資源高を克服するために日本の石化産業に必要なこと――①:石油化学市場レポ

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この記事では…

激動の最中にあるロシア・ウクライナ情勢において、ナフサマーケットの最前線から見えてくる今後の展望について解説する。

(執筆:柳本 浩希/石油化学コンサルタント)

編集部より
⁠ウクライナとロシアをめぐる情勢は日々変化しているため、本記事と併せて最新の報道をお確かめください。

2022年5月に掲載した「ナフサ価格高止まり? ロシアからの供給減による影響:石油化学市場レポ」でお伝えした通り、石油やナフサの相場は値上がりし、2Qの国産ナフサ価格は8万6100円/kl(キロリットル)と、史上最高値を更新した。これによって、全ての石油化学メーカーは強烈な値上げを打ち出し、あらゆる材料費は値上がりした。電気代も同時に大幅に値上がりしており、製造業はひたすらに価格転嫁に追われる半年となった。およそ全てのモノやエネルギー価格が上昇する中、今後の世界情勢、経済見通しについて解説したい。そして、この窮地を乗り越えるために何をすべきか個人的な提言をしたい。全2回で構成し、今回は世界の資源高をめぐる動きについて最低限知っておくべき点を押さえたい。

ウクライナ戦争勃発後、原油相場は年初対比約1.5倍まで値を上げた。2020年コロナショックの暴落時と比較すれば5倍の価格であり、この2年間で資源価格が急騰していることが分かる。戦争の長期化が叫ばれる中、ロシア産の石油締め出しが広がり、世界最大の輸出量を誇るロシアからの供給減は需給逼迫懸念を生んだ。OECD(経済協力開発機構)諸国が連帯して戦略備蓄の放出を決定しても、地政学的懸念を払拭できず、2022年7月まで約4カ月間原油相場は100ドルを超える水準にて推移した。国産ナフサ価格も2Qに史上最高値を記録した。しかし、足元では中国の景気低迷や、インフレと新興国通貨安(ドル高の進行)に伴う景気減速への懸念を背景に、原油相場は売り戻されている。国産ナフサ価格もこのままいけば4Qには6万円台へと下落する見通しとなっており、物価高も一服する期待が出てきている。

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図1:ブレンド原油(左軸:ドル/バレル)、国産ナフサ(右軸:円/kl)の推移(2022年1月~8月)

しかし、北半球の裏側では事情が大きく異なっている。ドイツや東欧諸国では冬場に備えて節電態勢が敷かれ、戦時中の様相を呈している。石油化学製品の生産装置も節電対応で稼働できないケースすらある。ウクライナ戦争の長期化は日本におけるそれのように単に「平和を祈る」だけではなく、生活の犠牲と共に意識され、他国の主権を一方的に踏みにじる国家を許容しない強い意志を欧州諸国は間接的に示している。ロシアは新ユーラシア主義の完遂と共に、欧米を中心とした民主主義国家の分断や1900年代の超大国が覇権を争う世界への回帰を画策しているが、そのことを欧州諸国が自国の重厚な歴史を通じて内省的に体感していることの現れとも言えるだろう。ロシアはこの戦争の一つの戦略的兵器として炭化水素の供給制限をちらつかせている。特に世界シェアが最も高い天然ガスではドイツへのパイプライン運用を一時的に停止させることで、相場の急激な上昇を引き起こした。

欧州連合(EU)は脱ロシアを掲げ、年末までに石油輸入の停止を、天然ガスにおいても将来的に代替エネルギーへの切り替えを画策している。欧州各国はロシアからの供給減少分を輸入に多く頼る結果となり、これは世界の天然ガス相場の上昇、電力コストの強烈な値上がりを引き起こした。世界の電力資源はその過半を炭化水素に依存しているが、特に天然ガスの相場の値上がりは尋常ではないことは下表を見れば一目瞭然である。原油1バレル当たりの発電量で換算して各炭化水素資源を比較しているが、天然ガスが断トツで高値となっている。

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原油相場が値下がりしても、天然ガスがこれほどまでに高値だと、発電原料として原油や石油製品が使用されるケースも出てくる。これほどまでに景況指数が悪化し石油需要の低迷が叫ばれても、原油相場が暴落しない背景には天然ガス相場が高値であることが影響している。とはいえ、発電向けにシフトされる石油の需要量は大きくないことから、原油相場はロシアの思惑通り高値で張り付くことはないだろう。むしろウクライナ戦争によって引き起こされた資源高によって世界経済が後退し、需要が減少することによりじり安となっている。ロシアが欧米から中国やインドなどへ輸出先を振り向けている点も見逃せない点である(ロシアからの輸出量はそれほど減少していない)。

しかしながら、経済活動が後退した場合に資源価格も値下がりするような公理からは外れて、原油相場はある程度の高値で推移することが懸念される。その理由はウクライナ戦争の長期化、OPECによるプライスマネジメント(=積極的な減産)にある。ウクライナ戦争以前と以後で何が根本的に変わったのかといえば、それまで脱炭素という流れで時代の片隅へと追いやられつつあった炭化水素が、大国の覇権争いとしての戦略的資源として再び日の目を浴びることになったという点である。1900年代へと歴史が逆戻りしてしまった格好だ。資源国は自国の政治的、経済的利益追求のために供給を絞るという構図は続くことになるだろう。バイデン大統領がサウジアラビアを訪問しても、増産を引き出せなかったこと、また、ロシアが前述の天然ガスパイプラインの停止のほかに、カザフスタンからの輸出ルートであるコーカサスパプラインの操業停止を命じたことに明らかである。このようにウクライナ戦争は、資源相場の大前提である自由貿易が政治的要因から瓦解するのに十分過ぎる因子となった。そして石油供給の圧倒的なシェアを握るOPECは対ロシア外交という点で欧米とは距離を置き、ある程度中立的な立場にある。これはロシアとOPECが協調しながら減産、プライスマネジメントしていくのに有益な体制を構築できていると言って問題ない。

このような文脈をかんがみるに、資源を持たざる国である日本にとっては慢性的な資源高によりコスト上昇圧力を受け続け、加えて地政学的リスクを背景にサプライチェーン分断リスクを意識せざるを得ない不安を抱え続けることになる。そうなると、日本の企業としてできることは何だろうか?次回はその点について個人的な提言をしたい。

※本稿は2022年8月29日時点での情報に基づき執筆しています。執筆者は価格予想などの責任についてその一切を負いません。

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⁠1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。