デザイナーやメーカーのサステナブル素材への想い:PlaBase Innovation Hub 2024(3)

PlaBaseは2024年2月29日、渋谷キューズ(東京都渋谷区:会場協賛)で、ディスカッションイベント「PlaBase Innovation Hub
2024」を開催しました。プラスチックを開発・提供する側の化学企業、そしてプラスチックを使う側のメーカーが登壇。それぞれ自社のサステナビリティ関連の取り組みを紹介つつディスカッションを繰り広げました。
前回は、石油化学メーカーの独BASF社の日本法人であるBASFジャパン株式会社のプレゼンを紹介しました。
今回は、株式会社雪花(secca inc)のプレゼンと、株式会社ORPHE、アロン化成株式会社、金森産業株式会社によるディスカッション「製品開発〜ものづくりの最前線/現場から試作まで」の内容をお届けします。
伝統工芸と新しい素材技術の融合――secca inc

デザイン企業のsecca incは、一品物から量産品まで幅広いプロダクトのプロジェクトにかかわっています。金沢市内の工房では陶磁器や木工などを中心に、価値の最大化の追求を目指した実験的なものづくりをしています。一方で、メーカーなど他社から相談を受けデザインを担う場合もあります。異なった流れの事業から得られる知見を生かし、自分たちが作り上げる価値を、社会に広く届けられるようにしているそうです。過去には、料理人とのコラボによるテーブルウェア、イベントやホテルのエントランスのオブジェ制作などに関わっています 。
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seccaのミッションは「新価値の造形」。「形あるモノだけではなく、『形のないこと』も含めた、新しい価値を形作る」ことを心がけているとsecca inc 代表取締役の上町達也氏は述べます。日本固有の伝統工芸において、過去の伝統を敬い学んだ上で、新しい視点と最新の技術を積極的に取り入れながら今求められるカタチへアップデートすることで、現代の工芸の可能性を探究しているといいます。
seccaの制作物は、プラスチックに限らず、漆や木材、溶岩など、多岐にわたる素材が使われますが、それぞれの素材に精通した専門家や伝統工芸家とのコラボレーションも積極的にしています。そうした最中では、「伝統工芸とは何か」と言われるとき、しばしば「100年以上など、長年にわたり継続されてきたもの」を条件に語られることがあります。上町氏いわく、「100年以上前に、誰もやっていなかったことにチャレンジした人がいたからこそ生まれたこと」。seccaでは、伝統工芸がそう定義されることがあるからといって、新しい技術や素材の価値を否定するのではなく、伝統工芸の延長線上にそれらを位置づけつつ、積極的に取り入れています。例えば陶器にチタン蒸着膜を付加し、虹色の茶碗を実現するなどです。3Dプリンターの造形物に漆塗りを施すこともあります。
seccaでプロジェクトが始まる際に、必ず行うことが、「問いを立てる」(解決すべきことは何かを考える)。「社会問題や今後の課題を客観的に見据えて、課題を抽出することがこれまでのデザイナーの役割だった。今後は、AIなどの加速でいろいろなものが超効率化していくからこそ、属人的な視点を大事にしてもよいのではないか」と上町氏は語ります。
そうして立てた「問い」に対する「答え」は、モノをインタフェースのようにして、モノに伴う体験によって人に伝えていくようにするのだそうです。そうした考えやメッセージは、seccaが一方的に投げかけるものではなく、日々の人との出合いや対話の中などから得られるものであって、それが「これからの豊かさのヒント」になるのではないかと上町氏は述べています。
プラスチックの価値を再定義する
seccaとともに生み出すモノが、依頼主がお客さんに伝えたい大事なメッセージを伝えるための大事なインタフェースとなります。それらを生み出す種となる、問いやコンセプトは、依頼主などseccaをめぐる周囲の人たちとの交流から生まれるものです。
メーカーとの協業事例の1つとしては、PlaBaseでも紹介した石川樹脂と展開する食器シリーズ「ARAS(エイラス)」や「Plakira(プラキラ)」があります。
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このプロジェクトを開始した当初、2016年ごろは、海洋のプラスチックごみによるウミガメの被害がテレビなどでセンセーショナルに報じられていたころ。上町氏は、プラスチックの価値とは一体何なのか、よく分からなくなってしまったと言います。それが、石川樹脂と対話する中で、プラスチック(樹脂)の置かれている現状や可能性について知見を深めていき、「海洋ごみの問題については、人のふるまいの方に問題があるのでは」という考えに至り、世の中のプラスチックに対する誤解を解きたいと思ったのだそう。そうした認識を石川樹脂と共有し、プラスチックの素材自身にある問題にも向き合って、「価値の伝えなおしをどのように行っていくのか」を議論していきました。

