サステナブルソサエティとは何なのか:プラ業界の「環境との共存」

今回の記事は…
「サステナブルソサエティとはどういう考え方なのか。最近のニューストピックや、IPCCの報告書を読み解きながら解説する。」

 

環境との共存は、今を生きる全ての人間にとって避けて通れないトピックスになっている。石油化学業界では生分解プラスチックや、再生可能原料由来のプラスチックが次々に上市され、「サーキュラーエコノミー」や「SDGs」「ケミカルリサイクル」など、これまであまり聞かなかったようなカタカナ単語を口にする人が多くなった。

しかし、それが根本的にどういう役割を示しているのか、なんとなくしか理解していない人も多いのではないだろうか。今回は環境との共存の第1回として、その原点について解説していきたい。

グレタ・トゥーンベリさんの単純明快な訴え

グレタ・トゥーンベリさんという一人の女性の名前を、テレビや新聞の報道などで聞いたことがあるという人は多いかと思う。

2003年にスウェーデンで生まれた彼女が世界の若者層を動かし、そしてこれまで大量消費社会を通じてお金を稼いできた一部の大人(投資家)の意識も変え、社会を動かしつつある。彼女は世界中の海に浮遊するプラスチックごみの問題を学校の授業で見たことがきっかけとなり環境問題を知ったことで大きなショックを受け、後に深刻な拒食症状や精神症状を自覚するようになったという。その後、家族の協力も得ながら、気候変動に関する科学者への取材や調査を経て、2018年8月20日に学校ストライキを開始。2019年の地球温暖化サミットでは、国連本部で世界の首脳を前にスピーチし、マスコミを通じて世界中に知れ渡った。

彼女の訴えは単純明快だ。科学者の意見を正しく理解し、それを受けて、個人については「生活様式の再検証をしてほしい」、政治家については「有効な政策を打ち出してほしい」ということを訴えたのだ。当時よわい16歳の主張に対し、「原始時代に戻れというのか」「感情的」などと反発する政治家も多く、ネット上には彼女に対する根拠のあいまいな臆測(環境保護家を背景とした利権問題など)が飛び交った。しかし、彼女の見解は非常にクリアであり、「科学者の見解を知ってくれ」と言っているだけなのだ。

地球の環境は今、どうなっているのか? ~IPCCの報告書から読み解く~

それでは、現在の地球が置かれている状況に対する科学的知見は、一体、どのようなことを示しているのか、以降で把握していくことにしよう。

気候変動を定点観測する研究機関は、各国に存在するが、各機関が個々に情報を収集するのは非効率的である他、統一した見解をまとめるのに時間と労力がかかりすぎる。そのため、1988年に各国が厳選した研究者らによって構成されるIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)が定期的に報告書をまとめ、気候変動について検証する枠組みが生まれた。そして世界195カ国がこの枠組みに参加している。

世界的な気候変動への予防政策の基礎となる研究機関として、IPCCは最も信頼されており、2007年にはノーベル平和賞を獲得した。このIPCCが2019年に約2700ページに及ぶ特別報告書を発表。この中で、気候変動の現状と今後の懸念に対して示されたが、主なポイントは次の通りだ。

まず、2015年に採択されたパリ協定策定時は、今世紀後半(2050年~2100年)に温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることにより、今世紀末(2100年)までに産業革命後の気温上昇を+1.5℃の上昇幅に留める必要があった。

しかし、すでに足元で産業革命以前に比べて地球の平均気温は+1.0℃上昇しており、このままのペースで温室効果ガスが排出された場合、2030~2050年には+1.5℃に達してしまう可能性が高い。

そのため、これからパリ協定で設定した基準を順守する(気温上昇を+1.5℃以内に抑える)ためには、少なくとも2050年には実質的に温室効果ガスの排出をゼロにする必要がある。

1990年以降海水温は従来の2倍のスピードで上昇しており、台風などの気象現象を強力なものにさせている。これまで100年に一度とされていた気象災害は2050年まで毎年発生する可能性がある。

干ばつや水不足による砂漠化により、砂漠地に居住する2億2000万人の生存が危ぶまれる。森林伐採も砂漠化を手伝い、最大で世界の4分の1の土地において乾燥度が上昇。干ばつによる影響が深刻化する。食料アクセスが閉ざされ貧困が深刻化する他、農業従事者による自殺が増加。利用可能な農耕地の減少を背景とした民族間の紛争も増加する。いずれの影響も日本や米国、欧州などの先進国から遠く離れたアフリカ、南米、インド、東南アジアなど後発国において深刻化し、経済的に貧困状態にある人々の命が脅かされる。

南極やグリーンランドにおいて氷が融解し、世界の海面は世紀末までに1.1メートル上昇。このスピードで海面上昇が進行すれば2050年までに10億人が影響を受け、沿岸の湿地のうち最大9割がなくなり、2億8000万人の住居が消失する。沿岸部の大都市であるニューヨーク、東京、ジャカルタ、ムンバイ、上海、ラゴス、カイロへの影響は深刻となる。

