海洋に潜むマイクロプラスチック:プラ業界の「環境との共存」

この記事では…
この記事では、世界で重要な課題となっている海洋プラスチックの基礎的な問題について解説します。

(執筆:柳本 浩希/株式会社アメレックス・エナジー・コム 石化原料部長 兼 NAPレポート編集長)

 

前回は、気候変動をめぐる持続可能な社会(低炭素社会)の構築に向けた取り組みについて、その原点である「サステナブルソサエティ」について説明した。化学(特に石油化学)産業にとって、「環境との共存」という観点からもう1つ課題として挙げられるのが、今回解説する海洋プラスチック問題である。この問題について、その基礎を解説していきたい。

海洋プラスチック問題と報道による啓発の状況

1つの考え方やイデオロギーが社会でムーブメントを形成するためには、その主義主張を象徴するもの(≒プロパガンダ)が必要である。気候変動をめぐる低炭素社会の実現という観点では、グレタ・トゥーンベリ氏がその役を担った(前回参照)。

海洋プラスチック問題においては、マスメディアの報道やSNSがセンセーショナルな写真やコマーシャル(CM)を用いて積極的に伝えてきた。海に面して暮らしていない人たちでさえも、それが環境的に切迫した状況を示す事実であるとして受け止め、世界中で使い捨てプラスチックの使用を制限する動きが加速した。

カメの鼻に刺さったストローや、死んだ海鳥やクジラなどの胃から発見される大量のプラスチックといった衝撃的な写真は、きっと読者の皆さんもどこかで見たことがおありだろう。例えば、海中に存在しているプラスチックを海洋生物が食べ物と勘違いして誤飲してしまえば、死に至ってしまうことにもなり得る。

浜辺に大量に山積するプラスチックゴミ 出典:WWFジャパン

浜辺に大量に山積するプラスチックゴミ 出典:WWFジャパン

米国マスメディア大手のCNNは2017年4月からCMで人間が魚を食べるのと同時に、マイクロプラスチックを食べていることを伝えた。このCMでは今後プラスチックごみが魚類の総重量を上回ることになることを伝え、CNNが放映されている欧米を中心に、多くの市民が関心を寄せるきっかけとなった。

そもそも海洋プラスチック問題がクローズアップされたのは2016年の世界経済フォーラムで発表された1つの報告だった。それは、2014年に海中に存在するプラスチックごみが3億1000万トンとした上で、今後、何も対策を講じずにプラスチックの使用や投棄を続ければ、2050年には11億2400万トンへと膨れ上がり、世界の海に生息する魚類の総重量を上回るという衝撃的な内容だった。これを受け、2017年以降各国のマスメディアが盛んにこの問題を報道していったのである。

マイクロプラスチック問題とは

海洋プラスチック問題は、単に海洋生物保護という観点のみならず、マイクロプラスチックという新たな課題を突き付けた。マイクロプラスチックとは直径5mm以下のプラスチックくずで、2種類ある。

1つは歯磨き粉や洗顔料などに含まれるスクラブやマイクロビーズ、合成繊維から出る繊維片などで、これらは自然環境中の回収は現在の技術では不可能とされており、そもそも製品化された後は回収困難とされている。

2つ目は、下の写真に示したような、いわゆるプラスチックごみで、これらは海中で長時間波、太陽光、紫外線にさらされることにより分解され、細かくなったものを指す。

マイクロプラスチックの例(プラスチックゴミ) 出典:JEAN

マイクロプラスチックの例(プラスチックゴミ) 出典:JEAN

両者ともに、魚が体内に入れることにより、その魚を食べる人間も体内に入れてしまうことが想定され、健康への悪影響が指摘されている。

このように、海洋プラスチック問題は人間の健康リスクにまで波及したということになる。ただし、本当に人体の影響があるのかどうかについては、現在はあくまで、「まだ研究途上の段階」にあって、推察の域にすぎない。

そもそもプラスチックを海や川に投棄しなければ、少なくとも前で説明した1つ目のマイクロプラスチック問題以外の課題は解決できるだろう。しかし、前回説明した気候変動をめぐる低炭素社会の実現というテーマが合わさることにより、一気にプラスチックへの逆風が吹き荒れたといっていい。

社会の意識が、海洋プラスチック問題と低炭素社会の実現という2つの課題から大きく変化したということができる。この社会ニーズの変化を受け、EU(欧州連合)は2025年までに包装材料の半分をリサイクルできる仕組みを構築することを議会で決定した他、先進国を中心に使い捨てプラスチックの廃止やリサイクルの仕組み構築の動きが広がっている。

日本でも2020年7月からレジ袋が有料化され、エコバックなど使い捨てにはならない袋の使用が呼びかけられた。官のみならず民間企業も対応を急いでいる状況だ。海岸に打ち上げられたごみの回収団体の創設や、リサイクルシステムの構築、プラスチックから紙への素材変更など、特に欧米の食品や消費財メーカーが化学メーカーとタッグを組んで積極的に取り組んでいるようにうつる。

2020年に入ってから日本の企業もさまざまな取り組みをリリースし始めており、私が編集長を務める業界紙でも最近では石油化学の装置増設のニュースよりも、環境との共存をめぐる企業の取り組みを紹介するケースが多い状況である。

環境との共存をめぐる、社会ニーズのうねり

今回は海洋プラスチック問題の概要を説明した上で、環境との共存に対する社会ニーズのうねりを解説した。環境との共存という観点では低炭素社会の実現と海洋プラスチック問題は軌を一にするが、本質的な課題はそれぞれ異なっている。市場では、さまざまなエコやバイオグレードといった商品が化学メーカーから開発され、いろんな種類の環境に優しい、環境対応の製品であふれている。しかし、それぞれ環境に「優しい」という意味合いが異なっていることに気づいていない人も多い。

次回は「環境に優しいプラスチックの意味と分類」についておさえたい。(次回へ続く)

プロフィール

柳本 浩希(やなぎもと・ひろき) 株式会社アメレックス・エナジー・コム 石化原料部長 兼 NAPレポート編集長。1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。2016年にAmerex Petroleum Corporation 東京支店入社。現在、株式会社アメレックス・エナジー・コムにてナフサ取引の仲介のほか、ナフサ/石油化学の情報誌の編集責任を務める。

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PlaBase編集部
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