ガソリン車廃止のうねり:ガソリン車廃止により、石油や石油化学の世界はどう変わる?(1)

この記事では…

まずガソリン車撤廃の政策を精力的に推し進める中国の動向から詳しく解説。さらに各国の取り組みや新車販売シェアについても比較しながら説明する。

(執筆:柳本 浩希/株式会社アメレックス・エナジー・コム 石化原料部長 兼 NAPレポート編集長)

中国の大転換


2020年10月27日、中国工業情報化省が所管する自動車専門家組織「中国自動車エンジニア学会」は、2035年までに新車販売を全て環境対応車とする指針を打ち出した。これにより現状中国における新車販売の5%足らずとなっている新能源車(New Energy Vehicle=NEV、新エネルギー車)は、2035年までに50%へと引き上げられ、残りは全てハイブリッド車となることが見込まれる。100%ガソリンを燃料に走行する車の新車販売は禁止された。

2020年9月に習近平国家主席が国連総会でのビデオ演説で初めてCO2排出削減を打ち出しており、これを受けた動きである。演説の中で、中国はCO2排出のピークを2030年よりも前にした上で、2060年よりも前に実質排出ゼロ(CO2の排出量と吸収量をバランスさせること)にできるよう努力することを表明していた。これを達成するためには、現在ガソリン車が中心の自動車産業におけるさらなる燃費効率化、石油消費の削減が必須となるわけだ。

中国は日本よりも環境先進国に?


新車販売台数の50%へと今後大増産するNEVには、電気自動車、水素を用いる燃料電池電気自動車が含まれる。これらは自動車の中で何かを燃料させ動力原を生み出す「内燃機関」が不要となる。一方、残りの50%を担うハイブリッド車は、電気とガソリン両方で効率よく動力を生み出す自動車で、内燃機関を保有する。日本で既に販売されているハイブリッド車と同様の仕様となる可能性が濃厚。具体的には2021年1月に人民政府より発表される見通しである。中国は燃費水準について、リッター当たりで2018年は17.24kmだったところから、2030年に20.83km、2035年に25.00kmと改善させることを目標としている。

日本は2016年にリッター当たり19.2kmと、既にハイブリッド車の流通拡大によって燃費効率は改善しており、中国の燃費水準を大きく上回っている。日本は今年3月、2030年にはリッター当たり25.4km(電気自動車等を含む)へとさらに改善させていく計画を発表している。2035年のガソリン車禁止との報を受け、中国は何やら日本よりも環境に対して積極的な動きを見せているとの誤解が生まれている。

しかし、中国が取り組もうとしていることは「ハイブリッド車の普及」という意味では、日本がこれまで対応してきた道をたどる格好となる。また、中国は自動車の普及台数が100戸当たり43.16台(2019年)と日本など先進国に比べて低位となっており、今後も大幅な成長が期待される。そのため、今後CO2排出の絶対量は増加することが見込まれる。

CO2排出量を2030年までにピークアウトさせ、2060年までにネットゼロとするためには、(発電過程における排出は加味しないとすれば)CO2排出量がないNEVの普及が必須となったというわけだ。このNEVを50%へと高めるという点では、本稿執筆時点の日本における環境政策よりも先駆的と言えるが、中国は需要増加のジレンマを抱える中での政策であり、一概に「日本の先をいっている」と決めつけるのは早計だろう。

全球的に広がるガソリン車撤廃の動き


中国がガソリン車廃止に向け動き始めたその前日に当たる2020年10月26日、日本においても2050年までに温室効果ガスの排出実質ゼロを目指す旨、菅義偉内閣総理大臣より表明された。これを実現するためには、NEVの普及が必須であり、購入補助金を現行の2倍(80万円)へと引き上げることが決定されている。

表1:各国のガソリンおよびディーゼル車の販売禁止年(画像クリックで拡大)

世界を見渡すと、上の表1に示した通り、欧州を中心にガソリン車の販売禁止が既に決定されており、これらの国では今後ガソリン車はNEVやハイブリッド車にシェアを奪われることが見込まれる。NEVはガソリンを使用しない他、ハイブリッド車は通常のガソリン車に比べて燃費が約1.5~2倍程度改善することから、ガソリンの消費は大幅に減少することとなる。

世界の新車販売台数(2019年、OICA)のシェアを見ると、図1のグラフの通りとなる。

図1:世界の新車販売のシェア

中国が最も多く、次いで北米(米国、カナダ)、欧州、中国を除いたアジア・中東地域の順となっている。環境対策を表明した国のシェアは欧州に加えて中国と日本が加わったことにより、50%を超えた。世界の新車販売台数第2位である米国が環境対策を重視するジョー・バイデン氏の政権へと移行した際は、米国も脱ガソリン車に向けた政策を実行に移すことが見込まれ、そうなれば実に70%以上の国が今後ガソリン車を減らしていくこととなる。これは驚異的な数字である。そのため、当然のことながらガソリン需要は伸び悩み、新興国の需要が伸びたとしても、長期的には減少へと転じることが想定される。

ガソリン需要が減少して製油所の廃棄が進むと、ナフサはどうなる?


ガソリンは製油所の目的生産物であり、需要が減少すれば、今後多くの製油所が閉鎖に追いやられることは想像に難くない。実際、新型コロナウイルス(コビット19)の感染拡大による石油需要減少と共に、この環境規制に伴うガソリン需要減少見通しを受け、下表の通り多くの製油所がこの一年間で身売り、ないしは恒久停止を決定した。表2:各国のガソリンおよびディーゼル車の販売禁止年(画像クリックで拡大)

石油化学品の原料として使用されるナフサがガソリンの副産物(つまり、余りもの)であることは、ナフサレポートのコラムで解説した通り。減少するガソリン需要に反して、ナフサの需要は石油化学品が少なくともGDP成長率並み(新興国はそれ以上の)成長をしていくことから、今後も堅調に増加していくことが見込まれている。石油化学品の需要は今後環境対策が実行されたとしても、ガソリンほど簡単に需要が減少することはないからだ。この点は、次回のコラムでも深堀りしていくことにしよう。

果たして、製油所が減少していくことによって、ナフサの需給はさらにタイトとなるのだろうか? そして日本では国内の製油所停止が進み、ナフサの輸入はさらに増加するのだろうか? 今後、複数回に分けて、現在想定し得る10年後、30年後の石油産業の絵姿、そして石油化学品の主原料であるナフサの中長期的見通しについて検証していきたい。

 

プロフィール

柳本 浩希(やなぎもと・ひろき) 株式会社アメレックス・エナジー・コム 石化原料部長 兼 NAPレポート編集長。1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。2016年にAmerex Petroleum Corporation 東京支店入社。現在、株式会社アメレックス・エナジー・コムにてナフサ取引の仲介のほか、ナフサ/石油化学の情報誌の編集責任を務める。

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