ナフサは高価になるのか?:ガソリン車廃止により、石油や石油化学の世界はどう変わる?(2)

この記事では…
世界全体のガソリンなど石油需要について未来予測し、さらにナフサ市場への影響について解説する。

(執筆:柳本 浩希/株式会社アメレックス・エナジー・コム 石化原料部長 兼 NAPレポート編集長)

前回のコラムで、世界的に広がる低炭素社会実現への動きを背景に、ガソリン車の販売が中長期的に減少していくことを解説した。さらに自動車向けの燃料需要が減少することにより、石油化学の原料となるナフサへどのような影響を及ぼすか、問題提起した。

今回は世界全体のガソリンを始めとした石油需要の未来予測、そしてナフサへの影響についてマクロに解説していきたい。

人類の選択により分かれるシナリオ


石油需要の見通しについては様々な国際機関や金融機関、石油会社が独自の分析を実施しているが、2040~2050年までのスパンで見通しを示しているのは少ない。ここでは、多くの市場参加者が、その内容に対して信頼を寄せているIEA(国際エネルギー機関)の見通しと、オイルメジャーとして市場分析に定評があるBP社の見通しを引き合いにしながら、今後の石油需要について考えたい。

まず、IEAの見通しを表1に示した。

表1:IEAにおける、世界の液体炭化水素油需要の内訳および予測

表1:IEAにおける、世界の液体炭化水素油需要の内訳および予測

IEAによれば、現行の環境政策(2020年10月13日時点での情報:日本や中国の政策の転換は織り込まれていない)をベースにすると、ガソリン需要は2040年時点でも2019年時点に対して日量300万バレルしか減少しない。

石油需要全体も、後発国における需要の増加を背景に、日量900万バレル増加する。一方、2070年までに地球全体のCO2排出量をネットゼロとする持続的可能な開発(50%の確率で2070年時点の産業革命対比の気温上昇がプラス1.65℃となり、その後CO2を吸収するような技術が開発された場合、50%の確率で2100年にまでにプラス1.5℃の上昇へと抑えることができる)を前提にした場合、将来の絵は大きく変わってくる。

2030年時点で既にガソリン需要は日量2000万バレルへと減少する他、石油需要全体も2019年実績に対して日量700万バレル少ない。さらに2040年にはガソリン需要がそこから半減する。この2つのパターンは私たち人類がどのような選択をするのか(すなわち、よりスピーディに脱炭素、脱石油へと進むのか)にかかっている。世界の潮流はどちらかと言えば持続可能な開発の前提へと近づいていると言っていいだろう。

ナフサの地位向上となるか


注目したいのは、ナフサの需要はこの持続可能な開発の前提においても減少していないどころか、増加しているという点である。石油需要全体が減少しても、石油化学品向けのナフサ需要は増加していくということが示されている。これは非常に大きな違いである。

2019年はナフサ1に対してガソリンは3.8倍の需要があった。そして石油需要全体からすると、ガソリンが占める割合は25%もあった。それが故に、製油所の目的生産物はガソリンであるわけだが、これが2030年になると前者が2.6倍、後者は21.5%へと減少し、2040年には1.2倍である15%となる。

このデータが示すのは単純に石油需要が減少し、製油所の生産能力が縮小するだけではない、構造的な変化といえる。ナフサはガソリンにならない余りものだったはずなのに、いつの間にかガソリンと同等の需要を抱える生産物へと変わる。仮に持続可能な開発ベースに近しいかたちで、2040年を迎えたとすると、ナフサは製油所(ひいてはガソリン)の副産物であり損切りとしての製品ではなく、1つの目的生産物となっていておかしくないのだ。

現在は年間平均するとガソリンよりもナフサの方がトン当たり20~60ドル程度安値となっているが、この値差は縮まっていくだろう。なぜなら、今のままナフサが安値となれば、製油所のマージンを確保することができないからだ。そして、石油化学向けナフサ需要が石油産業にとって唯一といって良いであろう需要が増加するアイテムとなることから、付加価値は引き上げられて当然というわけだ。

なお、英国のオイルメジャーであるBP社の見通しもほぼ同様の内容となっている。BPは2050年時点の予想のため、IEAのそれよりも10年分未来の時点を表現している。また、前提シナリオとして、2050年までこれまでのトレンド通りビジネスが遂行されるケース(Business-as-usual)と、急速に低炭素社会に向けた取り組みが遂行されるケース(Rapid、このケースがIEAにおける持続可能な開発の前提に近い)、2050年にCO2排出量をネットゼロにするケース(Net Zero)を挙げている。

ガソリンを始めとする移動交通向けエネルギーの消費割合は下のグラフ(図1)に示した通り、石油が占める割合はRapidケースで93%から43%へと減少することが見込まれる。

図1:移動交通向けエネルギーの消費割合

図1:移動交通向けエネルギーの消費割合

代わりに動力エネルギーの担い手となるのは、電気やバイオ燃料、水素、ガスということになる。現在は移動交通向けエネルギーの93%が石油に由来しているが、これが次第に変わっていくということだ。

一方、石油化学向けの需要は表2に示した通り、Rapidケースにおいても2040年までは増加し続けており、その後減少に転じている。

表2:石油化学向けの需要

表2:石油化学向けの需要

これは、石油化学の原料がバイオや再生原料へとシフトすることや、3Rの促進により石油化学品の需要そのものが減少に転じるとの予測を基にしている。

環境問題にどこまで本気に取り組むのか


このように、世界の石油需要の変化はナフサ相場に今後20年かけて徐々に変化をもたらす見通し。そして、その変化の度合いは、私たち人類がどの程度本気で環境問題に取り組むかにかかっている。これまでで言えることを以下の通りまとめた。

・石油需要のピークは今後の低炭素社会の実現への動き次第では、2020年台後半に訪れる可能性がある(環境政策の大きな転換がない限り、遅くとも2030年代後半から2040年代前半には訪れる)
・ガソリン需要が減少してもナフサは枯渇しない
・ガソリン需要はナフサの4番近い水準となっていたところから、2040年にはほぼ1倍(同数量)へと減少する可能性がある
・石油需要の後退に伴い、製油所の閉鎖はさらに進行する(特に欧米や日韓の製油所)
・ガソリンは目的生産物としての付加価値の一部を、ナフサに引き渡す可能性がある(つまり、製油所のマージンの一端をガソリンとともにナフサが担う、つまりナフサの付加価値が引き上げられる)

 

次回は、日本のナフサが今後どのようになっていくか、具体的に将来の姿について、実践理性を働かせてみたい。

プロフィール

柳本 浩希(やなぎもと・ひろき) 株式会社アメレックス・エナジー・コム 石化原料部長 兼 NAPレポート編集長。1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。2016年にAmerex Petroleum Corporation 東京支店入社。現在、株式会社アメレックス・エナジー・コムにてナフサ取引の仲介のほか、ナフサ/石油化学の情報誌の編集責任を務める。

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PlaBase編集部
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