secca inc 代表取締役の上町達也氏
従来のプラスチック製品は、安定した品質で、同形状のものを、安定して生産することを目指してきました。上町氏は、「工芸品に関わってきた我々からすると、一つ一つに個性があってほしい。それが店頭で並んだ時に自分が好きな表情を選ぶ、そんなプロダクトが量産でも実現できないか」と考えたといいます。このプロジェクトでは、食器を造形する陶器やガラスを、単純にプラスチックに置き換えるのではなく、軽くて丈夫なプラスチックだからこそ実現できる(など)新しい食体験を実現しようと取り組みました。素材として、実際には「トライタン」(コポリエステル樹脂)とガラス繊維を混合した樹脂、海水ミネラルを50%含んだ樹脂「NAGORI®」を採用しています。
石川樹脂との新ブランドや素材は非常に注目を集めることになり、後にラグジュアリーホテル「星のや」とのコラボでARASでも使用したトライタンを採用したウォータージャグ、伊藤園によるお茶の広報活動を目的に企画された「理想の急須」といったプロジェクトにつながっていきました。このような事例の誕生が、再定義されたプラスチックの素材の魅力や価値が、企業や消費者にしっかりと受け止められている証の一部といえます。
「モノ・コトが増えた今だからこそ、モノを作るためには、それなりの覚悟を持つ」と上町氏。変化し続ける社会の中での課題、人々の抱える不安などに応じて、モノの価値や、そこに採用される素材も再定義されていくべきであり、その役割を担うのが「デザイン」であると、締めくくりました。
スマートシューズとサステナブル素材の融合――製品開発〜ものづくりの最前線/現場から試作まで

ORPHEは、シューズにセンサーを内蔵して、シューズを履いた人の歩行時や走行時に、足の動きのデータを収集してアプリ上で可視化できる仕組みを開発しています。
ORPHEは、金森産業による試作サービスのPlaQuickのユーザーです。PlaQuickの試作を経て誕生したのが、「SHIBUYA 2.0」でした。以後、センサーの改良と併せて「SHIBUYA 3.0」へアップデートされています。

SHIBUYA 3.0
ORPHEのプロジェクトマネジャー宮田知起氏は、自分が開発したスマートシューズを日頃から愛用しています。「運動が好きなので、週末はスポーツジムで汗を流したり、普段の業務で関わった技術について自分で手を動かして触ったりして過ごしています」と話します。2022年にはSHIBUYA 3.0を履いて、東京マラソンにも出場しています。
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ORPHE プロジェクトマネジャー宮田知起氏
PlaQuickでは、スマートシューズ用のセンサーデバイス「ORPHE CORE」 をシューズに格納するための機構の試作を担いました。
「試作をスピーディー、かつ密に相談できる成形屋さんを探していた中でPlaQuickに辿り着いたのですが、そこで対応していただいたのが(金森産業の)泉さんでした」と、宮田氏は過去の出合いについて振り返ります。
PlaQuickでは、上記のプロジェクトの他、インソールの試作も行っています。PlaQuickを担当する金森産業の泉 規靖氏は、プラスチック部品試作や成形に長年かかわってきたベテランです。「第一条件としては、シューズ内部にあるLED光を透かすために、インソールを透明にすること。さらにはインソールの要求特性はこれまで通り、クッション性や弾力性などが必要。さらに『滑らないことがマスト』というような要求がありました。『エラストマーになるか』と思いつつ、『どうしようかな』と悩みました」(泉氏)。

