未来はキャンパスから宇宙へ【大学発・次世代宇宙開発の最前線】――メッセナゴヤ2025 「Space Approach EXPO」レポート

Image

この記事では…

ポートメッセなごやで開催された異業種交流展示会 「メッセナゴヤ2025」の、「特別展示 Space Approach EXPO」から、産学の垣根を越えたアイデアと熱意が交錯する、大学発宇宙研究をご紹介します。

(執筆:松永弥生/ライター)

2025年11月5~7日、ポートメッセなごやで開催された異業種交流展示会 「メッセナゴヤ2025」。特別展示「Space Approach EXPO」では、宇宙産業の次世代を担う大学・研究機関が集結した。月面開発から小型衛星、資源循環、環境対応まで――。

研究者たちの挑戦は、単なる“夢”ではなく、現実の技術として確かな形を見せていた。本稿では、産学の垣根を越えたアイデアと熱意が交錯する、大学発宇宙研究の最前線を追う。

>>前回⁠「地上の技術が、宇宙を変える――メッセナゴヤ2025 「Space Approach EXPO」レポート」


⁠宇宙はもはや“遠い世界”ではない。

メッセナゴヤ2025の会場で展示された大学ブースには、地球で磨かれた知恵を宇宙に持ち込もうとする若い研究者たちの熱意があふれていた。月面での建築や資源利用、木製衛星、超軽量素材――。それぞれの研究は、単なる技術実験ではなく、「人が宇宙で生きるとはどういうことか」という問いへの挑戦である。

宇宙を社会の一部として考え始めた今、大学発の研究が新たなビジネスや倫理の枠組みを生み出している。研究室の発想が、宇宙産業の風景を変えようとしているのだ。

立命館大学 宇宙地球探査研究センター(ESEC) ― 月面開発を産業化する研究拠点として挑む

立命館大学 宇宙地球探査研究センター(ESEC)は、「月面探査・利用を産業化するための宇宙機器開発・人材育成拠点」として、JAXAの宇宙戦略基金事業「SX研究開発拠点」に採択された組織である。月や火星面を再現した研究環境やシミュレーション基盤を整備し、月面インフラ構築を具体的な計画へと進めることを目指している。

Image

立命館大学 ブース


ブースでは、月面掘削を担うコアサンプラー、ボアホールプローブ、レゴリス分析装置などを紹介。人が月に住む未来を見据え、インフラ整備に欠かせない要素技術の実証を目指している。

開発上の課題は、真空・低温・ダスト環境という過酷な条件下で、掘削機器や分析装置を安定して動作させる点だという。ESECでは「ダスト環境試験チャンバー群」「月面模擬フィールド群」「月面統合シミュレーションプラットフォーム」など、日本版“Dust Testing Facilities”の整備を進め、実環境を模した試験を通じてブレイクスルーを図ろうとしている。

来場者からは「自社技術を宇宙に生かせるか」といった相談が多く寄せられ、非宇宙産業との連携促進にも手応えを感じているという。さらに、一般向けの「宇宙マネジメント講座」を開設し、科学から法務、ビジネスまで幅広い知識を学べる環境を整備。今後は第2期研究として、実際に宇宙へ搭載できるフライト品の開発に挑む予定だという。


Image

月面探査・利用を産業化するための宇宙機器開発・人材育成拠点「ESEC」


Image

宇宙開発の3つのフェーズと5つの研究ビジョン


名古屋大学 上野研究室・宇宙地球環境研究所 ― 空気より軽い素材で宇宙の課題に挑む

名古屋大学の上野研究室では、「空気に浮くほど軽い」カーボン素材を開発している。熱を加えるとゆっくりと宙に浮かび上がるその素材は、密度がわずか10mg/㎤前後。カーボンでありながら柔軟性があり、吸音・電磁波吸収特性も兼ね備える。


Image

名古屋大学 上野研究室 ブース

「宇宙空間では軽さが正義です。ロケットに積み込む装置は1gでも軽くしたい。だからこそ、極限まで軽い素材の意味があるんです」と上野智永教授は語る。宇宙基地の防音材や通信機器のノイズ対策など、過酷な環境での活用を視野に入れる。地上でも自動車やドローンの軽量化への応用が期待され、産学連携の相談も増えているという。

研究は2013年に着手し、2017年から本格化。上野教授が立ち上げたスタートアップ「SORA」を中心に実用化を進めており、テレビ番組にも取り上げられるなど注目度は高い。

