プラスチック製品のデザインや製造に実際に携わる筆者が、プラスチック製品の仕様決定について、詳しく解説します。
その製品アイデア、なんかふわっとしてません? :初めてプラ製品を作る人に伝えたいこと(1)

この記事では…
(執筆:林光邦/株式会社テクノラボ 代表取締役)
テクノラボ代表の林と申します。縁あってPlaBaseで記事を書くことになりました。当社はプラスチック外装の企画やデザインから製造するまでをOEMで請け負ってきました。とても多くの製品開発に関わる過程で、全体像を通して見てきた経験があります。
コロナ禍で社会が大きく変わりそうな今、読者の皆さんも、どうやって新しい社会に適応するか悩んでいらっしゃるのではと思います。だからこそ、大ぐくりな知識が、個々の皆さんの立ち位置を確認するのに役に立つのではないかと思い、私たちの経験や知恵について寄稿させていただこうと考えた次第でした。
プロダクトを作るための手順
さて、プロダクトを作る時にはどんな手順を踏むのか? まずは基本的な流れから確認してみましょう。

私たちは、ざっとこのような流れだと考えています。
もちろん、この間に「意思決定」や「資金調達」、「販売戦略立案」など、製造以外の要件も多く絡んできますが、今回はモノづくりに関わる部分だけに集中してお話します。早速、はじめに決める事項として、「1.何を作るのかを決める」ことから、説明を始めます。
「何を作るかなんて言われなくても分かっているよ!」とおっしゃる方も多いのですが、意外に、この部分が「ふわっとしていることが多い」というのが受託開発をしている側の実感なのです。そして、製品開発の失敗の一番多くが、ここに起因していると感じているため、最初に皆さんにお伝えしたいと思います。
製品の仕様決定はどうやるのか
製品開発は「売れる製品」の特徴に向かって作り込みをしてゆく作業ですが、もし最初にゴールがなかったら、そもそも作り込みもしようがないので迷走してしまいますよね。その意味で「製品仕様」はゴール設定と言えます。では、そのゴールはどう設定するべきでしょうか?
ゴール設定(仕様の決定)では、次の6つのポイントは少なくとも抑えておく必要があります。
① それがどこに使われる製品かを決める(製品のドメイン)
② それを誰が使うかを決める(想定されるユーザー層とペルソナ)
③ 誰にも一言で分かるように説明する(製品コンセプト)
④ ユーザーをイメージしたシミュレーション(ユーザーエクスペリエンス)
⑤ 製品の本質的な機能を決める
⑥ 具体的な製品のスペック(要求仕様)を決める
この6つのポイントは開発現場の立場から挙げたポイントですが、最近出版されている多くの経営系テキスト(アメリカのもの)にも大抵挙げられている、比較的常識的なポイントと言えるでしょう。なぜこれらを決める必要があるかと言えば、「製品の特徴をはっきりさせるため」です。今や特徴のない製品は他の競合に埋没してしまって絶対に売れませんからね……。
さて、もう少し細かく、それぞれのプロセスについて説明していきましょう。
どこに使われるか(ドメインの決定)
どこに使われるか、すなわち製品の「切り口」を決める必要があります。使われる場所とか時間とか組織とか、いろいろな切り口が考えられます。とはいえプロダクトの場合は、まずその製品がビジネスユーザー向け(BtoB市場)か消費者向け(BtoC市場)かという切り口で分類されるべきだと思います。
もう1つおすすめするのが、自分がユーザーになりえるか、それともユーザーは他人かという切り口です。自分がユーザーの場合は自分が欲しい物を作れば良い訳で、他人にヒアリングをしなくても問題点は分かっています。ただ他のユーザーが自分と同じ気持ちとは限らないので、独りよがりな開発になりがちです。 ユーザーが他人の場合は、そもそも「何が欲しいのか」からヒアリングしなくてはいけません。
独りよがりにはなりませんが、ヒアリングの内容が本音かどうかも分からない危険があります。
それぞれどちらが良いというものではなくて、分類によって開発の方向が変わるというだけです。ただ経験論としては、ビジネスユーザー向けの製品(BtoB向け)では、他人がユーザーである方が成功率は高い気がします。逆に消費者向けの製品(BtoC向け)では、自分がユーザーであるという方が成功率は高いのではないでしょうか。
誰が使うか(ユーザー層とペルソナ)
それからもう1つ、一体誰が買ってくれるのかを予想することが製品開発にとっては重要です。ユーザー層は出来るだけ具体的であるべきで、単に業界とか役職ではなく、より具体的な人物像に絞り込む必要があり、そうした人物像をペルソナと呼んでいます。
ペルソナを設定する理由は、誰に売りたいのかを極力まで研ぎ澄まして、その人に向けて徹底して製品を作り込むことで製品の魅力を高めて行くことが出来るからです。特定の人に売れるように研ぎ澄ませた製品の方が、全ての人に売れるように作った製品より作り込みが深く、結局他の人から見ても魅力的になることが多いためにこのようなペルソナ設定をする訳です。
製品コンセプトを決める
コンセプトとは、製品全体を貫く基本的な観点や方向性をまとめた短い表現のことです。「一言でいえば、〇〇」というようなキャッチコピーですね。当然ドメインとユーザー設定に沿う形で、この製品コンセプトは決める必要があります。コンセプトがあることで、製品開発に関わる参加者同士の意思統一を図ることができます。
実はこの製品コンセプトを決めるのが一番難しかったりするのですが。
ユーザーエクスペリエンスの設定
ユーザー像が決まれば、その人がその製品をどうやって使うかを考えるのかが想像できます。これがユーザーエクスペリエンスの設定です。ともすると、製品開発はあれもこれも機能を盛り込みたくなってしまい、コストが跳ね上がってしまいます。実際のユーザーが使う環境をイメージすることで、何が必要で何が不要かを明確にしてゆくことが出来ます。ここでカスタマージャーニーマップと呼ばれる資料が良く作成されます。興味がある方はネットで調べてみてください。
製品の本質的な機能を決める
ユーザーエクスペリエンスの設定まで行えば、それを満たす機能を抽出してそれを製品化することになります。
この時「最小限必要なもの」が製品の基本機能です。以下の図を使って解説します。

