トランプ関税と石化産業(前編)トランプ政権とこれまでの米国の政策:石油化学市場レポ

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トランプ大統領が打ち出した関税をはじめとした保守的な外交戦略や、それが国内石化産業における相場や物流に対して具体的にどのような影響が出るのかなどを考察します

(執筆:柳本 浩希/石油化学コンサルタント)

前回は国内石化産業における脱炭素に向けた取り組みを解説しました。今回からはトランプ大統領が打ち出した関税(以下、トランプ関税といいます)をはじめとした保守的な外交戦略について、アメリカの歴史の中でどのように位置付けられるのか検討します。さらに足元で相場や物流に対して具体的にどのような影響が出ているのか、また国内石化産業への今後の影響はどうなるのかを見ていきたいと思います。前・後編の2回に分けてお届けします。

初回は、アメリカの足元の政策的変化がどのような文脈で起こっているのか、分析していき、私たちがどのように捉えるべきか考察します。

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アメリカにおける政策の過去と、今日のトランプ政権

アメリカは16世紀末に欧州列強の入植が始まり、1776年に独立宣言を採択して国家形成の第一歩を踏み出して以降、250年の歴史しかありません。この250年の中で、約80年の周期で国家の体制や特徴が変化してきたと専門家は指摘しています(参考文献1)。

独立戦争や南北戦争を経て領土の統一がなされた第1期、その後拡張政策とモンロー的外交戦略を採った第2期、そして第1次世界大戦終結以降グローバリズムを牽引し世界の警察としての役割を担った第3期です。そして、足元ではこの第3期のグローバル経済や移民開放に対する見直しがトランプ政権によってなされています。

それまで積極的に軍事支援をしてきたウクライナに対して妥協を迫り、関与を弱めることをちらつかせるといったモンロー主義的な外交政策を強いたり、米国第一主義の下で高い関税を他国に課して単独での貿易黒字を企図したり、不法移民を排除し移民規制を強めたり、グリーンランドやカナダに対する併合をちらつかせて領土拡張を図ったりするなど、再び第2期のような政策へと回帰しつつあります。

しかし、このような流れはトランプ氏のみによってもたらされたものではありません。安全保障の分野では中東・イラクやアフガニスタンからの段階的な撤退やシリア内戦への消極的関与など、過去のオバマ政権から表出していましたし、日本製鉄によるUSスチールの買収についてもバイデン政権時に否定されています。

急に国際協調から国家保守へと大きな流れを変えているように見えますが、アメリカは建国以来、異分子を受け入れながらときに排除することで(協調から保守へと揺れ動くことで、その逆も然り)巨大な国家として成長し、「WASP(白人系アングロサクソン系プロテスタント)と非WASPの間の文化的差異にこそ「アメリカ性」が浮上する」(参考文献2)と指摘されるくらい特殊な選民国家であることも意識するべきでしょう。

例えば、戦後の米国における貿易赤字について、貿易摩擦の是正は、日本よりも超過度合いが高かった西ドイツではなく、日本にのみ求めていました(参考文献3)。

アメリカの政治学者サミュエル・ハンティントン氏は、「日本は将来的に中国と同盟関係となり、西洋と敵対すると予想し、人種的な違いが脅威となる」と公然と説いています(参考文献4)。

新型コロナウイルスがアメリカで脅威を振るい始めた際に、アメリカ人医師が真珠湾攻撃と9.11を引き合いに出しながら脅威を説いています(参考文献5)。トランプ大統領がワクチン開発計画についてマンハッタン計画を引き合いにして表現し、国民の団結を促したことなどは、保守的な思想が裏に存在していて具体的な事象へと発現した好例と言えます。

そのような意味では、もともとアメリカには本質的なメンタリティーとして保守選民的な考え方は存在していたと言えます。国家として1つの単位で成立するためにはアイデンティティーが必要であり、保守的な思想はどこの国でも存在します。ただしアメリカは、少し特異な側面を持ちます。日本や中国、イギリスは古から続く「ことば」やその背後にある文化のアイデンティティーがありますが、アメリカにはそれがありません(英語はイギリスで生まれたことばです)。

だからこそ、自由や平等、個人主義といったアメリカ的信条(参考文献6)をアイデンティティーとして据える必要があり、この信条が80年サイクルで変化すると見ることもできるでしょう。

アメリカの信条が大きく変わる潮目か

まとめると、アメリカの足元の保守主義は別段、今に始まった話ではないということ、そしてこれまでも協調と保守との間で揺れ動いていた中で足元の事象を再解釈すれば、私たちはアメリカの信条において大きな流れが変わる潮目に出くわしている可能性があるということになります。

中国やインド、中東諸国の経済力がますます増加する中で、米国はこれまでのグローバリズムからいったん手を引き、保守的な政策へと舵を切ることは、国内で製造業の空洞化が進行し、同時に貧富の差が拡大している中において、不条理な話ではないでしょう。しかしながら、相互関税とも呼ばれるトランプ関税の発動や外交戦略の変化は、世界の経済網や安全保障をめぐって大きな変化を促しています。

次回はトランプ関税の発動によって特に石化産業がどのように変化していくのか見ていきたいと思います。

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参考文献

1 『2025年を歴史的観点で考える―日米ともに「80年サイクル」の歴史的転換点に―』(石川智久・著、日本総研、Webサイト)

2 『アメリカ文学史』p.26(巽孝之・著、慶應義塾大学出版会・刊)

3、5 『黄禍論 百年の系譜』、p.185-187(3)、p.228(5)(廣部泉・著、講談社・刊)

4 『イエロー・ペリルの神話
帝国日本と「黄禍」の逆説』p.254-258(飯倉章・著、彩流社・刊)

6 『トランプ主義は「米国的信条」を葬るか――サミュエル・ハンチントンの予言』(冨田浩司・著、新潮社Foresight、Webサイト)

⁠1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。