動画:「空気に浮くほど軽い」カーボン素材

同大学の宇宙地球環境研究所では、太陽活動と地球内部の電流を組み合わせた「MT法」による地下資源探査を推進。太陽の動きが地殻探査の効率に影響することに着目し、宇宙天気と地上研究を融合させている。学際的な視点から、宇宙・地球・産業をつなぐ研究拠点として存在感を高めている。


Image

超軽量×超広帯域な吸収材料で拓くソラEMC

Image

メディアからの注目度も高い

名古屋大学 航空宇宙システム工学研究グループ ― 小型衛星の編隊飛行で宇宙通信の未来を拓く

名古屋大学の航空宇宙システム工学研究グループは、複数の小型衛星を連携させる「フォーメーションフライト(編隊飛行)」技術の研究を進めている。展示された衛星モデル「MAGNARO-Ⅱ」は、縦10×横10×高さ30センチほど。軌道上で二つの衛星が分離し、互いの距離を保ちながら通信を行う実証を目指している。

Image

名古屋大学 航空宇宙システム工学研究グループ ブース

「衛星を大きくすれば性能は上がりますが、ロケットの搭載制約がネックになります。複数の衛星を協調させることで、その限界を打破したい」と担当者は語る。フォーメーションフライトにより、海上や山間部など地上局が届かない地域でも通信を確保でき、将来的には地球全体をカバーする宇宙通信網の構築につながるという。

研究は2018年にスタート。学生主体で設計から制御までを手がけ、代々のチームが知見を引き継ぎながら改良を重ねてきた。前モデルで実証した分離機構の成果を反映し、最新機ではセンサーの追加や配線の最適化も進んでいる。2026年度の打ち上げを目標に、「MAGNARO FM」の準備を進めているそうだ。

会場では実機サイズの衛星が注目を集め、足を止める来場者も多かった。小型ながら高機能な学生開発モデルに、「大学発でもここまでやれるのか」と驚きの声が上がっていた。展示を通じて、若手研究者たちの挑戦が、宇宙通信の未来を一歩前に押し出していると感じられた。

Image

MAGNARO 2nd EM

Image

MAGNARO FM(予備機)

東京大学 宇宙資源連携研究機構 ― 模擬月・小惑星物質「シミュラント」で宇宙開発の現実解を探る

東京大学宇宙資源連携研究機構(CSRI)は、「宇宙にある資源を合理的に活用する」ことを目指す研究拠点である。展示では、月や小惑星の地表を再現した「天体模擬物質(シミュラント)」を紹介。NASAのアルテミス計画など国際的な宇宙資源開発の潮流を背景に、地球外資源の利用を現実的に進める技術として注目を集めた。

Image

東京大学 宇宙資源連携研究機構 ブース

シミュラントは、月や小惑星の鉱物組成や粒度を地球上の素材で再現したもので、探査機の着陸試験や資源採取の実験に用いられる。データをもとに「アポロ12号地点仕様」など、場所ごとの再現も可能だという。研究チームではトン単位の供給体制も整え、国内ではすでに20~30社が購入。夏休みの自由研究から企業の実験素材まで幅広く利用されている。

「現地の岩石を持ち帰らなくても、同等の条件で試験できるのが強み」と話す。世界的にも同様の精度で生成できる研究機関は少なく、アメリカやドイツなどからも高い評価を受けている。今後は模擬物質のパッケージ化を進め、宇宙ビジネス参入を目指す企業との連携を強化する考えだ。

「宇宙資源を使う」という発想を現実の技術に落とし込み、非宇宙産業にも門戸を開く同機構の取り組みは、宇宙利用の新たな経済圏を形づくりつつある。

Image

火星の衛星や、火星、月の「天体模擬物質(シミュラント)」

Image

宇宙資源探査装置

龍谷大学・京都大学 ― 木造人工衛星「LignoSat」で拓くサステナブル宇宙

木でつくられた人工衛星――世界初の試みとして注目を集める「LignoSat」が、展示会場の一角に存在感を放っていた。ブースでは実機と同仕様のモデルが公開された。

Image

龍谷大学・京都大学ブース

このプロジェクトは、龍谷大学と京都大学の共同研究によるもので、人工衛星の構造体に“無垢の木材”を採用している。

「木は地上では燃えたり腐ったりするが、宇宙では水も空気もないため、燃えず腐らない。しかも軽くて強い。さらに大気圏再突入時に完全燃焼して水と二酸化炭素に分解され、金属衛星のように大気を汚さない」と担当者は説明する。環境負荷を抑えた「エコ衛星」という新しい発想が、ここから生まれた。

