われわれが今後、プラスチックとどのようにかかわっていくべきか、バイオマスマテリアルを専門に研究する九州大学 大学院農学研究院 北岡卓也教授に話を聞いた。今回は、CNFの実用化や普及の課題について解説する。
CNFの市場を拡大し、国際社会で日本の産業競争力を高めるために:九大 北岡氏に聞くCNF事情(3)

この記事では…
(執筆:松永弥生/ライター)
身近な用途から、CNFの実用化は始まっているが……
「植物由来のカーボンニュートラルな素材であるCNF(セルロースナノファイバー)は、さまざまな用途への活用が期待されている」と北岡氏は言う。
CNFの用途は、主に親水性用途と疎水性用途に分類される。水系用途は化粧品、食品、医療品といった粘弾性の改良や分散材料としての用途のほか、フィルター、セパレーターといった分離材料、担持材料としての用途が期待される。一例を挙げると、どら焼きや桜餅に食品用増粘剤として添加されるなど、実用化がされている。疎水性用途には、プラスチックとの複合材料や構造用部材などの高強度材料がある。

CNFの実用化例(出所:「脱炭素・循環経済の実現に向けたセルロースナノファイバー利活用ガイドライン」環境省)https://www.env.go.jp/earth/earth/ondanka/cnf/guideline_main.pdf
現在、さまざまな企業でCNFの研究開発が進んでいる。一例を挙げれば、横河バイオフロンティアが独自開発した「S-CNF」は、硫酸エステル基を有するCNFの粉末だ。
硫酸基は一般的な官能基であり、私達の体の中にも硫酸基を持った多糖類がたくさんある。CNFに硫酸基が入っているということは、体内の多糖類と類似の構造をしているため、医薬品やコスメなどへの活用が期待できる可能性がある。しかしながら、こうした用途だけでは市場は小さい。
政府は、CNFを高強度材料として自動車部品、家電製品筐体や、高機能材料として住宅建材、内装材への活用を期待している。軽量化や断熱などによるエネルギー消費の削減につながり、地球温暖化対策に大きな貢献を見込めるからだ。

横河バイオフロンティア「S-CNF」のサンプル(出所:「「関西 サステナブルマテリアル展」で見たバイオプラスチックのいろいろ(後編)」)https://plabase.com/news/7999
そうなれば、もちろんCNFの市場規模も大きくなる。
代替の利かない材料としてCNFの社会認知度を高めることが重要
今後は、CNFをどのように市場に普及させるのかが課題となっていく。その時に大きなハードルとなるのが価格だ。
社会情勢により原料価格は変動するものの、紙は1㎏50円。ポリエチレンは、1㎏で10円もしない。それに対して、CNFの価格は1000円以上だそうだ。CNFの性能が紙やポリエチレンと同等だとしたら、価格では全く対抗できない。
もちろん製造工程の改良や、マスプロダクション化により効率をあげ、CNFのコストは下がっていくだろう。政府もCNFの低コスト化を強力に後押ししている。しかしながら、最初から紙や合成ポリエチレンと同じレベルの量を社会で使うというのは現実的な話ではない。
考えられるのは、CNFでなければ実現しない材料機能や、合成高分子系では実現しない環境適合性を示して活用することだ。「代替の利かない材料としてCNFの社会認知度をあげることが非常に重要だ」と北岡氏は言う。
このフェーズになれば、選択条件は価格ではなくなる。そうした絶対的な付加価値を示しつつ、費用対効果の偏重からエシカル優先の社会変容を経て、現在普及しているプラスチック素材とCNFの置き換えや共存を進めるのが現実的な路線だと、北岡氏は提言する。
日本から国際標準化のための企画案を提案
CNFは、日本発の新しい高機能材料として世界に向けて需要拡大が期待されている素材だ。再生可能な資源を用いて、さまざまな可能性を有しているCNFは、世界中で研究開発が行われている。中でも森林資源が豊富なフィンランドやスウェーデンでは、国が牽引し、産学官が連携してセルロースナノマテリアルの安全性試験を進めており、実用化、事業化に向けて世界をリードしている。残念ながら、日本はそうした対応が遅れ気味だという。
CNFの国際標準化が進められている中、規格化の波に乗り遅れてしまっては、国際競争に勝てない恐れがある。国際標準化は、標準を決めた国が勝つという傾向があるからだ。日本は、デジタルやITで規格化競争に敗れ、後進国のような立ち位置になってしまった。CNFで同じ轍を踏まないためには、国際標準化で勝たなければならない。
2020年4月に、民間企業を主体としたナノセルロースジャパン(NCJ)が発足した。産官学連携によるナノセルロースの技術開発・普及を行い、また会員企業間の協業による事業化を推進することでナノセルロースの実用化・産業規模の拡大を図り、さらに国際標準化を進めて日本の産業競争力を高めることを目的とした団体だ。
今後一層、産官学民が一丸となり、日本が主導してCNFの国際標準化を進めることが望ましいと北岡氏は語った。

(終わり)
松永弥生(まつなが・やよい)
関西を中心に活躍するフリーライター。2000年からロボコン観戦を始め、三月兎のハンドル名でイベントレポートや動画で情報発信を開始。編集部からの依頼でライターデビュー。以来、ロボットや製造業関連ニュースをメディアに発信してきた。得意分野は、ロボットと製造業。モノづくりが大好き。文章講座やプレスリリース講座の講師としても活動中。

