国内石化産業における、カーボンニュートラルに向けた取り組みの現状について解説する。
国内石化産業における脱炭素に向けた取り組み(2):石油化学市場レポ

この記事では...
(執筆:柳本 浩希/石油化学コンサルタント)
前回のコラムでは、カーボンニュートラル(CN)に向けた潮流の変化についてみたうえで、日本の石化産業におけるCNに向けた立ち位置と、政府からの要求事項を確認しました。そして、原料の脱炭素実装に向けた先行例となっていたバイオナフサ由来の石化製品について足元の状況を解説し、法的、金銭的なペナルティなしの状況でCNを掲げたバリューチェーンを構築することが難しいことをみていきました。今回はそのような環境下、将来施行される可能性のあるカーボンプライシング導入に向けて、また企業価値向上のために大手の石化企業が取り組む事例を紹介しながら、企業ごとの志向性も確認していきたいと思います。
国内大手石化メーカーの取り組み
表1に示したのは日本の大手石化メーカーがここ2~3年の間にプレスリリースをしたCNに向けた取り組みの数々です。このように見てみますと、各社が生き残りをかけてさまざまな施策を打ち出していることが分かります。

表1:国内大手石化メーカーによるCNの取り組み
リサイクル分野
リサイクル分野では、全ての企業が精力的に取り組んでおり、自社が販売する合成樹脂をユーザーから回収するマテリアルリサイクルや、熱分解といった一定のプロセスを経由して原料に戻すケミカルリサイクルが各社の取り組みに多く見られます。その中でも印象的なのは消費者に直接販売するようなエンドユーザー(石化製品の最終ユーザー)らとタッグを組んで取り組むケースです。
例えば、住友化学は資生堂や積水化学らと組んで使用済み容器のマテリアルリサイクルに取り組んでいます(資生堂、積水化学、住友化学の3社協業によるプラスチック製化粧品容器の新たな循環モデル構築に向けた取り組みを開始 | 事業・製品 | 住友化学株式会社)。
三井化学は花王と組んで廃プラスチックのケミカルリサイクルに取り組む(廃プラ分解油によるケミカルリサイクル製品の製造開始、 日本初のバイオ&サーキュラークラッカーを実現 | ニュースリリース | 三井化学株式会社)ものです。自社だけでは使用済みの容器を回収できなかったところを、エンドユーザーとタッグを組むことでリサイクルフローを確立できるほか、ブランディングに寄与できるものと思われます。
石化メーカーが自ら使用済みプラスチック回収をした上で、自社でケミカルリサイクルまで一気通貫する取り組みは、三菱ケミカルが一歩先を行っている状況(「プラスチック油化ケミカルリサイクル」先端技術を使った新たな資源循環モデル|三菱ケミカルグループ)と言えるでしょう。
グリーンエネルギー分野
一方、これまでナフサやLPGや重油といった化石原燃料を使用して石化製品を生産していたところから、よりクリーンなエネルギーへと大規模に転換することを目的としたグリーンエネルギー分野も、各社多様なかたちで取り組んでいます。
例えば、東ソーはこれまでナフサを原料に一酸化炭素(CO)を抽出して化学品の粗原料としていたところを、空気中のCO2を原料にしてしまうような装置を導入しています(CO2回収および原料化設備を稼働開始~CO2有効利用によるイソシアネート製品の低炭素化~|ニュース|東ソー)。
旭化成は独自のイオン交換膜技術を生かした水電解によるグリーン水素の社会実装化に向けて取り組んでいます(Aqualyzer|水素製造アルカリ水電解システム アクアライザー|旭化成株式会社)が、仮にこれが実を結べば化石燃料ベースで生産されていたアンモニアや、ひいてはオレフィンといった炭化水素もこのグリーン水素が起点となって生産できる可能性を秘めています。
レゾナックは川崎事業所で20年前より廃プラスチックを原料として投入して水素を生産し、そのままアンモニアを生産するユニークな技術を保有しています(CO2排出量80%強削減を確認、使用済みプラスチックから生まれた低炭素アンモニア | News Releases | Resonac)。この他、原料のナフサをバイオエタノールに転換してしまうような計画も住友化学や三菱ケミカルで検討されており、グリーンエネルギーはまさに多様な道が花開くようなかたちとなりそうです。
会社ごとの特性がはっきり見えてきた
このようなリサイクル分野やグリーンエネルギー分野の取り組みが進展していけば、従来の化石原燃料の使用は減少させることができるでしょう。しかしそれでも年間百万トン単位での生産は困難と言えます。そのため、発生してしまうCO2と同量もしくはそれ以上の数量を地中の中で保管しておくCCS(Carbon Capture and Storage)というプロジェクトが石油会社や石油採掘会社、ガス会社、商社といったなどエネルギー企業を中心に始まっており、石化メーカー各社が参画を検討している状況です。
ケミカルリサイクル、グリーンエネルギー、CCSのいずれにしても、油分の分解や精製に一定の知見を持つ国内の石油会社との連携は不可欠であることから、石化会社はCNに向けてさらに石油会社と協調していくものと思われます。石油会社としても国内、ひいては世界の燃料需要が今後右肩下がりとなる中で、新たな成長の源泉としてグリーンエネルギーや化学の分野のセールス増加を企図しており、まさにWin-Winの構図と言えるでしょう。
2回の記事を通じて、CN社会実現に向けた日本の石化産業における立ち位置と取り組みをアップデートしてきました。3年ほど前に環境との共存をテーマに様々な記事を執筆してきましたが、この3年の間でより目標が具体化してきて、会社ごとの特性もその輪郭がくっきりしてきたと思います。
2030年代、もしくはさらに先になるかもしれませんが、炭素税のようなスキームが石化産業にも適応されるのを見越して、さらに各企業の動きは活発化する見通しです。現在はたしかに炭素の使用に対して何らペナルティがないことから、ユーザー側は低炭素グレードに対して付加価値を見出しづらい状況となっていますが、あと3年後は市場全体のブランディングが浸透していくことで、より身近になっていくことでしょう。
1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。
