CFRPが動的部品に使われないのはなぜか : 自動車開発とCFRP(5)

この記事では…
自動車向けCFRPの用途が限られている理由と、今後利用を拡大していくために期待される異素材接合技術について解説します。

(執筆:一之瀬 隼/ 製造業ライター)

前回の記事では、CFRPを普及させるための課題について解説しました。CFRPの普及をさらに進めていくためには、異素材との接合技術やリサイクル性の向上、軽量以外のメリットを明確にすることが重要です。また、これらの実現に向けて大学や企業などで研究開発が進められています。

CFRPは、主に熱硬化性樹脂を母材に使用しているものですが、熱可塑性樹脂を母材に使用しているものもあり、「熱可塑性CFRP」と呼ばれます。今回の記事では、熱硬化性CFRPと比較した際の熱可塑性CFRPの特徴やメリットを紹介します。

熱可塑性CFRPとは


熱可塑性CFRPは、ポリイミド(PI)やポリカーボネイト(PC)などの熱可塑性樹脂を母材としています。熱可塑性CFRPの特徴や使用する際の判断基準を確認しましょう。

熱可塑性CFRPの特徴

熱硬化性CFRPは成形前に冷凍保管が必要ですが、熱可塑性CFRPの場合には不要です。また、加熱することで変形しやすくなるためリサイクル性に優れています。さらに、熱硬化性CFRPに比べると成形時間が短いことも特徴の1つです。

一方で、熱可塑性樹脂は溶融時の粘性が熱硬化性樹脂に比べると高いため、炭素繊維に浸み込みにくく、長い繊維との組み合わせには不向きです。また樹脂中に含まれる炭素繊維の方向はランダムになりやすいため、きれいに並べることが可能な熱硬化性CFRPと比較して機械的特性が弱いという弱点があります。

熱可塑性CFRPは、この機械的特性の弱さが課題となり、熱硬化性CFRPに比べると金属材料の置き換え候補としてはマイナーな存在となっています。

軽量化のために熱可塑性CFRPを活かす

本連載の過去記事でも紹介しましたが、熱硬化性CFRPは、成形時間を数分レベルにまで短縮する加工技術が開発されました。しかし、それでも従来の金属材料を加工する時間と比べると非常に長いことがネックとなり、自動車部品への採用が見送られることがあります。また、従来使用していた設備をそのまま転用することはできず、加工の際には新規の設備を導入する必要があります。

一方で、熱可塑性CFRPの成形には既存の設備や経験を生かせる可能性があります。スチール製品と同様に、プレス加工での成形が可能なため、スチール材料を扱う中で培ってきた設計技術や設備を転用可能です。熱硬化性CFRPで課題となる成形時間と新規設備導入費用の課題を解決できます。

自動車で使用されている金属材料を樹脂材料に置き換えていくためには、熱硬化性CFRPだけでなく、熱可塑性CFRPも効果的に採用する必要があります。採用判断をする際には、従来の金属材料との比較だけではなく、採用を検討している部品に必要な機能や特性を明確にした上で、熱可塑性CFRPの特性で対応できるかどうか、絶対値で判断することが重要です。

量産車両に採用された熱可塑性CFRP

熱可塑性CFRPは、成形時間が短く、リサイクル性に優れていることから、既に市販車両でも採用されています。

ゼネラルモーターズ(GM)と帝人は、熱可塑性CFRPを採用したピックアップトラックの荷台を開発しました。ポリアミド系の樹脂に炭素繊維をランダムに分散させた材料を使用しており、成形時間を約1分に短縮しています。また、スチールを使用した荷台に比べて、約40%の軽量化と約10倍の耐衝撃性を実現し、さらに複雑なデザインも実現しました。

このように、熱可塑性CFRPは弱点である強度や弾性率を満足できれば、熱硬化性CFRPと比較して成形時間や設備導入の優位性があるため、広く普及していくことが期待されます。また、弱点である機械的特性を高めていくために、炭素繊維をきれいに並べた熱可塑性CFRPの開発も進められています。

熱可塑性CFRPの可能性

熱可塑性CFRPは、熱硬化性CFRPと比較して機械的特性が劣ることから、これまで自動車向けに広く使用されることはありませんでした。しかし、成形時間の短さや従来培ってきたスチール成形の技術や設備を活用できる点は、大きなメリットです。

実際に帝人とGMが協力して、ピックアップトラックの荷台に採用するなど市販車両へも適用されはじめています。弱点である機械的特性を高めるための成形法の開発も進んでいることから、今後は広く使用されることが期待されます。(終わり)

プロフィール

一之瀬 隼(いちのせ・しゅん) 自動車部品メーカーの現役エンジニアとして、先行開発から量産展開まで幅広い業務を経験。産まれたばかりの子供の成長を楽しみながら、エンジニアとライターの活動両立に苦戦中! 趣味は旅行(海外も国内も)と美味しいものを食べることと、学ぶこと。

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PlaBase編集部
PlaBase[プラベース]

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