一般的なプロジェクトとはちょっと違う? “高橋流”のプロトタイプを使ったイメージ共有:ロボットクリエイター高橋智隆氏 インタビュー【後編】

の記事では…
一流のクリエイターはどんな視点で素材を選択し、加工しているのだろうか? そんな興味があったので、今回はロボットクリエイターの高橋智隆さんにお話を伺った。
(執筆:松永弥生/ライター)

>>前編

3D CADと3Dプリンタは、「じれったい」


「3D CADは苦手です。3Dプリンタも購入したけど、一度も使わずに手放しました」――東大に研究室を持ち、最先端の二足歩行ロボットを製作しているにもかかわらず、高橋智隆さんはそう言って笑う。

今でも、2004年に自宅兼工房でクロイノを作っていた当時のように、バルサ材を手で削って型を作り、熱したプラ板を型に押し当てて掃除機でバキュームフォームしているという。

工房で作業中の高橋智隆氏

3Dプリンタは、高橋さんいわく、「辛気臭い」そうだ。

画面の中で立体形状を作り込んでも、造形するとガラッと印象が変わってしまう。これは人間の脳の仕組み上、仕方がないことなのだ。風景や人物も、写真や映像と実物の印象は違う。だから3D CADで設計し、3Dプリンタで出力すると、どうしてもそうした差異が生じてしまう。

だったらバルサ材を削り、自分の手の中であらゆる角度からチェックして形状を整えていった方が上手くいく。

3Dプリンタを使うと造形に時間がかかる上、必ずイメージと違うものが出てくる。「だったら、手でチャッチャと作った方が早い」と高橋さんは言う。

最終製品並みのプロトタイプでイメージ共有する


2016年にシャープから発売されたモバイル型ロボット端末「ロボホン」も、家庭用コンロと掃除機でバキュームフォームしてプロトタイプを作った。動いて歩いて、音声認識ができて、プロジェクター投影をして、背中に液晶画面を搭載したプロトタイプだ。それを持ってシャープの社長や、孫正義氏にもプレゼンしたという。

ロボホンのプロトタイプ

この時に大事なことは、「いかにも試験機のようなものではなく、まるで最終製品のようなクオリティであることだ」と高橋さんは言う。プロトタイプを見せればイメージが共有できる。製品を作るためには、社長から現場のエンジニアまで同じ目標とイメージを共有してプロジェクトを進めていくのが大事なのだが、世の中に存在しない新たな概念の製品ならば、その最終系を実際に作って見せるしかない。

「量産品であるかのような一品モノを作り上げるのに、プラスチックは最適なんですよね」と高橋さんは語る。

量産のための試作に関しては、メーカー側から3Dプリンタで出力したプロトタイプが出てくる。しかしイメージに合わない箇所があると――、例えば、ロボットの腕を少し伸ばしたいとき、高橋さんは、3Dプリンタで出力されたプロトタイプを容赦なくノコギリでぶった切って、プラスチックを貼り足してしまうのだ。

例えば、数値で「何mm伸ばしましょう」と伝えて、3Dモデルを修正し、3Dプリンタで再出力すると数日かかる。しかもイメージ通りのものができてくるとは限らない。だったら、打ち合わせの途中で5分ほど席を外し、裏にある工房で手加工で修正した方が圧倒的に早いのだ。

このような一見、乱暴にも見えるやり方は、初めて一緒に仕事をする人たちには、驚かれるという。ともあれ、そんな風にしてロボホンが生まれたのだ。

コミュニケーションロボット市場を立ち上げたい


「ロボホンを超えるロボットは、自分が作るにしても他の企業だとしても、当分できない」と高橋さんは断言する。それは100万台を目指して開発した製品だからだ。スマホに代表されるように、スケールメリットが製品の性能や価格を決定する。例えば「千台しか作らないiPhone」、なんてものは実現不可能なのだ。

ロボホン。身長約19.8cm・体重約395g

ロボホンはよく売れているが、当初目指した台数には残念ながら届いていない。しかし「スマホの未来は小型コミュニケーションロボットだ、というロボホンの方向性は正しいと今でも思っています」と高橋さんは言う。

しかし、いい物を作ったからといってそれが勝手に普及するわけではない。その点について、高橋さんは「スマホからロボホンへの飛躍が大きすぎた」と考えているそうだ。確かに、今、街中で小さなロボットに話しかけている「おっさん」がいたら、周囲は奇異な目で見るだろう。

