今、サスティナブル対応で注目されるバイオ原料の中で、特にバイオナフサの可能性について解説。バイオナフサとナフサトラッカーの将来についても取り上げる。
バイオナフサとナフサクラッカーの将来はどうなる?――バイオナフサの展望:プラ業界の「環境との共存」(8)

この記事では...
(執筆:柳本 浩希/石油化学コンサルタント)
バイオマス(木材チップ、タールや使用済み植物油など)を利用した石油化学製品が増加してきている。これは、当然のことながらカーボンニュートラルを達成し、ゆくゆくはネットゼロ社会(CO2の排出と吸収が均衡した社会)を実現するための取り組みの1つである。レジ袋など、現行の法的な使用義務がなく、補助金が支給されるわけでもない分野においても、バイオプラスチックがこれほどまでに盛り上がりを見せるのには、次のような要因があるといえる。

バイオマスプラスチックに対する付加価値が、従来の石油由来のプラスチックに炭素税が将来課せられることを見越して、また消費者マインドの変化によって引き上げられた。また、企業の社会的責任を完遂する一環で、多少の赤字が出ても「とりあえず始めてみる」だけのインセンティブ(動機)が働いたからといえるだろう。
マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、再利用、素材の変更、少量化などと共に、バイオマス原料のプラスチックは比較検討され、最適な用途で使用が拡大すると見込まれている。それぞれの利点を生かしながら、バランスをとってネットゼロに向けた社会を創出することとなる。その意味は、リサイクルだけでも、バイオマスだけでも、そしてCO2回収だけでもネットゼロの実現は不可能である。各分野で需給のバランスを取り、適正な相場を形成しながら、社会全体でカーボンニュートラル、ネットゼロを実現していくこととなる。
今回はバイオマス原料の中で、特にバイオナフサの可能性について取り上げたい。バイオマス原料はサトウキビ由来のエタノールなどが代表例で、ブラスケムが先行してバイオエタノールからエチレンを生産し、ポリエチレンへと一貫生産している。しかし、世界のポリエチレン需要の1%にも満たない生産量であるほか、サトウキビは可食原料でもあることから、食糧問題を抱えることになる。そのため、エタノールだけではないそのほかのバイオマス原料も当然ながら必要とされている。また、アジアや欧州に多いナフサクラッカーではエチレンだけでなく、プロピレンやブテン、アロマなどバランスよく副産物が生産され、これらエチレン以外の原料も貴重な石化原料となっている。バイオマス由来の石化製品原料を量と種類を共に増やすためには、バイオエタノールだけでは不十分だ。
そこで登場するのがバイオナフサである。これは、バイオリファイナリーと呼ばれる木材チップやタール、使用済み食物油、廃棄物などを原料に石油を生産する製油所であり、そこから算出される軽質油はバイオナフサと呼ばれている。バイオリファイナリーは基本的に既設の製油所を改造してリニューアルというかたちで設置されることが多い。既に三井化学やLG化学はバイオリファイナリーで技術的に先行するフィンランド・ネステ社からバイオナフサを輸入し、マスバランス方式で様々な石化製品をバイオグレードとして販売している。バイオナフサの利点は、ナフサクラッカーという既存の石化原料生産装置に手を加えることなく、原料さえ置き換えればバイオグレードが生産できる点にある。基本的に品質は通常のナフサと大きな違いはないことから、バイオナフサだからといって余計なコストが必要なわけではない。
バイオナフサとナフサクラッカーの将来はどうなるか?
それでは、今後ナフサは順次バイオナフサへと置き換えられていくのだろうか? また、バイオナフサの価格はどの程度なのだろうか? ひいては、既存のナフサクラッカーの将来像はどのようなものになるのだろうか? 今回と次回にわたって、バイオナフサとナフサクラッカーの将来について考えていきたい。
まず、バイオナフサについて足元の市場は複数の情報会社が査定しているが、生産能力が少ないことから現物のみのマーケットとなっている。少量で流動性がないことから先物のペーパーは未発達で、ネステ社など大手サプライヤーの現物のオファー価格などが参考にされている。2022年の取引価格は1トン当たり2700~3200ドル程度と、ナフサの約4~5倍の価格とで推移した。現在、日本では炭素税を含めあらゆるCO2の排出に課金される税は存在しておらず、企業はこの高値のバイオナフサを将来の脱炭素社会に向けた取り組みの1つとして調達し、生産されるダウンストリームの石化誘導品をバイオグレードとして顧客展開。本格的なマーケティングを開始している。
このバイオナフサの生産能力は今後増加していく見通しだ。足元ではバイオマスからの再生製油能力を保有する特定の企業(ネステ社やオイルメジャーと呼ばれる大手石油会社)のみが販売しているが、2025年までには多くの石油会社(特に炭素税が先行して設定される欧州やシンガポールに生産装置がある企業のみならず、日本を含むアジア全体)においてSAF(Sustainable Aviation Fuel)の生産増強を明らかにしている。これは航空機からの温室効果ガスの排出が多いことから政府や航空業界が率先して対策を打っていることが背景にある。アジアのSAFの生産量は足元では年間20万トン程度であるとことから、2025年までに年間500万トン強へと引き上げられる見通し。SAFは使用済みの食物油などから生産され、いま日本を含むアジア全体でこの植物油争奪戦が繰り広げられているが、バイオナフサも付随的に生産される。約1:5の比率とされており、このSAF生産装置からの生産がアジアのバイオナフサ供給量を押し上げ、2025年までに年間約150万トンへと飛躍的に増加する見通し。しかし、これは東アジアで月間400万トン不足しているナフサの需給の構造を変化させるまでのインパクトは持ちえず、既存のナフサクラッカーはあくまでこれまで通り石油由来のナフサを主原料として使用する(せざるを得ない)だろう。つまり、多くの石化会社は石油由来のナフサを買うことによって負担するカーボンコストに対して、排出権を購入するか、それを打ち消す取り組み(例えばCCSと呼ばれるCO2貯蔵事業)を行うことで相殺させる必要がある。
次回はこの排出権取引や炭素税において先行する欧州のCO2価格動向を参照しながら、欧州における国境炭素税導入を経由して将来的にアジアで炭素税が導入された後の日本やアジアの石油化学産業の姿を予想したい。
1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。