製品の基本機能とは、「一番のターゲット層」にとって「なくては困る」機能で、これが明確ならばエッジの利いたとがった製品が誕生しやすくなります。
具体的な製品スペックを決定する
具体的に仕様を決めるにあたっては、極力製品の本質的な機能を満たす部分に絞って要求スペックを定めていくべきです。
最大限の機能を満たしたプロダクトは作り手に取っては万全で魅力的に見えます。しかしユーザーに取っては、逆に訴求力の全くない「刺さらない製品」になってしまいます。こうした初歩的なミスに気づかない開発者がとても多いので、皆さんが開発に関わる時には特に注意して下さいね。
最大限の機能を満たした製品は、また製品の主張が広がりすぎているので、売れなかった時にどこが悪かったかの検証もできなくなります。ともかくこの本質的な機能を満たすスペックに合わせて製品の機能仕様を決定し、ソフトウェア、エレクトロニクス、メカニカルパーツ(デザイン含む)を受け持つ担当企業に対して、指示をしていきます。
全く新規の製品開発ではここまで考えている人は案外少数派のような気がします。こうした仕様設定作業は、仮説に仮説を重ねた結果で出来上がります。どうしても「この決定は本当かな?」と不安になりますし、実際この仮説が間違っていることも多いでしょう。
でも間違っていて良いのです。大事なのは、こうした一連の流れを踏んでからスタートすることで、一度思考が整理されていることだからです。
いずれにせよ、試作品が出来上がる頃には考えも変わることが多いのですが、その時は最初より遥かに速く仮説立案と検証が出来るようになります。試作をしながらこうした検証を数回繰り返してゆくと大抵は何らかの答えに辿り着くことが多いと、経験上思います。
仕様の決定作業は抽象的で苦しい作業だと思います。しかし考えるだけなのでタダで出来る作業です。費用対効果は非常に大きいと思いますので、ぜひ取り組んでみてください。
次回は「デザイン」について説明します。お楽しみに。
プロフィール

林 光邦(はやし・てるくに)/株式会社テクノラボ 代表取締役
東京都立大学3年在学時に実家のプラスチック工場に入社し、そのまま社会人経験をスタートしたものの、数年後に倒産し廃業。その後、創業したばかりの株式会社エヌシーネットワークに入社。同社で工場のプロモーションと業務委託のための工場監査を担当し、300を超える町工場を訪問。
2004年、33歳で株式会社テクノラボを創業。平均年間60~80件程度の製品開発を行う。台湾企業とコラボして作った「foop」、インド製薬企業向けの医療機器開発、国内ベンチャーと協働した3Dホログラム造影端末など、黒子に徹しながら現在も多くの新製品開発に関わる。2018年より海洋ごみのリサイクル事業にも参入。
神奈川ビジネスオーディション最優秀賞など、ビジネスコンペティションの受賞多数。
趣味は、犬の散歩とごみ拾い。

これまでカタログや材料メーカー各社のホームページ内に散在していた樹脂(プラスチック)成形材料の情報をPlaBaseに集約しました。 メーカー・樹脂名・物性値など多様な検索方法によって、お客様の目的に合った樹脂成形材料のデータを探し出すことができます。