子ども向けおもちゃにおいて、プラスチックは外すことのできない材料です。この連載では、子ども向けおもちゃにおけるプラスチック選定の現状から、開発の留意点、材料選びのポイントまで、おもちゃ開発の裏側をお教えします。
おもちゃで使うプラスチックは、いつも同じ!?:おもちゃの設計とプラスチック(1)

今回の記事は…
どんな種類のプラスチックが使われているのか

プラスチック製のおもちゃというと、どのようなものを思い浮かべますか?おもちゃの種類は実に多種多様ですよね。ではこれらのおもちゃはどんな種類のプラスチックからできているのでしょうか。
おもちゃの材料となっているプラスチックといえば、まず挙げられるのはABS(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの合成樹脂)です。ブロックや変身ベルトの本体部分、プラモデル、おままごとセットといったものなど、実にさまざまなおもちゃがABSでできています。
クリアパーツにはPP(ポリプロピレン)が用いられることが多いです。
その他、変身ベルトのベルト部分などしなやかさが必要な部品にはPE(ポリエチレン)、ソフビ人形や武器の剣先など柔らかさを必要とする部品にはPVC(ポリ塩化ビニル)が使用されます。
他にもPOM(ポリアセタール)、PA(ポリアミド)、PC(ポリカーボネート)、TPE(エラストマー)、PU(ポリウレタン)などの樹脂も使用しますが、例えばPOMはおもちゃ本体というよりギアなどの内部機構パーツ、PUはボールといったように、用途がある程度限定されます。
「いつも同じ」なのはなぜ?
化学メーカーでは次々と新しい樹脂が開発されていますが、実はおもちゃではほとんど決まった種類やグレードの樹脂を使用しておもちゃを製造しています。プラモデルもブロックも全く同じ樹脂を使用している、なんてことは珍しくないのです。ではなぜ、おもちゃは「いつも同じ」樹脂しか使用しないのでしょうか。
理由としては大きく3つ挙げられます。
まず、おもちゃ開発者は未知の材料よりも慣れた材料の方が使いやすいためです。
おもちゃの開発期間はとても短く、特にアニメーション作品などとのタイアップがある場合は、その進行におもちゃの発売を合わせるため、納期を遅らせることは絶対にできません。そのため新しい材料を試す時間はなく、毎回同じ材料を使用することによって開発期間の短縮を図っているのです。
さらに、生産工場における材料調達の利便性のためです。おもちゃの多くは中国やタイなどの海外で生産されています。日本とは材料調達の経路が異なるため、日本で手に入る材料が現地の工場では同じものが手に入らなかったり、調達に時間がかかったりする場合があります。その点、いつも使用している材料であれば、工場としても入手しやすく、種類が少なければ、その分在庫管理もしやすくなります。さらにおもちゃは、少子化の影響もあって生産数が少ないため、製品ごとに材料を変えてしまうとロスが多くなってしまうという問題もあります。

最後に、安全性の問題です。日本で発売されている多くのおもちゃには「STマーク」が付いています。これは「日本玩具協会が定める安全基準を満たしている」という証になります。STマークを取得するためには、外部の認証を受けた検査所で材料を検査する必要があります。
これには当然費用がかかる上に時間もかかるので、何度も検査を受けることは難しいのです。もし検査の結果NGとなってしまうと発売できなくなってしまうので、その点でもやはり過去に検査を通過している材料の方が「安心だ」となります。
これらの理由によって、おもちゃでは「いつも同じ」樹脂を用いることが多いのです。
次回は、このおもちゃ開発に立ちはだかる「ST基準」についてより詳しく解説します。(次回へ続く)
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