HIEN 御法川氏に聞いた、eVTOLにかかわる樹脂材料の技術:空飛ぶクルマの要素技術(4)

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世界中で急速に開発が進められている「空飛ぶクルマ」について、実現のために必要な要素技術に注目し、情報を整理していきます。HIEN編は、最終回。

(執筆:一之瀬 隼/ 製造業ライター)

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本連載をご覧の方の中には、樹脂関連のお仕事をされている方が多いと思います。そこで、eVTOL開発をする中で、「樹脂材料に対してどのような期待があるか」を法政大学教授でHIEN CEOの御法川氏に伺いました。

材料や周辺技術開発を行う際に、1つの参考になれば幸いです。

eVTOL開発における樹脂材料への期待

御法川氏は、樹脂材料に対しての期待について、このように述べています。

「樹脂材料に対する期待はいろいろとありますが、代表的なものは4つです。1つ目はeVTOLの機体に採用できるような軽量で高剛性な材料。2つ目は樹脂パーツの一部が破損や腐食した際に修理ができるような材料とリペア技術。3つ目は高電圧と低電圧系の絶縁およびノイズ遮断ができる材料。4つ目はeVTOLに採用できる特性を持ちつつリサイクル可能な材料およびリサイクル技術です。これらの材料や技術が開発できれば、eVTOLの環境性能や機体性能を向上できると考えています」

これら4つの材料および技術が、eVTOLの開発を行う際に重要な技術になります。これらはeVTOLだけではなく、例えば自動車や航空機など、他にも幅広い業界での活用が期待されています。

4つそれぞれについて、もう少し具体的に説明していただきました。

軽量で高剛性な樹脂材料

eVTOLの航続距離を伸ばすためには、機体の軽量化は重要な要素です。また、安全性を確保するためには強度の高い機体を実現する必要があり、これらを両立するためには軽量で剛性の高い材料が必要とされています。

「現在、eVTOLの機体に使われる材料としては、GFRP(ガラス繊維強化樹脂)やCFRP(炭素繊維強化樹脂)が主流です。今後、eVTOLをさらに普及していくためには、材料の成形性向上やコストの低減、強度を維持した状態でのさらなる軽量化などに期待しています」(御法川氏)

自動車でも、金属材料を樹脂材料に置き換える動きは広がっており、その中でCFRPには大きな注目が集まっています。しかし、量産を前提とした場合の生産性やコストが課題となり十分に普及していません。

eVTOL向けの材料開発も、自動車向けと共用することである程度の生産ボリュームを確保できる可能性があるため、開発の加速が期待されます。

樹脂材料のリペア技術

HIENでは、「スケーラブル」というコンセプトに基づいて機体の開発を行っています。スケーラブルな機体は、全て部品を一体成形するのではなく、用途に合わせた機体種類ごとに共通部品と専用部品を分けて構成します。

「HIENの機体は、部品を交換できるように開発していて、それを簡単にできるように樹脂部品同士の結合部分には、樹脂ではなく金属部品を使用しています。そうすると、樹脂と金属の接合部分に腐食が生じたり、飛行中に何らかの要因で樹脂部分に傷や割れが起きたりすることもあります。そういうときに、樹脂材料のリペア(修理)技術があるとうれしいですね」(御法川氏)

自動車業界ではヤナセなどが樹脂材料のリペア技術を開発するなど、一部実用化はされています。さらに簡易的に強度への影響を抑えたリペア技術の開発も期待されます。

絶縁・ノイズ遮断ができる材料

eVTOLには、数百Vの高圧電源系と12V/24Vの低圧電源系があり、この間を絶縁する必要があります。絶縁性のある樹脂材料を用いれば絶縁できますが、現状は電磁波を漏洩しやすい状態になってしまいます。

1996年に米国で発生した「トランス・ワールド航空800便」の墜落事故の原因は、(おそらく)電力線過渡または静電気放電の直接の結果結果として、空気/燃料混合物に点火する中央翼の燃料タンク内に火花が発生した(※)と推測されています。電磁ノイズは、航空機の安全性にとっての、“見えない脅威”です。同じ空飛ぶ乗りであるeVTOLにおいても絶縁、電磁ノイズ遮断が効率的にできる材料は必要不可欠ということになります。

*) テュフズードジャパン株式会社/EMC入門講座(CEND)

リサイクル性の向上

御法川氏は「世界的な環境意識が高まっていることで、eVTOLの開発にも材料のリサイクル性は重要視されています」と、近年高まる環境配慮の意識は、案の定、空飛ぶクルマの分野でも同様であると述べています。

しかし、材料となる樹脂は目的に応じた特性を実現するために、複数の樹脂を混合したり添加剤を利用したりすることで、リサイクルが困難です。特に、eVTOLで主流となるGFRPやCFRPは、焼却処理に非常にコストがかかることから廃棄の仕方が課題となっており、そのリサイクル技術も長年、難しいとされてきましたが、ようやく実用化されはじめたところです。今後のリサイクル技術の進化に期待がかかります。

なお2022年の年始に、筆者が寄稿した「PlaBase新年展望2022」でも、金森産業の面々が語っていますが、樹脂のリサイクル技術や高性能でリサイクル性が高い樹脂の登場が期待されます。

eVTOLでも求められる、樹脂材料技術の進化

今回の取材では、eVTOLの開発における樹脂材料への期待についてお尋ねしました。軽量高剛性の材料やリサイクル性の高い材料、リペアができる材料など、自動車業界における樹脂材料への期待と近い部分も多くあると、筆者は感じました。

2025年の大阪万博に向けた試験飛行がニュースになるなど、少しずつeVTOLへの期待が大きくなっています。今回の記事が少しでもeVTOLに参入したい部品・材料メーカーや機体開発メーカーの参考になれば幸いです。

法政大学の教授でHIENの御法川氏へのインタビュー記事は、今回で最後です。今後も、空飛ぶクルマ、eVTOLに関して技術的な情報をお届けしていきますので、ご期待ください。

【おまけ】製造業ライター・一之瀬、感無量――「メーカーの中の人として、楽しい取材になった」

大学時代、成績があまり芳しくなかった筆者にとっては、大学教授は緊張を感じる存在でした。しかし御法川氏は、ざっくばらんに、難しい技術も噛み砕いて分かりやすく解説してくださったので、楽しくインタビューをさせていただくことができました。
⁠自動車業界のエンジニアとして働く私の視点では、自動車と同様の開発課題があることを知り、eVTOLを身近に感じています。協力して課題を解決していくというアプローチも必要であり、そこには自動車メーカーだけでなく、私が働いているような自動車部品メーカーが関わっていくことが効果的ではないでしょうか。
⁠一方で、有人で空を飛ぶということから、法律としては飛行機と同様の法律で縛られることに、大きな難しさがあると感じています。eVTOLが普及していくためには、専用の法律制定とそれに基づいた技術開発が必要不可欠です。


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>>>>連載「空飛ぶクルマの要素技術」一覧

自動車部品メーカーの現役エンジニアとして、先行開発から量産展開まで幅広い業務を経験。2022年より新規事業開発に着手。企業としての活動に加えて、コロナ禍で誕生した子供に背中を見せられるように、個人として製造業にどう貢献できるかを模索しながら活動をしている。