本連載では、世界中で急速に開発が進められている「空飛ぶクルマ」について、実現のために必要な要素技術に注目し、情報を整理していきます。
HIEN 御法川氏に聞いた、eVTOL実現に向けた3つの課題:空飛ぶクルマの要素技術(3)

この記事では…
(執筆:一之瀬 隼/ 製造業ライター)
前回に引き続き、法政大学の教授で、空飛ぶクルマの開発を行うベンチャー企業のHIEN Aero Technologies株式会社を設立した御法川学氏に、空飛ぶクルマについて話を伺いました。
今回は、eVTOLを開発し実際に運用していくまでに解決が必要な技術的な課題のうち、主要な3つの課題について解説します。
eVTOLの実現に向けたさまざまな課題
eVTOLが社会的に広く受け入れられ、現在想定されている用途で使われていくためには、さまざまな課題を解決していく必要があります。
技術的には、以下のような課題が挙げられます。
・安全性:eVTOLが故障をした際や事故が発生した際にいかに安全性を確保できるか?
・運航距離:用途に合わせた運航距離が確保できるか?
・静粛性:飛行時の騒音は許容されるレベルに抑えられるか?
また、技術的な課題以外にも法規制や航空機よりも低い位置を飛ぶeVTOLが社会的に受け入れられるかという社会的受容性、収益の出せるビジネスモデルの構築などさまざまな課題があります。これらを解決するのは簡単ではありません。
これ以降は、技術的な課題である安全性・運行距離・静粛性についてHIENの御法川氏にお伺いした内容を含めて紹介します。
eVTOLの安全性を確保する方法

空を飛んでいる航空機やeVTOLは、飛べない状態になり墜落すると大きな事故に繋がります。そこで、多少のトラブルが生じたとしても飛行し続けられるようにさまざまな安全装置が導入されています。
例えば、大型航空機は双発機とよばれエンジンが2基搭載されているものが一般的です。飛行中に鳥が吸い込まれるバードストライクなどが発生するおそれがあり、1基のエンジンが故障しても飛行を継続できるようになっています。
御法川氏は、「eVTOLの場合には、航空機とは異なる対策が必要です。航空機の場合には、仮に飛行するために必要な機能が失われたとしても主翼により滑空ができます。一方でeVTOLは飛行のために必要なプロペラなどが全て故障してしまうと、墜落してしまいます。」と、eVTOLと航空機の違いについて話します。
このような観点から、eVTOLはプロペラの数や電源系統などに関する安全性の確保が必要不可欠です。また、RTCA(航空無線技術委員会)のDO178Cという規格に準拠する必要があります。
「飛行に関するプログラムだけでなく燃料の調整に関するプログラムのソースコードの書き方まで厳しいチェックが入るので、かなり大変です」とかなり苦労されているようです。
eVTOLの運行距離延長

eVTOLはさまざまな用途での利用が想定されており、運航可能距離が長くなればその分用途が広がります。
運航距離延長を実現するためには主に、電池の性能向上に加えて、機体の軽量化が必要不可欠です。電池の課題については、純電動とハイブリッドシステムについて前回の記事で触れましたので、今回の記事では割愛します。
機体の軽量化について御法川氏は、次のように話します。「実は、eVTOLならではの軽量設計というのはあまりありません。基本的には、航空機の軽量化を行う際の施策に準じて、軽量化の検討を行っています」
eVTOLの期待を軽量化するために、機体の材料として炭素繊維強化プラスチック(CFRP)やガラス繊維強化プラスチック(GFRP)の採用が進んでいます。
今後は、航空機とは異なるeVTOL独自の軽量設計に関する開発が進んでいく可能性があります。
eVTOLの静粛性向上

eVTOLは従来よりも人の居住する都市部の比較的低い位置を飛行することが想定されています。これは社会的受容性にも大きな影響を与えており、eVTOLが飛行する地域に居住する住民に受け入れられなければ、導入が広がることはありません。
御法川氏は、「eVTOLやヘリコプターが飛行する際に発生する音にはさまざまなものがあります。その中でも、特に課題になるのはエンジンの稼働音やプロペラを回転させるためのモーター音ではなく、圧縮された空気とプロペラや空気がぶつかり合う音です。
プロペラによる騒音を改善するために、eVTOLの開発を行っているメーカーは、さまざまな工夫をしています。例えば、プロペラを大きくして回転数を遅くしたり、小さなプロペラをたくさんつけたりする構成が検討されています。」と解説します。
プロペラの数や回転数については、騒音だけでなく、ダウンウォッシュともよばれる吹きおろしの影響や先ほど紹介した故障時の冗長性など、さまざまな要素を複合的に検討する必要があります。
まとめ
eVTOLを開発し、実際に運用を始めるためにはさまざまな課題がありますが、その中でも技術的な課題について解説しました。都市部での運行やより長距離、長時間の運行が必要になる場合には、これらの課題は解決する必要があります。
機体開発に取り組む各メーカーが、それぞれの課題を解決するためにどのようなアプローチをしていくのかに注目が集まります。次回の記事では、eVTOLの機体開発者として御法川氏が樹脂材料に期待することについて伺いましたので、紹介していきます。
自動車部品メーカーの現役エンジニアとして、先行開発から量産展開まで幅広い業務を経験。2022年より新規事業開発に着手。企業としての活動に加えて、コロナ禍で誕生した子供に背中を見せられるように、個人として製造業にどう貢献できるかを模索しながら活動をしている。

