色やカタチだけにあらず――モノづくりのデザイン、8つのプロセス:モノづくりとデザイン(1)

この記事では…
モノづくりにかかわっている方に向けて、プロダクトデザインの役割や活用法、プロセスについて解説します。

(執筆:上町達也/secca inc. 代表取締役、プロダクトデザイナー)

今、経営において「デザインが経営資源になる」といわれていますが、 デザインの役割は昔からさほど変わってはいないのです。ただ、世の中に物であふれた結果、よく考えた物しか売れなくなったため、この「よく考える」というプロセスにデザインが有効であると筆者は考えています。

今回は、デザインという職能に馴染みのない読者の方に向けて、 デザインの役割や活用方法について、少しかみくだいて説明していきます。また、デザインという言葉が広義であることと、 本記事の読者の多くの方がモノづくりにかかわっていらっしゃるだろうことを鑑みて、モノづくりにおけるデザインの役割という視点でお伝えします。

まず、日本ではまだまだ、「デザイン」といえば「色やカタチを考案するスキルである」と捉えられがちですが、それは重要ではあるものの、役割全体の一部なのです。人や企画内容によって異なりますが、私の場合、色やカタチを検討するのはタスク全体の半分程度です。これは色やカタチの検討と同じくらいかそれ以上にやるべき大切なことが多いということを意味します。

モノづくりにおけるデザインのプロセスとは


では、まずモノづくりの中でデザインが、具体的に、どのようなプロセスに、どのように関わっていくのかを解説します。

プロセスは大きく分けて、以下の8つあります。

1. 作る側の立場を知る
2. ビジョンを描く
3. 問いを立てる
4. 目標を描く
5. 具体的なアイデアを描く
6. 実現する
7. 伝える
8. 届ける

世の中で広く認知されているデザインのタスクは主に5と6ではないでしょうか? このプロセスが上述した色やカタチを考案し、生産できる状態にまでアイデアを磨くプロセスで す。

しかし、現在刻一刻と社会に求められる価値が変容し、物や事であふれ、ただ作るだけでは顧客が 満足する物やサービスを形作ることが困難な時代とも言えます。若い世代ほど顧客自身が本質的 な価値を持つ物を選択するリテラシーを養っていることもそれを加速させている要因なのではないでしょうか。

そこで重要になってくるのが、作る以前の1~4のプロセスで、「本質的な価値」を形にするため の重要な準備とも言えます。

1.作る側の立場を知る
対象となる企業がどんな想いで、どんな未来を夢見て、どんなノウハウを積み重ねてきたのか。また、今どんな課題に直面し、そのために何に力を入れていこうとしているのかなど、可能な限り、その企業の現状と文脈をインプットします。あくまで当事者である企業が実施するプランを考えることになるため、このインプットが全ての骨子になります。

2.ビジョンを描く
1のインプットを受けて、その企業が持つポテンシャルを最大化した先に実現できる理想の未来像を描き可視化します。抽象度が高くとも、くもりのない理想を皆が共有できる状態とし、向かうべき方角を照らすことが重要です。

3.問いを立てる
2で可視化された未来を目指すにあたって、理想と現状のギャップや、世の中のあらゆる問題と 照らし合わせた時に見える課題を抽出し、どうすれば理想が実現できるのかの仮説を立てレバレッジポイントを探ります。

4.目標を描く
3で立てた仮説から、具体的にどんなアウトプットで、どんな価値が造形できれば理想に向かう好循環を生み出せるのか、具体性を持って可視化します。現状考え得るリソースを駆使した先に実現できるであろう理想のプロダクトやサービスを可視化します。具体的な開発目標とロードマップを共有することが目的です。

5.具体的なアイデアを描く
4のロードマップから逆算し、まずはじめに実現すべきアイデアを抽出し、届けたい価値を最も体 現するカタチを徹底的に検証します。多い時には100個程度はモデルを作って検証することになります。顧客とのインタフェースとなるこのプロセスはとても丁寧に理想を突き詰めます。

6.実現する
いわゆる、製品化のプロセスです。5で導き出された解は企業のリソースと合致している必要があります。生産方法に無理の無いアイデアであると同時に、企業のチャレンジが伴うアイデアでもあるような良き落とし所を見定め、妥協のないアイデアを選択することが重要で、その上で実現に向けて作る現場の方と二人三脚で試行錯誤しながら併走します。

7.伝える & 8.届ける
この7と8は、実現した物やサービスが持つ価値を可能な限り純粋無垢な状態で顧客に手渡すために非常な重要なプロセスとも言えます。どこでどのように知ってもらうのか、どのような方法 で届ければ最も喜んでもらえるのかを丁寧に設計する必要があります。 以上のプロセス全体で一貫して重要なことは「可視化」することです。 文字や会話だけの議論では互いに想像するイメージに相違が生まれます。

この異なったイメージの蓄積はプロセスが進むにつれて取り返しがつかない「ズレ」につながります。各プロセスで具体的なイメージを共有して議論を進めることで、都度「合っている」または「違う」といった議論の解像度が高まり、最終的なアイデアが可視化された頃には皆が納得した状態になっています。そしてこの進め方が関わる者の士気を落とさずに開発を進行する秘訣とも言えます。

逆説的にいうと、皆の士気が保たれ気が宿った物やサービスが実現できれば必然的に魅力的な物になるのだと思います。今回お伝えしたデザイナーの役割やプロセスは固定的なメソッドではなく状況に合わせて柔軟に比重を変えながら調整するものですし、人によってもやり方は変わって当然です。それがデザイナーの個性とも言えます。

ただ、色やカタチだけに活用するにはもったいない職能であることは確かです。 デザインの力が事業をみがく有効な手段であることをご理解いただけたら幸いです。

図1:筆者による、モノづくりとデザインのプロセスイメージ(画像クリックで拡大します)

次回は、新ブランドを作る際のデザインのやり方


次回は当社が石川樹脂工業と新ブランドを立ち上げた実例を元に、今回の流れを追っていきたいと思います。(次回へ続く)

プロフィール

上町 達也(うえまち・たつや)
secca inc. 代表取締役、プロダクトデザイナー。

1983年岐阜県可児市生まれ。2006年に金沢美術工芸大学卒業後、株式会社ニコンに入社し、Nikon1など主に新企画製品を担当。2013年に、食とものづくりを軸に独立を志し、農業を学んだ後にsecca inc.を設立。孫泰蔵氏と宮田人司氏が設立したGEUDAの一期生。金沢美術工芸大学 非常勤講師、上海同済大学や武蔵野美術大学の招待講師、他。

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PlaBase編集部
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