CFRPの特徴と自動車への適用:自動車開発とCFRP(2)

前回の記事では、自動車業界が抱える課題や、それを解決していくためのCFRPなどの樹脂材料への期待について解説しました。
自動車業界がCFRPに対して期待していることとしては、主に次の2点であり、さらにそれを市販車両に適用可能な現実的なコストで実現するということになります。
- 環境性能改善に向けた軽量化と強度の両立
- 金属では実現できない複雑なデザイン
今回の記事では、自動車業界から期待が集まるCFRPの物性や特徴、自動車への適用について解説します。
CFRPとは
CFRPは、「Carbon Fiber Reinforced Plastics」の略であり、炭素繊維複合材料の一種です。炭素繊維複合材料とは、母材(マトリックス)となる樹脂に強化材である炭素繊維を組み合わせたもので、母材の種類や組み合わせる炭素繊維の種類によって物性が異なります。
母材の種類と特徴
炭素繊維複合材の母材は主に、熱を加えると硬くなる熱硬化性樹脂と、熱を加えると柔らかくなる熱可塑性樹脂に大別できます。
熱硬化性樹脂は熱を加える前は粘性が低いので、強化材として用いる炭素繊維と馴染みやすいため、接着力が強くなります。強度や弾性など機械的特性や耐熱性が高い点が特徴です。
熱可塑性樹脂は熱硬化性樹脂と比較して粘性が高いので、炭素繊維と馴染みにくく、接着力は弱くなります。一方で、耐衝撃性が高く、リサイクルしやすい点が特徴です。
強化材(炭素繊維)の種類と特徴
母材に混ぜる強化材の炭素繊維は、主にPAN系炭素繊維とピッチ系炭素繊維に分けられます。
PAN系炭素繊維はポリアクリロニトリルを材料とした炭素繊維で、現在使われている炭素繊維の90%以上を占めています。PAN系炭素繊維は2種類に分類でき、1000~2万4000本にまとめた高性能グレードのレギュラートウタイプと4万本以上まとめた汎用グレードのラージトウタイプです。
ピッチ系炭素繊維は材料の種類によって低性能グレードの等方性タイプと、高性能グレードのメゾフェーズ(異方性)タイプに分けられます。
参考:炭素繊維協会資料より(参考文献2、3)
自動車業界への適用
釣り竿やゴルフクラブのシャフト、テニスラケットなどスポーツ用品には、1970年代から使われてきたCFRPですが、自動車業界ではレーシングカーから使われ始めました。
レーシングカーは、市販車に比べてコストよりも性能が重視されます。車両の走行を高速にするためCFRPをボディに用いることで車体を軽量化しつつ、万が一衝突してしまった場合にはCFRPの衝撃吸収性の高さでドライバーの安全を確保するようにします。
レーシングカーから市販のスーパーカーや高級車と、徐々に市販車両に使われるようになってきています。生産性の向上やコストの高さなど、CFPRの課題を乗り越えてより普及することで、今後は幅広い車両に適用されることが期待されます。
軽量でありながらも高い機械的特性を持つCFRP
今回は、自動車材料として用いられるCFRPを含む炭素繊維複合材量の種類や特徴、自動車にはどのように適用されてきたかを解説しました。最初はスーパーカーから適用されて、徐々に市販車両に対しても適用が広がってきています。しかしながら、さらに市販車両に適用を拡大するには、解消すべき課題もあります。
次回の記事では、CFRPが実際に使われている車両を紹介し、コストを下げて市販車両に適用するために行われている工夫を紹介します。
(次回に続く)
一之瀬 隼(いちのせ・しゅん) 自動車部品メーカーの現役エンジニアとして、先行開発から量産展開まで幅広い業務を経験。産まれたばかりの子供の成長を楽しみながら、エンジニアとライターの活動両立に苦戦中! 趣味は旅行(海外も国内も)と美味しいものを食べることと、学ぶこと。
>>執筆者ブログ「悠U自適」
参考文献
(2)PAN系炭素繊維の現状と将来(炭素繊維協会資料) https://www.carbonfiber.gr.jp/pdf/25th_seminar_PAN.pdf
(3)ピッチ系炭素繊維の現状と将来(炭素繊維協会資料)https://www.carbonfiber.gr.jp/pdf/24th_seminar_Pitch.pdf