新型コロナ対策でも――マテリアルズインフォマティクスの活用事例:マテリアルズインフォマティクス入門(2)

この記事では…
企業がマテリアルズインフォマティクスを活用して材料開発を行った事例を紹介します。

(執筆:一之瀬 隼/ 製造業ライター)

前回は、材料開発において期待を集めているマテリアルズインフォマティクスについて、その特徴や課題について紹介しました。今回は、マテリアルズインフォマティクスを実際に活用して材料開発に取り組んだ事例として公になっているものを3つ見ていきましょう。

20回の実験で最適解を見つけた住友化学


住友化学の先端材料開発研究所 では、外部の技術やアイディアを導入するオープンイノベーションやマテリアルズインフォマティクスなど、積極的に新たな手法に取り組んでいます。研究所の役割として、新たな材料の開発に加えて、事業部門と連携することでビジネスモデルの検討を行っており、新規事業の創出を実現しています。

住友化学では、耐熱性ポリマーの開発に、ベイズ最適化を用いたマテリアルズインフォマティクスを導入しました。100万通りもある組み合わせ候補の中から、目標とする特性を持った候補を見付ける必要があり、これを全て実験で確認するのは困難です。

マテリアルズインフォマティクスを導入することで、事前に実験で確認すべき候補を絞り込めたため、20回程度の実験で目標とした特性の候補を発見することに成功しました。この候補は、研究者が意外に感じるような組み合わせだったと同社は言っています。

住友化学は今回の取り組みにおいて、材料開発の期間を短縮したと共に、材料開発における新たな知見を得ることに成功しています。従来から行われていた研究者の知見に頼った開発では、今回のような発見はなかったか、あるいは随分先だったのかもしれません。

UACJは日立の材料開発ソリューションを活用して高品質な材料開発を進める


世界トップクラスのアルミニウムメーカーであるUACJ は、日立 が提供する材料開発ソリューションを活用した共同研究により、材料開発における実験回数の半減を実現しています。この結果を基に、アルミニウム製造プロセスの最適化や軽量かつ硬質なアルミニウムの開発を目指した、本格的な協創を進めることに合意しました。

UACJで行っていた材料の試作、実験には、1回当たり1~2カ月程度の期間が必要でした。時間をかけて実験を行っても狙い通りの結果が出なければ、繰り返し実験を行う必要があり、開発期間が長く必要になってきます。

UACJが日立との協創により実現できるのは、材料開発の効率化だけではありません。マテリアルズインフォマティクスに必要不可欠な材料データベースの充実や自社単独で課題を解析できるデータサイエンティストの育成、強化を目指すということです。

新型コロナのワクチン開発を支援するNEC


材料開発とは少し毛色が異なるかもしれませんが、マテリアルズインフォマティクスは新型コロナウイルスのワクチン開発にも活用されています。

NEC では、従来からがんワクチンの開発に使用しているAI予測技術を活用し、新型コロナウイルスが持つ特性の中から、ワクチンのターゲットとなる可能性が高い物質を特定しています。この物質が変異してしまうと、せっかく作ったワクチンの効果がなくなってしまうため、変異が起こりにくい物資を優先的に選定しているというのです。

マテリアルズインフォマティクスでは、必要なデータさえそろっていれば、このようにウイルスの変異や人体への影響を予測したワクチンの開発が可能です。

マテリアルズインフォマティクスを導入する際の開発体制


マテリアルズインフォマティクスを活用するメリットは、材料開発を効率よく実施することだけではありません。今までの知見に頼った開発では見付けられなかった、新たなノウハウの発見に加えて、材料開発におけるさまざまな課題を解決できる人材の育成なども大きなメリットです。

また、一度マテリアルズインフォマティクスを活用した開発手法を確立できれば、仮に材料開発にかかわったことがない人材でも、即戦力として活躍できる可能性があります。

マテリアルズインフォマティクスを新たに導入しようと考えた場合、住友化学やNECのように単独で開発を進めている企業もあります。自社単独で開発を進めるには、機械学習の知見や必要なデータベースを保有している必要がありますが、多くの材料メーカーではこれらを持っていないことがほとんどです。

自社で必要な技術やデータベースを持っていない場合には、UACJのように外部の企業や大学などの研究機関と協力することで、効率よくマテリアルズインフォマティクスを活用できる可能性があります。

次回は、マテリアルズインフォマティクスを活用した材料開発支援をしている企業について紹介します。

参考文献:

プロフィール

一之瀬 隼(いちのせ・しゅん) 自動車部品メーカーの現役エンジニアとして、先行開発から量産展開まで幅広い業務を経験。産まれたばかりの子供の成長を楽しみながら、エンジニアとライターの活動両立に苦戦中! 趣味は旅行(海外も国内も)と美味しいものを食べることと、学ぶこと。

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PlaBase編集部
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