BMW i3とRTM成形――CFRPが採用された市販車両とコスト削減:自動車開発とCFRP(3)

この記事では…
CFRPが実際に採用されている市販車両や、採用拡大に向けて実現したコスト削減の工夫に関して解説します。

(執筆:一之瀬 隼/ 製造業ライター)

前回の記事では、CFRPの物性や特徴について解説し、CFRPの活用が期待される自動車業界では、コストよりも性能が重視されるスーパーカーから採用され始めたことを紹介しました。近年はCFRPのコストダウンを行うことで、一般の消費者向けに販売される市販車両に対してもその採用が少しずつ増えています。

今回の記事では、CFRPが実際に採用されている車両と、採用を拡大するために大きな課題となるコスト低減に対する製造上の工夫を紹介します。

CFRPが採用された市販車両

CFRPは欧州メーカーが販売する数千万クラスの車両や、トヨタ自動車が販売するLEXUS LFAといったスーパーカーから採用が始まりました(表1)。

表1に掲載した車種はCFRPが採用された市販車両の一部です。2000年前後から徐々に市販車両にもCFRPが採用されていることが分かります。2000年前後に採用されている車両では、ある程度のコストアップを許容しつつも、軽量化だけでなく性能や意匠などCFRPを採用するメリットを考慮して採用されています。

2010年代に入ると、形状が複雑で大きな部品である一体成型のボディやバックドアにCFRPが採用されるようになりました。特にBMWはBMW i3のボディにCFRPを採用するにあたり、従来とは異なる製造技術を導入することで、コストと性能を両立しています。

BMW i3で採用されたRTM成形とは

CFRPをボディなど広い範囲に採用していたスーパーカーでは、主にオートクレーブ成形を用いていました。一方、BMW i3では「RTM(レジントランスファーモールディング)成形」を採用することで、ボディの成形時間を大きく短縮し、コスト削減に成功しています。

以降では、オートクレーブ成形とRTM成形の特徴や違いについて紹介します。

オートクレーブ成形

オートクレーブ成形は、樹脂と炭素繊維をシート状にしたものを重ね合わせ、真空引きした後にオートクレーブと呼ばれる圧力釜で加熱・加圧することで、CFRPを硬化させる方法です。複雑な形状を一体で成形できますが、手作業による手順が多く、手間とコストがかかります。また、作業する人やタイミングによって品質に差が出ないようにするために、熟練の技術が必要です。

複雑なボディ形状を実現するためにオートクレーブ成形を採用していましたが、手間やコストがかかるため部品を安く作れなかったため、スーパーカーにしか採用できなかったのです。

RTM成形

RTM成形は、炭素繊維のシートをあらかじめ狙いの形状に成形した後で、上下に分かれた型にはめ込みます。そこに樹脂や硬化剤を注入し加熱することで、CFRPを硬化させる方法です。

オートクレーブ成形に比べれば、熟練の作業は必要とせず、短時間で成形できるため量産には向いていますが、注入した樹脂と繊維の混ざり方や硬化具合を安定させるための調整に難しさがありました。

形状が複雑なボディでは、樹脂を注入する場所や注入速度の調整が難しく採用されていませんでしたが、BMW i3ではRTM成形によるボディ製作を実現させたことで、量産可能なレベルまでコストを削減できました。

BMW i3でRTM成形が実用化された後、他の製品でもCFRPの成形にRTM成形が採用されることが増え、コスト削減と普及に大きな影響を与えています。

C-RTM成形

2020年9月に、日産自動車から「C-RTM(Compression Resin Transfer Molding)」という技術を用いて、CFRPの加工時間を短縮することに成功した」というプレスリリースが出ました。

オートクレーブ成形では数時間、RTM成形でも数十分かかっていたCFRPの成形時間を、C-RTM成形では数分に短縮しています。

型に樹脂や硬化剤を注入する点はRTM成形と同様ですが、複雑な形状の型に浸透するまでに数十分の時間が必要でした。C-RTM成形では、圧力をかけることでより短時間で浸透させられるため、成形時間が大幅に短縮されました。

また、加工をする際の条件は、繰り返しテストをしなくても、高精度なシミュレーション上である程度作り込めるCAE技術も同様に開発しています。仮に形状が変更になったとしても、必要な加工条件を短時間で決められるようになりました。

この技術が実際に、量産される市販車両に適用されれば、CFRPが採用された高性能な自動車をより安価に購入できるようになるでしょう。

次回記事ではCFRPの採用をさらに拡大していくために、例えばCFRPと他の材料との接合技術など、今後解決しなければいけない課題とその展望について紹介します。

プロフィール

一之瀬 隼(いちのせ・しゅん) 自動車部品メーカーの現役エンジニアとして、先行開発から量産展開まで幅広い業務を経験。産まれたばかりの子供の成長を楽しみながら、エンジニアとライターの活動両立に苦戦中! 趣味は旅行(海外も国内も)と美味しいものを食べることと、学ぶこと。

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PlaBase編集部
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