このペースで温暖化が進むと、ティッピングポイント(和訳は「転換点」)と呼ばれる、二度と元の世界に戻れないポイントを通過してしまうリスクがある。南極の氷に含まれる二酸化炭素やロシアの永久凍土に含まれるメタンガスが大気中に放出されることにより、発生する恐れがあり、地球温暖化は報告書の予想を上回って進行しHothouse Earth(灼熱地球)へと進む可能性がある。

2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにするためには、化石燃料の消費を削減し、エネルギー消費のうち再生可能エネルギーを従来比の70~80%、石炭火力はほぼゼロへする必要がある。また、肉食中心の食料システムを植物中心のものへ、そして温室効果ガスを吸収するテクノロジー開発のみならず、グリーンベルトや植林など地道な努力をしていくべきである。

――以上が、IPCCの報告書に書かれていた主な内容だ。これまで、大量消費を前提としていた経済成長は限界を迎えつつある。底のない甕(かめ)にいくら水を注いでも、満たされないのと同様に、人間の経済成長による欲望は底なしで常に満たされていない。人間が満たされていない一方、消費されていく地球はこのままではもたないという状況となっているから、一人ひとりの考え方を変えていかなければならない。

自分たちが享受してきた豊かな生活を、孫の世代まで維持できないということを、誰が望むのだろうか? 子供に対して教育費を惜しみなく投資し、将来の成長に期待しているのであれば、同様に地球を維持させるためにも投資する必要があるということだろう。

環境対応という新しい付加価値とビジネスチャンス

先進国が享受しているような文明水準(一家に自動車を1台保有するなど)をインドやアフリカなど後発国が体験できるようになるころには、地球は既に灼熱地球へと移行しているということになる。よって、先進国を中心にいち早く持続可能(サステナブル)なモデルを作る必要があるのだ。

このような深刻な現実を背景に、多くの企業が「カーボンニュートラル」(地中から掘ってきた炭素である石炭や石油を消費し、温室効果ガスとなる炭素を空気中に放出するだけでなく、それを吸収したり減らしたりすることで、炭素バランスを平衡に、ニュートラルにするということ。「温室効果ガス実質ゼロ」と同意)や、「サーキュラーエコノミー」(循環型経済、使ったものを再利用すること。地中から掘り出した炭素を空気中に放出するのではなく、再度役立たせること)、「サステナブルソサエティ」(持続可能な社会)の実現という言葉の下にさまざまなプロジェクトや製品を打ち出している。しかし、その本質は上記の通り、IPCCが発表した衝撃的な内容に準拠しているということを、よく理解しておきたい。

上記について、現時点では欧州の政府や企業が最も対策を進めていると言っていいだろう。欧米を中心に投資家の意識は確実に変化し、持続可能な社会への取り組みが不十分な企業には「ダイベストメント」(投資資金の回収)を行うなど、行動に出ている。これを受け、株式を上場している企業はダイベストメントを避けるため、環境との共存に向けた取り組みを活発化。欧米企業が先行し、日本企業も急ピッチで対応を検討している。

私たち個人は、お金を支払ってでも、環境対応製品を選んで買うようになってきている。つまりこれは、環境対応という新しい付加価値が創造されているということになる。これをビジネスチャンスと捉え、新たな取り組みができるかどうかが、今後はより重要となるだろう。

政府による政策的な取り組みに要注目

先行する欧州の取り組みに対して、他の国々は気候変動に対して足並みがそろっていない。ドナルド・トランプ米大統領は、パリ協定から正式に離脱し、温室効果ガスの排出削減を放棄しているに近い(今年の大統領選で政策論争の焦点になるだろう)。また、排出量が多い中国やインドは具体的な排出量への目標設定に消極的だ。先進国の中で、日本も具体的な政策を国際社会に発信できていない。今後は、先進国を中心に政府による政策的な取り組みに注目が集まるだろう。

なお、SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な成長に向けた目標)は、IPCCの特別報告よりも前の2015年に国連がまとめたもので、気候変動以外の要素(貧困、ジェンダー、経済成長、教育、技術革新、健康福祉、水など)も含まれた包括的な指針だ。よく「SDGs対応=環境対応」と勘違いされる場合があるが、これはあくまでIPCCの発表よりも前に、国連が設定した世界市民や企業、政府に対する行動指針である。

次回はプラスチックをめぐる環境との共存のもう1つのテーマである、海洋プラスチック問題について概説する。

sample
PlaBase編集部
PlaBase[プラベース]

これまでカタログや材料メーカー各社のホームページ内に散在していた樹脂(プラスチック)成形材料の情報をPlaBaseに集約しました。 メーカー・樹脂名・物性値など多様な検索方法によって、お客様の目的に合った樹脂成形材料のデータを探し出すことができます。