「素材で世界を変える」ため、自分たちがやるべきこと:モノづくりとデザイン(2)

この記事では…
筆者が実際に立ち上げにかかわったブランド「ARAS(エイラス)」を例に、モノづくりにおけるデザインプロセスについて解説する。

(執筆:上町達也/secca inc. 代表取締役、プロダクトデザイナー)

今回は、筆者が実際に立ち上げにかかわったブランドのプロセスに沿って、前回お伝えした「デザインの役割」をおさらいしたいと思います。

今回紹介する「ARAS(エイラス)」は、こだわりがある人の普段使い食器を目指し、石川樹脂工業株式会社(以下、石川樹脂)と共に全てを一から考え直して生まれた新たなテーブルウェアブランドです。そして、ARASは素材とデザインの力によって、食体験を進化させると同時に環境へ配慮したサスティナブルなものづくりの在り方を探求する我々の挑戦でもあります。

「ARAS(エイラス)」のプレート

「ARAS(エイラス)」のプレート

「合成樹脂製品はゴミなのか」――seccaと石川樹脂


はじめに、われわれseccaと石川樹脂との出会いを振り返ります。

石川樹脂は、顧客の高い要求に応え続けることで会社を成長させた、全国でも有数の技術力を誇る樹脂成形事業者です。これまでは顧客企業から受託する製品製作で技術を磨いてきました。

しかし、2016年6月に私たちと出会った当時、事業を牽引してきた石川会長は、「このままではダメだ」と事業のその後の在り方を危惧していました。当時のテレビや新聞、Webメディアなどでは海洋ゴミを筆頭に合成樹脂が環境汚染を拡大させている要因とし、脱プラスチックが叫ばれていました。

合成樹脂には数えきれない程の種類があり、我々の生活の多くは様々な合成樹脂製品によって支えられているにも関わらず、一辺倒に「合成樹脂製品=ゴミ」というレッテルが貼られていることに、会長は悔しさを感じずにはいられなかったのです。

しかし、下請事業だけでは合成樹脂素材の価値を濁りなく世の中に伝えるのはどうしても難しい。そこで自社製品を通して合成樹脂素材の可能性を自分たちの手でカタチづくり、自分たちの声でその価値を発信していきたいという強い想いを持っていました。

ところが、自社製品をつくるといっても、自社で企画やデザインを行った経験がほとんどなく、デザイナーを探されていたところで、数社の候補の中から我々seccaを選んでいただいたのがお付き合いのはじまりでした。

それでは、以降で前回解説した8つのプロセスに沿って、ARASの取り組みについて説明してきます。

1. 作る側の立場を知る「石川樹脂の生い立ち」


石川樹脂は元々山中漆器の木地製作を担う会社として創業しています。山中漆器は同じ石川県内の輪島塗とは対照的に、安価な量産品を求める漆器需要に応えるために発展した産地で、時代の変化に合わせ早くから木地を樹脂胎に変え、コーティングも漆から漆を模倣したウレタン塗料に変えています。石川樹脂もこの流れに素早く対応し、合成樹脂製の漆器の生産に移行して積み上げてきた樹脂成型技術が現在の支えとなっています。

しかし、高度成長期に多くの人に貢献すべく大量に生み出したものが、時代が変わり環境問題の一因になっている現状に対して、罪悪感と、当事者としてそれに対して真摯に向き合い改善していきたいという強い想いが共存していました。

また、通常分業するケースが多い金型設計や金型製造まで自社で行える環境を築いており、
新幹線の枕木やトンネルの碍子(がいし)などの特殊な工業製品から仏具や日用品まで、あらゆる素材とそれを操る成型技術を有しているのが特徴的でした。そして、何より社風がよかった。これまでネガティブな言葉を耳にしたことがありません。

2. ビジョンを描く「素材で世界を変える」


彼らが自ら言語化したのは「素材で世界を変える」でした。1の背景や、こういった想いをヒヤリングさせていただいた結果、私たちが描いたビジョンは各合成樹脂素材に関する良し悪しを熟知し、世界をより良くするに相応しい素材の選定やその素材の力を最大限引き出す技術とデザイン力を持って、「要望に対する最適な素材と最適なカタチを導き実現するスペシャリスト」となることでした。

3. 問いを立てる「リファレンスモデルを作る」


2で描いた世界を実現するためには、何よりもリファレンスモデル(具体例)が必要でした。具体例をもって、実際にそれによって世の中に良い影響をもたらすことができているのかといった評価を基に、自分たちの存在価値を共有すると同時に、自分たちでもそれを自覚する必要がありました。当然、これまでも価値あるモノを届けてきたわけですが、あくまでクライアントの要望に応える生業であって、自ら課題を見つけて、それに対する回答を共感者に共有していくような一連のパッケージではなかったからです。

4.目標を描く「合成樹脂製の新ブランドを作る」


3に対する具体的な目標は「合成樹脂製の新ブランド」を作ることでした。合成樹脂が引き起こした課題の解決と、合成樹脂でしか実現できない価値の造形を両立させることがこのブランドの使命でもありました。

そこでさまざまなアイデアを検討した結果、テーブルウェアブランドであるARASの構想にたどり着くことになりました。

ARASは冒頭にもあるように、こだわりがある人の普段使い食器を目指し、100%リサイクル可能な新素材を使い、全てを一から考え直した全く新しいテーブルウェアです。「強くて、美しい、カタチ」をテーマに掲げ、視覚的なたたずまいだけではなく、扱う所作や、美味しく感じる口当たりなどの人との関係まで包括した美しい在り方を探究してデザインする方針を打ち出しました。

次回は、ARASプロジェクトの「5・具体的なアイデアを描く」から説明していきます。

(次回へ続く)

プロフィール

上町 達也(うえまち・たつや)
secca inc. 代表取締役、プロダクトデザイナー。

1983年岐阜県可児市生まれ。2006年に金沢美術工芸大学卒業後、株式会社ニコンに入社し、Nikon1など主に新企画製品を担当。2013年に、食とものづくりを軸に独立を志し、農業を学んだ後にsecca inc.を設立。孫泰蔵氏と宮田人司氏が設立したGEUDAの一期生。金沢美術工芸大学 非常勤講師、上海同済大学や武蔵野美術大学の招待講師、他。

sample
PlaBase編集部
PlaBase[プラベース]

これまでカタログや材料メーカー各社のホームページ内に散在していた樹脂(プラスチック)成形材料の情報をPlaBaseに集約しました。 メーカー・樹脂名・物性値など多様な検索方法によって、お客様の目的に合った樹脂成形材料のデータを探し出すことができます。