アロン化成 主事の清水達記氏
そこで泉氏の頭にふと思い浮かんだのが、アロン化成 主事の清水達記氏のことであったといいます。
「泉さんから相談を受け、いろいろ試しました。当社の素材は過去にも健康サポート用のインソールには採用いただいてましたが、スマートシューズのインソール開発は初めて」と、清水氏は言います。アロン化成側としては、自社の素材で透明性や柔軟性はクリアできたものの、表面の摩擦感やグリップ力を最適にすることに苦労したということです。結果としては、エラストマーを発泡成形させることで表面の凹凸を強くして摩擦感を低減させる方法を提案します。
しかし、「発泡」と「透明性」はトレードオフになります。発泡させてしまうと樹脂の透過度が落ちていくからです。清水氏からこうした説明を受けた宮田氏は、「透過度が少し失われたくらいの方が、光を拡散するとなったときにきれいに見えるのではないか」とプラスの印象を受けたと述べています。
諸々の事情から、残念ながらこのインソールの上市は実現していませんが、そこから学びは多く得られ、「いろいろなことに挑戦できてよかった」と泉氏。
「新しいことに取り組む際には試作を重ねつつ、コミュニケーションを取りながら、各々の固定観念を取り除くプロセスが非常に重要だと感じました。今でもその経験が活きるシーンは多いです」(宮田氏)
「難しい案件でしたが、大変良い経験になりました。このような要求特性が材料の物性数値で表現しにくい用途は、何よりもまず形にするのが一番効率が良いということを改めて実感しました」(清水氏)
アロン化成は、以前よりサスティナビリティ製品の研究開発を進めており、2023年6月には環境配慮型エラストマー「GRiNABLE(グリネーブル)」を上市。さらに最近は海産廃棄物をエラストマー原料として有効活用したバイオ比率20%の環境配慮型エラストマーも開発しました。この海産廃棄物由来のバイオマスエラストマーは抗菌や抗ウイルス、消臭といった機能を有しているため、今後さまざまな用途への展開を期待しているところであるといいます。
そして、このグレードを清水氏から紹介された泉氏は、抗菌、抗ウイルス、消臭、防カビといった特徴があるこの素材が、「あのインソールにもよさそうではないか」とひらめきます。会場では、過去のインソール試作の金型を使用した、海産廃棄物由来バイオマスエラストマー製のインソールを披露しました。
「靴を履いていると、特に夏場は湿度が上がり、それがカビや水虫、臭いの原因になります。実は、履いていなくても、保管方法によってカビが生えるので、各メーカーはその保管方法などにも気を使っています。梱包材などで防カビ対策などを行うことも多いのですが、それを樹脂材料の機能でシューズ自体に付与できるということはメーカーもそうですし、ユーザーにとてもメリットがあります。もちろん、評価をして実用レベルに落とし込む必要はありますが、さまざまな機能を持ち、さらにサステナブルな材料は個人的には非常に楽しみな材料です」と宮田氏は評価していました。
果たして発泡エラストマーインソールが復活するのか、またこの素材が採用されるのかどうか、現状ではまだ未確定ではありますが、今後の3社の新展開に期待です。

金森産業の泉 規靖氏
次回にもご期待を――PlaBase編集部より
PlaBaseInnovation Hub 2024は、ディスカッションイベントの後、懇親会を開催。会場の皆さんと和やかに談笑や議論をさせていただき、有意義な時間を過ごすことができました。
インターネット上だけではなく、PlaBase Innovation Hub のような実地で、PlaBaseのデータ利用者、記事読者、そしてPlaBaseを支えてくださるお客さまとの交流の場を、今後も提供していきます。今後の開催に期待していただくと共に、「このようなテーマで開催してほしい」、あるいは「こんなイベントをやってほしい」などご要望がありましたら、PlaBase編集部までご一報いただけましたら幸いです!
これまでカタログや材料メーカー各社のホームページ内に散在していた樹脂(プラスチック)成形材料の情報をPlaBaseに集約しました。 メーカー・樹脂名・物性値など多様な検索方法によって、お客様の目的に合った樹脂成形材料のデータを探し出すことができます。

