5月の原油マーケット解説にて、原油相場が高値になると予想し、想定通り相場は値を上げている。これはサウジアラビアの減産によるものだが、この状況は今後どう変化するのか。そして原油相場の高値は持続するのかについて見解を述べる。
反発する原油・ナフサ相場 再び石油は高値に? サウジアラビアが抱えるジレンマ:石油化学市場レポ

今回の記事は...
(執筆:柳本 浩希/石油化学コンサルタント)
前回、5月に出稿した原油マーケット解説では、OPECプラスの減産政策がこれまでのフェーズと何がどう違っているのかを見てきました。そして、中東やロシアによる減産政策を背景に「今後原油相場が慢性的に高値となる」として、警鐘を鳴らしました。その後3カ月を経て、マーケットはどうでしょうか?
下のグラフに示した通り、その予想通り相場は値を上げました。ブレント原油で75ドルを中央値として上下していたところから、足元では85ドル近辺へと上昇しています。背景にあるのはもちろん、サウジアラビアによる自主的な減産があります。サウジアラビアは、原油価格が思ったほど値上がりしないことから、8月から日量100万バレルの減産を決定。世界の石油需給が引き締まるとの見方が強まりました。前回お伝えした筋書き通りの展開となっています。

日本においては高値の原油相場に加えて、円ドル相場の下落(=円安)に伴い、円建てでの石油の価格は値上がりしています。当然のことながら原油から精製されるナフサも例外ではありません。
以下のグラフに示した通り、国産ナフサ価格は2023年3Qに6万円台前半まで下落したものの、上のグラフで示した原油相場の反発を受け、4Qは再び7万円台へと評価値を切り上げています。7万円台へと値を上げるのは実は有史上四回しかないことであり、そのうち二回はこの2年足らずの間に発生していることになります。
このように国産ナフサ価格が高値の状況が続くと、国内の石化製品は高すぎると嫌気されて、消費が落ち込むのも無理はない話かもしれません。為替が大きな影響を与えている証拠として、下のグラフで原油相場との相対的な比較(赤のラインの青のラインの差を参照)をすると一目瞭然です。
原油相場そのものは、アラブの春と呼ばれる中東の地政学的混乱によって高値となった2011年~2014年からすれば高値ではありません。しかし、国産ナフサ価格はその時期の価格を上回っていることが分かります。青のラインが赤のラインよりも大幅に上にあるということは、これまでよりも円建ての価格が高値となっている(=為替が影響している)ということになります。

このように、産油国による減産政策が原油相場を引き上げ、そして日本ではことさらに為替の影響から石油の価格が持ち上げられていることが分かります。では、今後の石油相場はどうなっていくのでしょうか?
実は、石油の需要の伸びが2024年以降右肩下がりに減少していくとの予想が、国際エネルギー機関(IEA)より打ち出されており、「需要そのものが今後も大幅に増加していく」という見方はできない状況にあります。脱炭素政策の下で内燃機関の使用が電気などに移行し、石油の使用量が減少するということですね。
一方、供給サイドは中東諸国やロシアで結成されているOPECプラス以外の国々(アメリカやカナダなど)が増産をすることで、緩やかに増加していく見通しです。そうなると、現時点でも大幅な減産をしている中東諸国、特にサウジアラビアはさらに減産を続け、その幅を拡大させることも必要になるかもしれません。足元の高値の原油相場はあくまでサウジアラビアによる献身的な減産が支えていますから、同国には相当なストレスが掛かっているものと想定されます。
下表に示したのはOPECプラスの原油生産能力対比の減産量ですが、ご覧いただくとサウジアラビアが他の産油国と比較して飛び抜けていることが分かると思います。日量300万バレルというのは世界の石油需要の約3%にあたる数量に当たり、大きな数字ですが、この数量をたった一国だけで減産しているのです。
他の国を見てみましょう。イランは米国からの制裁によって減産していますので、これは自主的というようなものとは少し毛色が異なります。そうすると、UAEとイラク、ロシア、クウェートしか実質的に減産をしていないことが分かると思います。

このように見ると、足元の減産がいかに「いびつ(歪)」かが分かると思います。今後石油需要の伸びが減速し、非OPEC諸国の供給が増加してくると、さらにサウジアラビアへの負担は増すものと見られます。いつまでこの状況にサウジアラビアが耐えられるか、再び減産体制を崩壊させる事態になることも選択肢のうちにあるのかもしれません。
その場合、2020年春のように石油市場は暴落することになりますが、さてそれがいつか?早ければ来年に起こるかもしれませんし、再来年かもしれません。いずれにしても、今の歪な状況はいつか壊れると見ておいた方がいいでしょう。
※本稿は、2023年8月末時点での情報に基づき執筆しています。執筆者は価格予想などの責任について一切を負いません。
1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。
