カーボンを地中に保管するCCSとは?:プラ業界の「環境との共存」(5)

この記事では…
CCS(二酸化炭素回収・貯留)およびCCUS(二酸化炭素回収・有効利用および貯留)について紹介する。

(執筆:柳本 浩希/株式会社アメレックス・エナジー・コム 石化原料部長 兼 NAPレポート編集長)

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地球温暖化への懸念を背景に、CO2排出量をネットゼロにするカーボンニュートラルへの取り組みが加速する中、今回は、CCS(二酸化炭素回収・貯留)およびCCUS(二酸化炭素回収・有効利用および貯留)について紹介する。主な2021年初期から足元までのCCSやCCUSをめぐる国や企業の取り組みは下表のとおりにて掲載し、企業の取り組みについて部分的に解説するとともに、今後の課題などを詳しく定義していきたい。

表1:主な2021年初期から足元までのCCSやCCUSをめぐる国や企業の取り組み
(画像クリックで拡大します)

CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)およびCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)事業とは、発電所や工場から発生するCO2を集めて貯蔵することで、発生したCO2を排出しない取り組みである。工場や発電所の排ガスを化学的に分解することで、排ガスからCO2を取り出す。そのCO2をパイプライン・タンクローリー・タンカーなどで運んで、油田や海底ならびに陸上の地層など、決められた場所に貯蔵するというのがおおまかな流れとなっている。

経済産業省は2021年6月22日、「第1回アジアCCUSネットワークフォーラム」に出席し、13カ国の加盟国(ASEAN10カ国、オーストラリア、米国および日本)と、100社・機関を超える企業、研究機関、国際機関などが参画し、アジア全域でのCCUS活用に向けた知見の共有や事業環境整備を目指す国際的な産学官プラットフォーム「アジアCCUSネットワーク」を立ち上げた。CCUSは世界全体をネットゼロ排出の経路にのせるために、2050年までに世界全体の累積削減のうち10%以上の貢献量が推定されている。

また、化石燃料の需要が残る東南アジア地域において、CCUSが果たす役割は大きく、2030年では約3500万トン、2050年では2億トン規模の回収量が必要とされており、このレベルを達成するためには、2030年までに毎年10億ドル超の投資が必要と見込まれる。同背景下、出光興産が参画している「苫小牧CCUS・カーボンリサイクル実証拠点」における産業間連携のビジョンの策定、革新的な分離回収技術の開発や船舶による長距離CO2輸送の実証、インドネシアにおける二国間クレジット制度(JCM)を活用したCCUS実証に向けた日インドネシア事業者間での共同スタディ合意の締結、米国・オーストラリアにおける日本の圧入技術の活用実証などの国際連携など、複数の活動方針を掲げた。

国主導の取り組みが着々と進む中、国内の各企業においてもCCS事業の研究開発が進められている。三菱ガス化学は、石油資源開発(JAPEX)と共同で、CCUS(二酸化炭素回収、有効利用および貯留)事業の共同検討を開始した。三菱ガス化学が新潟県新潟市に保有する工場において、二酸化炭素(CO2)を原料とするメタノールの事業可能性の検討を進めるとともに、JAPEX が新潟県内に保有するガス田において、同工場の余剰 CO2 を有効利用した天然ガスおよび石油の増産を目的とする EGR(天然ガス増進回収)および EOR(石油増進回収)技術の検討も予定している。

積水化学工業は、ルクセンブルク鉄鋼大手アルセロール・ミッタル(Arcelor Mittal)との間で、CCUS(二酸化炭素回収、有効利用および貯留)に関する提携を締結した。アルセロール・ミッタル社では製鉄事業を手掛けており、同提携を通じて、製鉄工程において排出されるCO2を分離および回収し、有効利用する技術の開発を手掛けていく予定。同技術には、積水化学工業が開発したCO2を一酸化炭素含有率の高い合成ガスへ変換する独自技術が採用されており、アルセロール・ミッタル社がスペイン・アストゥリアス州に保有する研究拠点において、同技術の開発における初期検討を予定している。

米企業において、イギリス・イネオスが、中国石油天然気集団(CNPC)との合弁会社ペトロイネオス(Petroineos)を通じて、イネオス社がイギリス・グランジマウスに保有する石化コンビナートにおいて、CCSプラントの新設を予定している。同プラントのCO2の貯留能力は年間100万トンほどと見込まれており、2027年をめどに事業化を完了させる見通し。

また、米国エクソンモービルは2021年7月、CCS事業「エイコーンCCSプロジェクト(Acorn CCS project)」へ参加することを表明した。同事業はイギリス・ストレッガゲオテクノロジーズ(Storegga Geotechnologies)社が開発を手掛けており、三井物産、オーストラリア・マッコーリーグループおよびシンガポール政府投資公社(GIC)などが出資参画している。同事業ではイギリスやスコットランドおよび周辺諸国から排出されるCO2を回収および輸送し、生産が減退した同域の油田やガス田への貯留を予定しており、2030年代半ば頃までに同事業におけるCO2の処理能力を年間2000万トンまで引き上げる。

表2:年間20万トン規模の装置に係る1トン当たりのCO2処理コストの一例
(経済産業省発表資料引用)

一方で、CCS事業を進めていくうえでコスト面の課題も存在する。表2に乗せた、年間20万トン規模の装置に係る1トン当たりのCO2処理コストの一例(経済産業省引用)を参考にすると、1トンにつき総計1万1129円のコストがかかることが見込まれている。特に大きいのは運転コストの方で、さらにその中でも「圧入井・貯留」に全体のコストが高いことが分かる。しかし、年間100万トン規模の場合の試算では、「圧入井・貯留」のコストが5557円から1517円へと大幅に下がり、全体としてのコストも6186円と約40%も低下することが期待されている。

そのため、CCS事業は一定以上の規模で実施することが必要とも言える。また、漏洩が少なく長期間安定して貯留できる場所をどのように探すかも、技術開発を進めていくうえでテーマとなっている。CO2は放射性物質などと違って、もともと大気中にも存在している物質である。そのため、隔離されていたCO2が漏洩したとしても、それが隔離されていたものか、もともと大気中にあったものなのかを見分けるのは困難であり、漏洩経路の確定も不透明となってしまう。地中貯留が長期間にわたり安定した隔離となるかどうか、より厳密な検討が求められる課題となっている。

世界中でCCSおよびCCUSの技術を普及および確立させることは地球温暖化防止の観点から極めて重要なキーを担っている。特に大量のCO2を排出しているインドや中国などの新興国向けに日本企業の技術を輸出することは国の成長戦略としても注目されている。開発のスピードアップならびにコスト面の課題解消に向けた今後の技術開発が期待される。

(次回へ続く)

プロフィール

柳本 浩希(やなぎもと・ひろき) 株式会社アメレックス・エナジー・コム 石化原料部長 兼 NAPレポート編集長。1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。2016年にAmerex Petroleum Corporation 東京支店入社。現在、株式会社アメレックス・エナジー・コムにてナフサ取引の仲介のほか、ナフサ/石油化学の情報誌の編集責任を務める。

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