ロボットクリエイターは、量産のことを考えて設計する:ロボットクリエイター高橋智隆氏 インタビュー【前編】

の記事では…
一流のクリエイターはどんな視点で素材を選択し、加工しているのだろうか? そんな興味があったので、今回はロボットクリエイターの高橋智隆さんにお話を伺った。
(執筆:松永弥生/ライター)

テレビCMやドラマにも登場するロボットたちを生み出す高橋さん


ロボットクリエイター・高橋智隆さんの名前を知らない方でも、パナソニックのテレビCMやポスターで乾電池エボルタのキャラクターロボット「エボルタくん」がグランドキャニオンの崖を登ったり、トライアスロンにチャレンジしたりする姿を見たことがあるだろう。または、ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」で星野源さんが演じる津崎平匡の部屋にいたシャープのモバイル型ロボット端末「ロボホン」を覚えているかもしれない。

グランドキャニオンに挑戦するエボルタくん(2008年)シャープのロボホン(2016年)

このかわいいロボットたちを製作したのが高橋智隆氏だ。

高橋氏は2004年に発表した二足歩行ロボット「クロイノ」で、米TIME誌「Coolest Inventions 2004」に選ばれ、ポピュラーサイエンス誌では「未来を変える33人」の一人に選ばれた。

アルミ板金やサーボモーターがむき出しの二足歩行ロボットがぎこちない歩行をする中で、スタイリッシュな外見で自然な歩行をするクロイノは、世界中から注目されたのだ。

クロイノ(2004年発表) 高橋智隆氏とロビ(2013年発表)

板金製からモノコック製へ


クロイノを発表した2004年当時、二足歩行ロボットを趣味で作るホビーストが全国に200人余りいた。「ロボットビルダー」と呼ばれる彼らは、それぞれが手探りで材料の選定を行い、作り方を模索していた。その頃から、二足歩行ロボット界隈では、アルミの板金を加工しロボットの製作をするのが主流だった。この傾向は、今も変わらない。

高橋さんも、当初は曲げ機を購入してアルミの板金加工に挑戦したという。けれど、アルミは粘りが強くて切るのが面倒なのと、曲げた時に精度が出ないという課題があった。部品を作り直しても、曲げる度に誤差が生じてしまう。ロボットが転倒すると、その衝撃でアルミがゆがむ問題もある。また、接着が難しい点も高橋氏にとってはネックとなったという。

試行錯誤の結果、高橋さんはプラスチックを使ってモノコック構造のロボットを作るようになった。

モノコック構造とは、骨組み(フレーム)の代わりに、外装そのものに強度剛性を持たせる設計をいう。つまりフレームとボディが一体化されており、その全体で力を受け止める構造だ。最先端の飛行機や自動車に用いられている。

バルサ材を削って型を作り、プラスチック板をコンロで熱し柔らかくしてから型に押し当てて、掃除機で空気を吸い出す。つまり、「真空成形(バキュームフォーム)」だ。これなら型を微修正して寸法をきっちり出すことが可能だ。

バルサ材から削り出したクロイノの頭部

高橋さんは、1~2mm厚の発泡塩ビ材を好んで使うという。厚みがあるために断面でも接着ができるからだ。板厚があるとバキュームフォームをする際の形状に制約が生じるが、型を分割して部品を作り、部品同士を張り合わせていくと複雑な形状の構造物もできる。発泡塩ビは、素材に気泡があるため、接着剤が染みこみやすく断面接着がしやすい利点もある。3次元形状も自由に設計できるため、射出成形したのと遜色のない部品ができあがる。

モノコック構造にするといくつもの利点がある。フレーム構造のロボットを作ってから、外装を後付けするとどうしても収まりが悪くなってしまうし、外装を付けるために動作に制約が生じてしまう場合も多い。

また、プラスチックはカーボンの板材と接着ができるのもメリットだ。量産品では無理だが、一品モノのロボットを製作するときはカーボンと樹脂を接着させて一体化したような部品が作れる。

「“素人の工作感”が出るのは嫌で、量産品のようなクオリティがほしい」、それが高橋さんのこだわりだ。

こうしたそもそもの材料選びや加工方法の違いと作品に対する思いが、高橋さんが他のロボットビルダーと違う方向に進み続けている理由だろう。

ロボットクリエイターとは何か?


高橋さんはロボット“クリエイター”であって、ロボット“デザイナー”ではない。

「ロボットの外観デザインだけをする仕事は成立しない」と高橋さんは話す。

ロボットの設計は、デザイナーの自由にはならないという。内部に部品がおしくらまんじゅう状態で詰まっているので、常に外観と内部構造のせめぎ合いだ。ヒト型のロボットは、体形や顔立ちが「ヒト」と比べて不自然にならないよう細心の注意が必要だ。更には、モダンやシンプルにしすぎると無機質になりすぎるので、適度に“キャラクターっぽさ”を加味しなければいけない。そしてそもそも、どのような材料でどう作りこんでいくのか、実現方法も重要だ。

デザインと機構、モーション、加工が複雑に絡み合っているロボットは、デザインの都合だけでプロジェクトが進むことはあり得ない。すべての事情を踏まえた上で、それぞれの要素の最良の妥協点を探すのがロボットクリエイターの仕事なのだ。

ロビット(2009年発表)のX線写真

また高橋さんは、設計初期から量産化を念頭に置いている。プラスチックのモノコック構造で作ったロボットは、そのまま射出成形に置き換えやすい。つまり、量産設計に移行しやすいというわけだ。

もちろん、ロビやロボホンも、そのような過程を経て誕生することになった。2013年には、雑誌付録の部品を組み上げていくコミュニケーションロボットとして、デアゴスティーニから「週刊 ロビ」が誕生、売り切れとなるほどの人気を博し、15万台を売り上げた。さらに2016年5月、ロボット端末のロボホンがシャープより発表された。

後編は、高橋氏がどうやってロボットを商品化しているのかについて紹介する。(次回へ続く)

【今回のインタビュイー】

高橋智隆(たかはし・ともたか)

株式会社ロボ・ガレージ代表取締役社長。東京大学先端科学技術研究センター特任准教授、福山大学/大阪電気通信大学情報学科客員教授等を歴任。ヒューマンアカデミー「ロボット教室」アドバイザー。

2003年京都大学工学部物理工学科卒業。卒業と同時にロボ・ガレージ創業。
ロボットの世界大会「ロボカップ」で史上初の5年連続優勝を達成。
ロボットクリエイターとして、ロボットの研究、設計、デザイン、製作を手がけている。
代表作に、乾電池CM「エボルタ」、組み立てロボットキット「週刊 ロビ」、ロボット電話「ロボホン」、ロボット宇宙飛行士「キロボ」 など。

 

ライタープロフィール
松永弥生(まつなが・やよい)
関西を中心に活躍するフリーライター。2000年からロボコン観戦を始め、三月兎のハンドル名でイベントレポートや動画で情報発信を開始。編集部からの依頼でライターデビュー。以来、ロボットや製造業関連ニュースをメディアに発信してきた。得意分野は、ロボットと製造業。モノづくりが大好き。文章講座やプレスリリース講座の講師としても活動中。
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PlaBase編集部
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