「スマホとロボホンのギャップを埋めるステップが必要」。それが、ロボホンを世に出して、高橋さんが実感したことだ。

ロボットに限らず新しいテクノロジーを普及させるハードルは、非常に高い。アップルウォッチも、あのAppleがあれだけ推して出してもしばらくは火がつかなかった。それでも粘り強く販売を続けてようやくといった感じだ。Google Glass もあれだけ完成度が高かったし、SONYもプレステのVRゴーグルを出したりしたが、大企業が本気で勝負に出たにもかかわらず、市場はなかなか立ち上がらない。

そうした状況を見れば、今のベンチャーや国が考えるロボットの普及見通しは甘すぎて、今までの方法でやり続けても、コミュニケーションロボット市場は未来永劫実現しないと予測がつく。

新しいテクノロジーが普及し、市場を立ち上げるためには、圧倒的なパワーと戦略が必要だ。

市場を立ち上げるためにいい製品を出すのはもちろんだ。なおかつ、消費者の今の価値観やライフスタイルから飛躍しすぎておらず、ポイントを押さえて、かつ完璧に近い製品をカリスマ性のある企業が、最初は損を覚悟で大量に投入し、かつ粘り続けることが必要なのだろう。

ハードルは高いが、でも、それはやがて誰かが実現する。不可能ではなく、やり方はある。それが、スティーブ・ジョブズがそうだったように。どこかで誰かがその当たりくじを引き、コミュニケーションロボットが普及する。もちろん、高橋さんは、当たりくじを引こうと狙っている。

「ロボットを普及させるためには、今までのレベルでは全然ダメで、100万台以上の数を出さないといけない。数が出れば、そのためのソフトやアプリが充実しはじめて、それがあるからさらに売れる好循環が生まれる」(高橋さん)。

あるレベルまでいけばいいスパイラルが生まれる。そこにたどり着けなかったら、落ちていくしかない。だから、コミュニケーションロボットの市場をつくるために、AppleやXiaomiクラスのトップを捕まえてきて、資本と熱量を掛けたビジネスをしたい。高橋さんは、そう考えている。

「自分のロボットでイノベーションを起こしたい」と思う高橋さんは、新たな戦略を練っている。実は、既に動作可能なプロトタイプはできているという。ビジュアルは見せてもらえなかったが、 “スマホ9割ロボット1割”のようなものだそうだ。

「ユーザーにスマホとして認知して購入してもらい、ロボット的な要素を徐々に使ってもらうのが、コミュニケーションロボット市場を立ち上げる正しい進め方だと思っています」と高橋さんは言う。

今は、コロナの影響でなかなかスマホメーカーのトップと話をする機会ができない状況に、じれったい思いを抱えているとのことだ。

コロナ禍が収まれば、高橋さんはすぐに動き出す準備を進めている。その結果、どんな新しいコミュニケーション様式が誕生するのか楽しみに、こちらもじれったい思いで待ちたい。

(終わり)

【今回のインタビュイー】

高橋智隆(たかはし・ともたか)

株式会社ロボ・ガレージ代表取締役社長。東京大学先端科学技術研究センター特任准教授、福山大学/大阪電気通信大学情報学科客員教授等を歴任。ヒューマンアカデミー「ロボット教室」アドバイザー。

2003年京都大学工学部物理工学科卒業。卒業と同時にロボ・ガレージ創業。
ロボットの世界大会「ロボカップ」で史上初の5年連続優勝を達成。
ロボットクリエイターとして、ロボットの研究、設計、デザイン、製作を手がけている。
代表作に、乾電池CM「エボルタ」、組み立てロボットキット「週刊 ロビ」、ロボット電話「ロボホン」、ロボット宇宙飛行士「キロボ」 など。

 

ライタープロフィール
松永弥生(まつなが・やよい)
関西を中心に活躍するフリーライター。2000年からロボコン観戦を始め、三月兎のハンドル名でイベントレポートや動画で情報発信を開始。編集部からの依頼でライターデビュー。以来、ロボットや製造業関連ニュースをメディアに発信してきた。得意分野は、ロボットと製造業。モノづくりが大好き。文章講座やプレスリリース講座の講師としても活動中。
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PlaBase編集部
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