LignoSatは2024年12月に初号機が打ち上げられ、約6か月間の運用を経て、木製衛星が宇宙空間で機能することを実証した。通信には一部課題が残ったが、衛星の構造維持や耐久性、電波の受信データなどから「木でも宇宙で十分使える」という手応えを得たという。

次期機では通信系を強化し、2027年に再び打ち上げを予定。温度変化や電磁波耐性、伸縮データなどを詳細に計測し、宇宙利用における木材の信頼性をさらに検証する計画だ。

興味深いのは、構造の組み立てに日本の伝統技術「留隠しアリ組み継ぎ」を採用している点である。釘やネジを使うと木が割れるため、職人による精密な手加工で、0.1ミリ単位の精度を実現したという。「宇宙工学と木工技術の融合」という異色のコラボレーションに、来場者の関心が集まっていた。

研究チームは、将来的に月や火星での木材利用にも期待を寄せている。

「木を育てて酸素を生み、資材や食料としても活用できれば、宇宙居住に新しい道が開ける」と語る言葉は、遠い未来を見据えていた。

Image

超小型木造人工衛星の基礎設計

Image

超小型木造人工衛星

東京大学 佐藤研究室 ― 建築構造の発想で“月面に広がる居住空間”をデザインする

東京大学 佐藤研究室が提案するのは、月面の南極域や縦穴(ラバチューブ)に設営できる「膨らむベースキャンプ」だ。

Image

東京大学 佐藤研究室 ブース

ブースでは、東京大学 佐藤淳教授からお話を伺えた。

佐藤教授の専門は建築構造。地震や台風に耐える建物を支える「構造躯体」の設計からキャリアを積み、建築家と協働して“軽く、透けるような構造美”を追求してきた。

「折りたためる構造や、展開する建築を研究しているうちに、これは月面でも応用できるのではと思ったんです」と佐藤教授は語る。

ランダー(着陸船)で運び、着地後に自動で展開。アルミ製の多面体を空気で膨らませて居住空間を形成し、ソーラーパネルや桟橋モジュールを一体化する。

展開構造の研究を生かし、地面の凹凸に合わせて自動的に水平姿勢を保つ脚部も独自に設計している。

「居住モジュールだけでなく、どうやって地面に立たせるか、どうやって展開するかまで“トータルで提案している”のがうちの特徴です」と語る。

このモジュールの実物大は約7×9メートル、高さ3メートル。

現在は小型試験機(約4kg)を月面に送り込み、展開テストを行う構想を進めているそうだ。「資金次第ですが、4~5年後には実証できる可能性があります」と教授。設計はすでに完了し、試作段階に入っているという。

興味深いのは、この技術が地球上の災害時にも役立つ点だ。「素早く展開できるので、被災地や僻地、山間部にも応用できます。災害支援や貧困地域支援にも使えるモジュールになる」と佐藤教授は話す。

さらに、居住部分をアルミで膨らませる構造は世界的にも珍しい。「ほとんどのチームは膜素材を使っていますが、アルミ製で膨らませる提案は世界でもうちだけです。耐久性と強度の両立を目指しています」とのこと。

今は、昆虫の羽の展開構造を応用したカーボン製ソーラーパネルの研究も進行中という。

Image

ベースキャンプセットアップのコンセプト(フライヤー)

Image

左側の形状で運び、膨らますと右側のように展開する


ライタープロフィール

Image

松永弥生(まつなが・やよい)
関西を中心に活躍するフリーライター。2000年からロボコン観戦を始め、三月兎のハンドル名でイベントレポートや動画で情報発信を開始。編集部からの依頼でライターデビュー。以来、ロボットや製造業関連ニュースをメディアに発信してきた。得意分野は、ロボットと製造業。モノづくりが大好き。文章講座やプレスリリース講座の講師としても活動中。


sample
PlaBase編集部
PlaBase[プラベース]

これまでカタログや材料メーカー各社のホームページ内に散在していた樹脂(プラスチック)成形材料の情報をPlaBaseに集約しました。 メーカー・樹脂名・物性値など多様な検索方法によって、お客様の目的に合った樹脂成形材料のデータを探し出すことができます。