シェールオイルの動向から相場を見る【石化製品相場】

今回の記事は…
コロナ禍におけるシェールオイルの動向について、石油化学の観点で考察していく。

(執筆:柳本 浩希/株式会社アメレックス・エナジー・コム 石化原料部長 兼 NAPレポート編集者)

前回はシェールオイルの動向について原油相場の観点から振り返った。コロナ禍に伴う需要減少を背景に原油相場は下落し、シェールオイルの生産が減少している点を押さえた上で、今回はその一つ川下に位置する産業である石油化学の観点で考察を広げていきたい。

というのも、今回のコロナ禍による原油相場の下落は、石油産業のみならず、石化産業に対しても大きなな変化をもたらしているからだ。2019年まではアジアのナフサベースの石油化学産業は、北米を中心としたシェールオイル(ガス)から生産されるエタンベースのエチレン系誘導品によって、ポリエチレンやモノエチレングリコール(MEG)相場が下落し、採算が悪化してきていた。しかし、今回のシェールオイルの減産によってその構図は変化しつつある。今回は、足元の変化について具体的に見ていきたい。

コロナ禍で相次ぐ、建設作業や遅延

新型コロナウイルスは米国全ての州へ広がり、現在も流行が続いている。その影響を受け、エタンベースの石化プロジェクトに関しては、延期や建設作業の遅れが相次いでいる。シェルケミカルズは、米国・ペンシルバニア州ビーバー郡において新設を進めていた、エタンクラッカー(年当たりエチレン生産能力=150万トン)、およびポリエチレン装置3基(年当たり総生産能力=160万トン)の建設工事を中断。カナダ・ノバケミカルズ(Nova Chemicals)は、カナダのオンタリオ州サーニアで進めていた、エタンクラッカー(年当たりエチレン生産能力=81万6000トン)の増強およびポリエチレン装置(年当たり生産能力=45万トン)の新設計画と、カナダ・アルバータ州ジョッフルにおける高密度ポリエチレン(HDPE)装置(年当たり生産能力=5万トン)2基の改修計画について、一時休止を決定した。

このように、作業員の感染防止の観点から建設作業そのものが遅延しているケースが見られている。2020年に追加される予定だったシェールベースの装置新設は2021年以降へと後ろ倒しとなる可能性が濃厚だ。

現在建設中のプロジェクトの遅延のみならず、今後新設を計画しているプロジェクトについても、延期や撤回が発表されている。タイ石化大手PTTグループ傘下のPTTGCは、米国・オハイオ州において進めているエタンクラッカー(年当たりエチレン生産能力=150万トン)および4基のポリエチレン装置(年当たり総生産能力=160万トン)の新設計画について、最終投資決定(FID)の延期を発表。当初は2023年の立ち上げを予定していた。また、2024年の立ち上げを目指していたシェブロンフィリップスのエタンクラッカー(年当たりエチレン生産能力=200万トン)についても、白紙撤回された。右の表に示した今後の増設計画において、態度を明らかにしていない企業においても、延期や撤回が今後発表されていくことが想定される。

これらは当然のことながら新型コロナウイルス感染拡大防止や、作業員が確保できないといった事情が背景にあるが、それだけではない。元々シェール由来の石化製品の増産は、シェールオイル(ガス)を採集する際に余剰となるエタン留分を有効活用するために生まれた。しかし、そこには2つの前提条件があった。1つ目はエタン相場がその他競合する炭化水素(ナフサやLPG)の相場に比べて安価であること。そして2つ目はシェールオイルやガスの生産が安定し、かつ供給が潤沢にあることだ。優位なコスト競争力と、原料供給の安定性が確保できないのであれば、北米に立地させる理由はない。この2つの必要条件は少なくとも新型コロナウイルスが登場する前までは、盤石なものと思われてきた。

原油相場、コロナ禍以前の水準に戻るには、1年以上

前回までの記事で示した通り、2020年2月以降から勢いを増して猛威をふるい続けている新型コロナウイルスの影響により、石油需要が急減し、原油や天然ガス相場は大幅に下落。ナフサも同時に値を下げ、米国のエタン相場対比でそれほど割高とはならなくなり、ナフサの競争力は復活した。

今後、原油相場は、需要の回復が緩やかとなることから、コロナ禍以前の水準まで値を戻すためには1年以上時間を要するといわれている。一方、ローカルな米国シェールオイル(ガス)の生産状況に依存する、北米のエタン相場は今後ずっと安値で推移する保証はない。米国内の石油、天然ガスのリグ稼働数は大幅に減少しており、シェールブーム以前はおろか、過去最低を記録している。2008年のエタン相場は右のグラフに示した通り、一時1000ドルを超える高値となっていた。もちろん、当時の状況とは雲泥の差があるものの、エタン相場が安値であり続ける保証はどこにもない。今後北米のエタン相場が上昇すれば、採算が確保できずに、アジアへのエチレン誘導品の輸出数量は減少するだろう。

アジアの石化産業はシェールベースのライバルによって計画された増強計画が減少、遅延することにより、石化製品の需給は想定よりも悪化せずに、幾分バランスタイトで推移することが見込まれる。これは2019年には全く想定していなかった事態だ。一方、シェールオイルは、今後原油相場の値が上がれば、再び息を吹き返すことから、遅延していたシェール由来の石化プロジェクトも再開する可能性はある。そうなれば、アジアのナフサベースのプレーヤーにとっては一種のモラトリアム(猶予期間)だったという整理ができるだろう。

いずれにせよ、原油相場やシェールオイルの動向と石化製品の相場は密接に関わっている。そのため、今後も引き続きシェールオイルの動向は追いかけていった上で、定期的に読者の皆さんへフィードバックをしたい。

プロフィール

柳本 浩希(やなぎもと・ひろき) 株式会社アメレックス・エナジー・コム 石化原料部長 兼 NAPレポート編集者。1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。2016年にAmerex Petroleum Corporation 東京支店入社。現在、株式会社アメレックス・エナジー・コムにてナフサ取引の仲介のほか、ナフサ/石油化学の情報誌の編集責任を務める。

sample
PlaBase編集部
PlaBase[プラベース]

これまでカタログや材料メーカー各社のホームページ内に散在していた樹脂(プラスチック)成形材料の情報をPlaBaseに集約しました。 メーカー・樹脂名・物性値など多様な検索方法によって、お客様の目的に合った樹脂成形材料のデータを探し出すことができます。