クレームが発生したら何をするの?:クレーム対応のキホン(1)
読者の皆さんは「クレーム」と聞いてどのようなイメージを持つでしょうか? 「クレーム」といえば、「使い方が分からない」「すぐに壊れた」などのネガティブなイメージを持つ方が多いかもしれません。そのようなイメージが強いクレーム対応ですが、対応の仕方ひとつで企業価値を落とすどころか逆に高めることが可能となります。直近では品質検査データ改ざんや粉飾決算などの不祥事が出ており世界的に企業によるコンプライアンスへの取り組みが見直されています。
今回は、そんなクレーム発生時の対応方法について解説します。
クレームとは何か
クレームについて「広辞苑」で調べると、以下のように書かれています。
・売買契約で違反があった場合、売り手に損害賠償を請求すること
・異議。苦情。文句「‐をつける」
筆者の経験では、仕様の寸法を満たしていないものや明細と数量が異なるもの、購入してから短期間で故障した場合にクレームとして返却されることが多いですね。
以降では、どのようなものがクレームとして扱われるのか、クレームとして問い合わせがあった時の対応方法はどうするのかについて述べていきます。
クレーム対応の流れ
次に、クレームとして連絡受けた時の処置方法について考えていきます。
クレーム対応のステップ①:事実の把握
まず、お客さまからクレームの連絡を受けたら、最初に何が問題なのか、情報を集める必要があります。お客さまから受け取った情報から、取り交わしている納入仕様書や工程内の検査規格と照らし合わせます。その上でお客さまが何を問題としているか、以下のことについて把握していきます。
・発生場所:どこで発生したかを調査(工程完了後もしくは工程途中で発生したものかの見極め)
・製造ロット:不具合が発生したロットを確認し、対象ロットの工程履歴を調査
・数量:同様のクレームが、1個なのか多数発生しているか、発生時期に集中性はあるか、など
不具合事象については、以下について確認します。
物理特性:密度/比重、吸収率、成形収縮率など
機械特性:引張特性、曲げ特性、圧縮特性など
熱特性:線膨張係数、燃焼性など
電気特性:表面抵抗率、体積抵抗率、絶縁破壊強さなど
光学特性:全光線透過率、屈折率など
外観異常:(異物付着、色調、凹み、スジ、ムラ、寸法規格外など)
クレーム対応のステップ②:現品確認
お客さまから送られてきた写真や文章だけで判断せずに、実際の現品も送付してもらうように手配しましょう。クレーム現品は世界に1つしかない重要な証拠になります。
クレーム現品で、お客さまが訴えている内容とを見比べて、情報が一致していることを確認します。また、現品の写真撮影や寸法測定、成分分析などを行い、現品に関する定量的なデータを取得します。ここで測定した結果と仕様書に記載されている内容を照らしあわせて良否判断を行います。仕様に記載のない項目について問い合わせがあった場合は協議の上、対応方法を検討します。
クレーム対応のステップ③ :工程履歴調査
工程履歴調査では、お客さまから提供のあった情報と、現品から、製造ロットを特定して製造工程に異常がなかったかどうか確認を実施します。
例えば、対象が射出成形品であれば、原料、配合剤、再生材などの母材ロットの確認、樹脂の流動や熱履歴に異常がなかったか、金型に破損がないか、検査結果に異常がないかなどを調査します。製造履歴に異常があった場合は、対象範囲と数量を明確にして、必要に応じてお客さまへ対象ロットの連絡し、必要に応じて選別等を行います。
クレーム対応のステップ④:原因・対策検討
これまでの調査結果で、製造が要因であったと想定される場合は。原因と対策を検討します。問題が発生したときに机上だけで物事を進めると実際の事象と一致しないことが出てきます。そのため、不具合が発生した現場と実際の現物を照らし合わせてどのような状態になっているか(現実)を確認する必要があります。これを「3現主義」といいます。
3現主義とは、以下のことを示します。
- 1 現物:現品を必ずチェックする
- 2 現場:現場を必ずチェックする
- 3 現実:現実を自分の目でチェックする
ここでは、返却品を持って自分の足で製造現場を見に行く、設備がどのように動いているか現状を把握する必要があります。しかし、3現主義だけでは真実にたどり着けない場合があるためこれに原理・原則を加えることがあります。これを「5現主義」といいます。
- 4 原理:多くの物事を成り立たせる根本的な法則、理論
- 5 原則:一般的に適用される根本的な法則
3つの事実に加えて、その事象が発生するメカニズムを考察して原因を推定し、適切な対策を実施します。
クレーム対応のステップ⑤:報告書作成
これまでの調査結果をまとめて報告書を作成し、お客さまへ報告を行います。文章だけではなく、写真やグラフなどを用いて分かりやすい資料が望ましいです。提出した資料に対して、お客さまから質問や製造工程の監査などの依頼があった場合は柔軟に対応する必要があります。
次回から、具体的なクレーム事例から問題点とあるべき対応方法について解説します。(次回へ続く)
参考文献
設計製品知識/田口技術士事務所
さきやま ゆうこう