世界における「環境との共存」に向けた取り組みの最新動向を紹介する。
脱炭素社会に向けた欧米企業による最新の取り組み:プラ業界の「環境との共存」(7)

この記事では…
(執筆:柳本 浩希/石油化学コンサルタント)
年々増加している、企業による環境との共存に向けた取り組みについて、日本でも少なからず発展的な動きが出てきている。しかし、次に紹介するような欧米を中心とした海外企業の取り組みを見ると心もとない状況だ。今回は視野を世界に広げて、最新動向をご紹介していきたい。
① バイオリファイナリーへの転換

米国石油精製大手のフィリップス66は、米国・カリフォルニア州サンフランシスコに保有する製油所(原油処理量=12万8000バレル/日)において、バイオリファイナリー(※)への転換を計画している。同リファイナリーでは大豆油、廃食用油および動物油脂などを原料とするバイオディーゼルやSAF(持続可能な航空燃料)などの生産を予定しており、主に同州への供給を手掛けていく。同計画では既存水素化分解装置の改造を予定しており、具体的な投資額は約8億5000万ドル(日本円換算約1100億円)ほどと見込まれる。既にFID(最終投資決定)を完了しており、2024年第1Qごろに稼働を開始する予定。また、バイオリファイナリーへの転換に伴い、2024年までに製油所としての原油処理を停止させる。このような原油処理を停止して、バイオマス原料へと移管するような動きは、欧米を中心にほぼ全ての石油会社が実行に移している。一方、日本を含むアジアでは小規模なプラスチックのケミカルリサイクルの事例を除いて少数だ。
※バイオリファイナリー:バイオマスを原料として用いて、バイオ燃料や化学品を生産する技術や産業のこと。
② 海洋プラスチックの活用

浜辺に大量に山積するプラスチックゴミ 出典:WWFジャパン
サウジアラビアの石油精製大手サウジ基礎産業公社(SABIC)は海洋プラスチックを原料とするポリブチレンテレフタレート(PBT)を開発したことを発表した。同製品は海岸に投棄されたポリエチレンテレフタレート(PET)製のボトル(ペットボトル)を原料に使用しており、廃棄プラスチックを化学的に処理するケミカルリサイクルが採用されている。リサイクルされたPBTは石油由来のPBTと比較して、同等の機械的特性を有しており、主に自動車や家電産業などへの採用が見込まれている。昨今、廃棄プラスチック排出量が増加したことによる海洋プラスチック問題が深刻化している。同背景下、SABICは今後10年以内に100億本の廃棄ペットボトルを再資源化する目標を打ち出しており、今回の製品開発を通じて、喫緊の環境問題に対する持続可能なソリューションの提供を進める。プラスチックのケミカルリサイクルは珍しい事例ではないが、対象を海洋プラスチックに限定している点はユニークであり、面白い取り組みだ。
③ バイオマス由来の製品開発

米国でバイオエタノール事業を手掛け、バイオジェット燃料などで有名なランザテック(LanzaTech)は、フランス食品大手ダノン(Danone)との間で、モノエチレングリコール(MEG)の生産に関する新技術を開発したことを発表した。同技術には独自開発した微生物が活用されており、製鉄所や廃棄物処理施設などから排出される二酸化炭素(CO2)を発酵させることにより、CO2をMEGへ直接変換する技術とされている。同技術は概念実証を進めている段階とされており、今後数年をかけて規模拡大などを進めていく予定。なお、現時点では自然界においてMEGを生成する微生物は確認されておらず、また、中間体となるメタノールを必要としないことから、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する効果が期待されている。MEGはPETなどのプラスチック製品全般に使用されており、これまではメタノール経由、ないしはサトウキビ由来のバイオエチレン経由での生産しかできなかった。しかし、これは二酸化炭素から直接合成することが可能であることから、よりスマートなアプローチが可能となる。なお、PETを合成する際に必要なパラキシレンについては、同じく米国のバイオベンチャーから生まれたアネロテックが手掛けており、これによってバイオPETの生産が複数のルートで可能となった。
④ CCS(Carbon Capture and Storage)

英国エネルギー大手BPは、ドイツ産業ガス大手リンデグループとの間で、CCS(二酸化炭素の回収および貯留)の推進を計画していることを発表した。同計画ではリンデグループが米国・テキサス州に保有する工場内の水素装置などを対象としたCCSの実施を予定しており、BP社がCO2の貯留に関する検討および開発などを、リンデグループがCO2の回収および圧縮などを手掛けていく見込み。同計画におけるCO2の総処理能力は年間1500万トンほどと見込まれており、2026年以降に稼働を開始する予定。BPは2050年までに温室効果ガスの排出量を正味ゼロにするネットゼロカーボンの達成を目標として打ち出しており、今回の計画を通じて、エネルギーの転換へ向けた低炭素水素の普及へ貢献していく。人類の生活のために必要となる石油資源の有効利用の際、どうしても排出せざるを得ない二酸化炭素を地中に貯蔵する事業の検討を開始する動きは、上述の3つのケースに比べて比較的早期に、欧米だけではなく日本やアジアにおいても広がっている。
1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。

