原油・ナフサ価格がコロナ禍以前の水準へ回復した3要因:原油・ナフサ相場フォーキャスト(1)

この記事では…
コロナ禍においても原油・ナフサ価格が回復した要因を考察する。

(執筆:柳本 浩希/株式会社アメレックス・エナジー・コム 石化原料部長 兼 NAPレポート編集長)

日本では1年間延期された東京オリンピックが先日開催され、この記事が公開されている頃には、私を含め多くの市民の気持ちが上向いていると推察するが、まだまだパンデミック以前の水準、つまり2020年初頭のような状況には、多くの社会において回帰できていない状況だろう。

新型コロナウイルスの新規感染の恐怖感は「変異株の猛威」という形で今もあるし、ワクチンが国民の大部分で流通し終わっている一部の先進国を除けば、経済活動もまだヨチヨチ歩きの状況にある(特に、恥ずかしながら先進国の中で唯一GDP成長率が下方修正されている日本においては、なおさら閉塞感がある)。
そんな中、原油相場といえば、図1に示した通り、既にパンデミック以前の水準へと回復していることをご存じだろうか?

図1:原油相場の推移(2020年1月~2021年7月)

原油相場が値を上げたことによって、ナフサ価格も1キロリットル当たり5万円台へと上昇し、2020年1月時点の国産ナフサ価格を上回った。ガソリンなどの燃料価格も当然パンデミック以前の水準へ戻ったほか、国産ナフサ価格を前提とする石油化学製品の相場も既にコロナ以前の状態に戻っている。前述の社会情勢や私たちの意識と、マーケットの状況にはこのように大きな差異が存在している。
全3回の本連連載で初回となる今回はまず、原油相場がなぜこれほど早く値を戻したのか、その要因を解説したい。

そもそも、株式などを含んだあらゆる先物相場の中で、原油相場は回復に最も時間を要すると目されてきた。株式相場は2020年9月にはコロナ以前の水準まで回復していたのに対して、原油は人々の移動が制限された状況が続くとの見方が根強く、簡単に値を上げられないとの見方が優勢だった。

しかし、以下の3つの要因で原油相場は下馬評を覆す典型的なアップトレンドを形成したのである。

【1】米国の政権交代
1つ目は、米国における内政のねじれが解消された点にある。バイデン政権が成立した後も上院において共和党が多数を握る可能性が残されていたが、ジョージア州上院議員選挙の結果、僅差で民主党が2議席獲得したことにより、施政のねじれへの不安は後退。米国は過去最大の1.9兆ドル規模の景気対策を実行した。

これによって先物相場に大量の資金が流入し株式相場が急伸。2021年における世界全体の経済成長率は前年対比プラス6.0%と、1月の予想値からプラス0.8%も引き上げられた。2020年の経済成長率もプラス1.1%上方修正されたことを受け、経済全体の成長率は2020年にマイナス3.3%と低下した後、2021年にはそれを大幅に取り返す成長が予想され、先物のセンチメントは上向いたと言える。

【2】新型コロナ問題の関係
2つ目は、欧米各国などで新型コロナウイルスに対する恐怖感がかつてより和らいできていたことにある。ワクチン接種の急速な拡大によって、米国では既に成人の70%もの人々が接種を完了しているほか、イギリスやEU諸国においても次々と社会活動の制限措置が解除されている。米国では国内便の運航は大幅に改善したほか、ガソリンの需要はパンデミック以前の水準へと回復した。

また、接種を開始しているワクチンの数は16つあり、世界人口の大多数へとワクチンが行き届くのは、科学的に解決して克服するような課題ではなく、「時間の問題」となった。また、仮に既存のワクチンを克服し得る変異株が発生したとしても、フェーズ3まで開発が進んでいるワクチンが31もあることから、このウイルスに対して新薬で克服できるとの見方が優勢となった。とはいえ、石油需要の見通しが年初の予想値から引き上げられたのかと言えば、そうはなっていない。なお、国際エネルギー機関の2021年の需要見通しは、1月の予想からほとんど変わっていない。

※編集部注:ここで書かれている新型コロナウイルス関連の情報は、原稿執筆時に得られた情報から執筆者が考察したものです。新型コロナをめぐる問題は日々変化していますので、現在の状況などについては、厚生労働省や都道府県などの情報で確認してください。

【3】サウジアラビアなどの積極的減産
米国を中心とした景気刺激策に裏打ちされた経済成長の中、新型コロナウイルスをめぐる不安感の後退によって買いが集まりやすい状況となった。需要の見通しが変わらないのに、なぜ商品の相場が上がるのだろうか? 最後の3つ目は、その答えとなる。
それは、サウジアラビアを中心とした積極的な減産だ。2021年2月~4月末にかけて、サウジアラビアがOPECプラスによる協調減産枠に追加する格好で、日量100万バレルの減産を実行した点は供給を絞るのに十分となったと言える。

その背景には、米国のシェールオイルの生産回復が、早くとも2023年以降となるとの調査機関の見通しがあった。つまりサウジアラビアは早期に原油相場が回復しても、ライバルである米国のシェールオイルが市場に完全に回帰するのはまだ2年先のことと見なし、「原油相場はわれわれがコントロールできる」という確信のもと、積極的かつ献身的な減産によって原油相場を引き上げることに成功したと言える。

仮にシェールオイルが早期に生産を回復させることができていたとすると、サウジアラビアが減産をしたところで、相場が上昇することでシェールオイルにシェアを奪われた後、相場は再び下落するという事態を引き起こすのに留まってしまう(つまり、減産をする意味がない)。サウジアラビアがコロナショック時に価格戦争を仕掛けて相場を一時的に暴落させたことによってシェールオイルのシェアを一時的に奪ったとも表現できる。

果たしてどうなる? 今後の原油相場


以上3つの要因から、原油相場は大幅に値を上げた。サウジアラビアは非常に有効かつ賢明な政策によって、原油相場をコロナ以前の水準へと回復させることができたと言えるだろう。

図2:国産ナフサ標準価格と原油価格の推移(2000~2021年)

次回は、今後の原油相場の展望を考えるにあたり有効なロジックを提案する。国産ナフサ価格は2021年3Qには1キロリットル当たり5万円まで回復する可能性が極めて濃厚となっているが、今後、上のグラフ(図2)で示したうち、2011~2012年のような動きで1キロリットル当たり7万円台まで値を上げる可能性はあるのだろうか? 今後の2回で大胆かつ慎重に検討していくこととしよう。

プロフィール

柳本 浩希(やなぎもと・ひろき) 株式会社アメレックス・エナジー・コム 石化原料部長 兼 NAPレポート編集長。1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。2016年にAmerex Petroleum Corporation 東京支店入社。現在、株式会社アメレックス・エナジー・コムにてナフサ取引の仲介のほか、ナフサ/石油化学の情報誌の編集責任を務める。

sample
PlaBase編集部
PlaBase[プラベース]

これまでカタログや材料メーカー各社のホームページ内に散在していた樹脂(プラスチック)成形材料の情報をPlaBaseに集約しました。 メーカー・樹脂名・物性値など多様な検索方法によって、お客様の目的に合った樹脂成形材料のデータを探し出すことができます。