マイクロプラスチックと海洋汚染の現状について解説する。
マイクロプラスチックと海洋汚染
2050年までに海へ流出するプラスチックの量が魚の量を上回る-。

この記事では…
(執筆:本間精一/本間技術士事務所)
2016年1月開催の世界経済フォーラム(ダボス会議)で発表された報告書には衝撃的な試算が示されていた。日本ではまだ大きな社会問題に発展していないが、環境先進地域の欧州はいち早く動きだしている。
欧州連合(EU)は2030年までに使い捨てのプラスチック包装を禁止して全てを再利用する目標を2018年初頭に打ち出した。商品の包装材などに使うプラスチックは使い捨てが大半で、海を漂うプラスチックごみの主な発生源とされる。欧州では年間約2600万トンのプラスチックごみが排出されているものの、リサイクル率は全体の30%未満とまだまだ低い。プラスチックごみによる海洋汚染に対して本腰を入れ始めた。
海洋プラスチックごみは陸上で使用されたレジ袋やボトル、容器、発泡シートなどだ。材料はポリエチレンやポリプロピレン、ポリスチレン、塩化ビニル樹脂、ポリエステル、ポリアミド(ナイロン)が多い。それらが紫外線や物理的な力で直径5ミリメートル以下に微小化したものを特にマイクロプラスチックと呼び、世界的に深刻な問題となっている。マイクロプラスチックはプランクトンや魚介類が誤飲することで、まず生態系など環境への影響が心配される。そして当然ながら食物連鎖の上位にいる我々人間も無関係ではなく、その魚介類を食べることでマイクロプラスチックを摂取することになる。マイクロプラスチックはもともと有害物質を含有していたり、海中で有害な汚染物質を吸着する性質があったりして、人体への健康被害も懸念されているところだ。
米ジョージア大学のJ.R.Jambeck氏らが2015年に発表した論文によると、世界の海洋プラスチックごみの総量は2010年時点で480万-1270万トンと試算している。加えて、国別の排出量は1位の中国が132万-353万トンで、世界全体の28%を占める。2位のインドネシアが48万-129万トン、3位のフィリピンが28万-75万トンだという。4位以下もベトナム、スリランカ、タイ、エジプト、マレーシアとほぼアジア勢が並ぶ。ちなみに米国は20位で4万-11万トン、日本は21位で2万-6万トンだった。新興国は経済発展に伴って生活に欠かせないプラスチック需要が順調に拡大しているが、資源循環システムの構築がそれに追いついていない現状を現している。
海洋プラスチックごみの1種にマイクロビーズがある。
数年前まで日本でもマイクロビーズのスクラブ(研磨剤)入りの洗顔料や歯磨き粉、ボディーソープが普通に販売されており、覚えている方も多いだろう。毛穴の汚れや皮膚の角質を取り除く微粒子のスクラブはプラスチック製が多く、家の排水口を通ってそのまま海へ流出してしまうのだ。
欧米の規制の動きは速い。米国は法律でマイクロビーズを使った洗体用化粧品に関して2017年7月に製造を、2018年7月に販売も禁止する。英国も2018年1月にマイクロビーズ入り商品の製造を禁止した。欧州と日本の業界団体もすでに自主規制の方針を打ち出している。
一方、マイクロビーズには化粧品以外に工業用途もある。表面研磨剤や塗料、樹脂添加物などに使われており、海洋への流出リスクは比較的小さいが、可能性はゼロではない。今後、関係する業界は何らかの対策が求められそうだ。
先進7カ国(G7)首脳会議でも2015年から継続的に海洋ごみ問題は議論されている。今後はアジアの主要排出国に対して、廃棄物管理のためのワークショップ開催やベストプラクティス共有、モニタリング手法の標準化などで支援して地球規模の難題に協力して挑む姿勢が重要だ。
民間企業の取り組みも不可欠だ。特にプラスチック原料を製造する化学メーカーは社会的使命として海洋プラスチックごみ問題に取り組まなければならない。使用後に微生物の働きで二酸化炭素と水に分解される生分解性プラスチックは解決の助けとなりそう。三菱ケミカルやクレハ、カネカなどが手掛けており、日本の技術力が生かせる分野といえる。
ただ、石油由来の汎用プラスチックと比べて高コストなのが普及の壁になっている。これは新興国におけるリサイクルシステム構築にも共通した悩みだ。かかる費用は誰が負担するのか。どこかにしわ寄せが行くシステムに持続性はなく、社会全体で責任を分かち合うしか道はない。
そのためには、やはり海洋プラスチックごみ問題への理解を世界的に深めていかないといけない。地球温暖化など他の環境問題と同じく、人々に重要性を認識してもらうことがまずスタートラインだ。どんな立派な規制や制度をつくっても、正しく運用されなければ「絵に描いた餅」となるからだ。
海洋プラスチックごみは年々増える一方だ。海を守り、魚を救うための取り組みは待ったなしだ。
日刊工業新聞社編
本間 精一(ほんま・せいいち)
三菱ガス化学、三菱エンジニアリングプラスチックスにおいてPC,POM,変性PPEなどの研究開発に従事。退社後は技術士事務所を開設。プラスチック全般の技術コンサルティングや執筆活動を行っている。著書には「ポリカーボネート樹脂ハンドブック」(日刊工業新聞社)、「プラスチック材料大全」(日刊工業新聞社)、「設計者のためのプラスチックの強度特性」(丸善出版)他多数
