合意に合わせて設定されたかのような説明のように筆者は感じた。これまで独立的な視点でOPECプラスらにさまざまな批判的意見を具してきたIEAですら、足元の石油市場の暴落に対しては、「連帯」と「希望的観測」によってしか乗り越えられないことを暗に意味しているようだった。それだけ世界経済は縮小し、石油需要が減少していることなのだろうか。実際、IEAは2020年4月の石油需要は対前年で日量2900万バレル、2020年5月は同2600万バレルもの需要が減少したことを明らかにした。協調減産の数量では追い付いていない状況だ。
需要の減少に対して減産数量が小幅に留まれば、当然、石油の在庫が増加していく計算となる。米国では大幅に在庫が積み増され、2020年5月に内陸部で引き渡される米国の原油(WTI)は史上最安値である-40ドル台へと下落した。この「マイナス(-)」というのは、「原油をもらえば、お金がもらえる」という事態だ。引き渡し場所である米国内陸部クッシングの在庫が、3週間以内にあふれると予測を前に、失望売りが加速した。

コロナと共存する生活への不安が晴れないことには、前を向けぬ?


足元では欧米においてロックダウンが一部解除され、経済活動が復旧するとの見通しを背景に、楽観的な見方が優勢となり、ブレント原油は28ドル近辺まで買われている。しかし需要のV字回復を期待するには、新型コロナウイルスとうまく共存する絵を示す必要があり、それはまだ模索過程にあると言えそうだ。そのため、「買われても売り戻される」展開が続くことになるだろう。何よりも、私たちはこの新型コロナウイルスを克服している途上にあり、そしてこのコロナウイルス克服後の世界について、現実的に想起できない状況にある。例えば子どもが「いつ学校でまた友達と遊べるか」不安であるように、親が「自分がこれまで不特定多数との人間とのかかわりを経て得られてきた成長を、同じように子どもに与えられるのか」不安であるように、そして働く人たちが「いつになったら、元のような仕事ができるようになるのか」が不安であるように、原油相場においても不安は拭えないのだろうと思う。
原油市場では、市場原理による生産者の淘汰が進み、高コストであるシェールプレイヤーを中心に大幅に生産量は減少する。現在シェールプレイヤーのブレイクイーブンポイント(損益分岐点)は掘削済シェール油井におけて27 ドル~37 ドルとなっている(ダラス連邦準備銀行が2020年3 月に発表した報告による)。当面、世界の政治家は、WTIで27~30ドル近辺、ブレント原油で37~40ドル近辺を市場の安定化の水準として睨む形となるだろう。それ以上の水準は、シェールオイルが増産されることから、困難と言えるだろう。石油相場の安定化は世界経済安定化にとっても「喫緊の課題」とIEAは主張し、世界の主要国に対して「各国で協調して断固とした政策を打ち出す」ように要請している。しかし、それにしても、新型コロナ克服への道筋、そしてアフターコロナの世界の状況がある程度見えてこないと、市場参加者の不安は後退しないということを、私たちはこの原油相場を通して感じることができる。

用途によって状況が異なる石油化学品――生活必需品は堅調な需要


一方、石油化学品の相場はその用途によって明暗が分かれた状況にある。この新型コロナウイルスの影響から、自動車や産業材、建築資材、服飾向けの需要は大幅に減少したが、生活必需品や医療資材については、需要が堅調に推移している。例えば、自動車タイヤ向け用途の多い合成ゴムやブタジエン相場、服飾向け繊維向け用途の多いカプロラクタムやアクリロニトリル相場は値下がりを続けている一方、食品包装など生活必需品用途の多いポリオレフィン相場は2020年3月末に比べて反発している。生活必需品では中国の需要が急拡大しており、アジア相場を支えた。
ポリプロピレン(PP)相場では混乱も見られた。2020年4月中旬に、中国においてマスク向けの需要が高まるとの期待から相場は急伸。一時ドル換算で800ドルも値を上げた。しかし、そもそもマスク向けのPP需要は増加しても、PP前チアの需要からすればごくわずかだ。そのため、すぐに600ドル以上反落した。新型コロナウイルスにより、市場参加者の不安が偏見に繋がり、バブルを構成した好例と言えるだろう。いずれにしても、石油化学品のうち生活必需品分野の製品は、コロナ渦の下で堅調な需要が確認されている数少ない製品の一つと言えるだろう。

次回は、足元で人々の意識の中で渦巻く「漠然とした不安」を消し去るための一つの手段である、アフターコロナの世界秩序の再構築、そして生活様式(ライフスタイル)の変化について、論じていきたい。

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PlaBase編集部
PlaBase[プラベース]

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